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契約結婚が大きく変わる時
契約結婚が大きく変わる時8
しおりを挟む「私、実家に帰ろうと思うんです」
仕事から帰ってきた匡介さんに「おかえりなさい」と言うのも忘れてそう言った。寧々とも話してみて、やはり両親に話を聞いてみない事には何も始まらない。そう思ったから。
けれど私がそう言った瞬間に匡介さんから表情が消えてしまった。というか、彼の目がどこを見ているのかも分からない。
「あの、匡介さん……?」
「……限界ということか?」
低い声で言われた言葉の意味が分からない、限界とはいったい何のこと? けれど私を見つめる匡介さんの瞳は真っ直ぐで、どこか切なさを感じさせてくる。
「あのですね、私は実家に帰らせてもらえないかと思って話をしようと……」
「やはり君は俺と暮らすことに限界を感じてるんだな? すまなかった、今すぐ杏凛の両親に連絡をして迎えに来てもらおう」
私に最後まで言わせず、匡介さんは言葉を被せるように早口でそう言いきった。
だけどその内容は私の考えていることとは全くズレていて、彼が何か誤解をしているということだけは理解出来た。
「違います! どうしてそんな話になるの? 限界なんて一言も言ってませんし、早とちりは止めてください」
私は両親に話を聞きに帰りたいだけなのに、匡介さんの言い方ではまるでこの家を出ていきたいみたいに聞こえるじゃない。
「じゃあどうして実家に帰りたいなんて言うんだ? 俺は最初から覚悟は出来ているのだから、本音をぶつけてくれて構わない」
匡介さんは誤解をしたまま私の言うことなど聞こえていないみたいに話す。何の覚悟ができているのかは知らないけれど、さすがに腹が立ってきたわ。
「最初から本音で話しています! 私は昨日の天然石の話を両親に聞きに行こうと思ってるだけですから!」
そういった瞬間、匡介さんの顔色が変わった。さっきまでとはまた違う、彼は戸惑うように目を泳がせている。
「それは……駄目だ。そんな理由なら実家に帰ることは許さない」
「何故ですか? これは私にとって何か大事な気がするんです。だから……!」
唸るように言われた言葉に私も戸惑ったが、それだけで「はい、そうですか」と納得出来ることじゃない。それなりに考えて寧々にも相談して出した答えなのに……
「一人が駄目ならば、寧々も一緒に行ってくれることになっています。それでも駄目ならば、きちんと理由を教えてください!」
「誰が一緒でも駄目なものは駄目だ、悪いがこの話はこれ以上する気はない」
そう言って私の隣をすり抜けて、匡介さんは自分の部屋へと入ってしまう。
その日の彼は夕飯だと呼んでも、お風呂だと声をかけても私が眠るために自室に入るまで決して出てくることはなかった。
眠れないままベッドの上で瞼を閉じたり開けたりを繰り返していると、匡介さんが静かに自室から出てバスルームへと向かう足音が聞こえ悲しくなる。
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