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契約結婚が大きく変わる時

契約結婚が大きく変わる時4

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「気が付いたか、杏凛あんり

「ここ……は?」

 料理教室で倒れ、鵜方うがた先生の病院に連れて行かれた事だけは何となく覚えてる。でも今いる場所は慣れた鵜方先生の病院のベッドでもなく、いつも眠っている私の部屋でもない。
 起き上がらずに首だけを動かして周りを見ると、どうやらここはホテルの一室らしい。

鏡谷かがみやコンツェルンが経営しているホテルの一つだ、今夜はこの部屋に泊まるから無理をしないで眠っていると良い」

 どうやら鵜方先生の医院に近いホテルへと私を運んできたらしい。いつでも先生と連絡が取れるように、と言ってたけど相変わらず匡介きょうすけさんは過保護だ。

 それにしても、今日の発作はいつもよりとても苦しかった。頭がガンガンと痛み、怖くて呼吸もままならなくて……
 何かを訴えてくるかのように警報音のような何かが鳴り響いているようだった。

「匡介さん、今日の私は……いつもと違っていましたか?」

 自分ではいつもと違うと感じたが、匡介さんから見た私はどうだったのか。今はそれを知りたいと思って聞いてみた。

「……発作が起こる前、君に何があったのかを詳しく聞きたい。鵜方先生はそう言っていた」

「発作が起こる前、ですか……」

 いつもと大きく違う事はしていない。普段と変わらず月菜つきなさんと話をして調理をし、片付けを終えて調理室を出た。
 その時に近くにいた女性のブレスレットから落ちた天然石を拾って、それで……




「……天然石? もしかして、あれが?」

 そう言えば先日、封筒に入れられた天然石を見た時も何か違和感を感じた。深くは考えなかったけれど、あれから何となく落ち着かない気分になって……
 よく考えてみれば、私は天然石のアクセサリーを一つも持ってはいない。綺麗だとは思うけれど、何故かいつも欲しいとは思わなかった。

「天然石? 君はそれをどこで目にしたんだ……?」

「料理教室の生徒さんのブレスレットが切れたの、それを拾って渡しに行こうとしていたら強い眩暈がして……」

 いつもの発作は呼吸が苦しくなることがほとんどで、あんなふうに目の前が真っ暗になる感じはなかった。一気に意識を失わさせられるような、そんな強さは。

「それを見て杏凛あんり、君は……いや、何でもない。その天然石はどうしたか分かるか?」

「多分、倒れた時に手から零れ落ちたと思うわ。ねえ、匡介きょうすけさんはその事について何か知っているの?」

 私がさっきの事を話すたびに、匡介さんは何か考えるような仕草を見せる。それが私の中でずっと引っかかっていた。
 この人は私の知らない何かを、本当は知っているんじゃないかって。

 もし知っているのだとしたら、何故私にそれを教えてくれないのか? それがただの過保護からくるものだとは思えなかった。
 それなのに……

「今の杏凛に話せるようなことは何もない、今は余計な事は気にせず休んでいなさい」


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