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契約結婚の温もりに触れて
契約結婚の温もりに触れて3
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心が落ち着いて来れば次第に、今自分がどのような状況に置かれているのかを理解する。私がいる場所はリビングのソファーだが、いつもとは決定的に違う事があった。
……私のお尻が乗っているのはいつものふかふかソファーの上ではなく、匡介さんの筋肉質な太ももの上なのだから。
まともに抱き合う事すらない私達なのに、今はこんなことになってるなんて……
「あの、私すぐに降りますから……」
そう言いながらも自分の腕はしっかりと匡介さんの首に回されている。やはり今すぐ離れるのは不安の方が大きかった。
そんな私の本心を匡介さんは全て見抜いているかのように、先ほどから耳を塞いでいた手の指先で優しく私の栗色の髪に触れる。
「杏凛が気を使う必要はない、俺がやりたくてやっている事だ。頼むから夫としての役目を奪わないでくれ」
「で、でも、それでは……きゃあっ!」
それでも悪いからと匡介さんから身体を離そうとした瞬間、また空が眩しく光る。稲光が恐ろしくて、気がつけばまた匡介さんにしがみつきブルブルと震えていた。
甘えていい、そう言われると人間は弱くなるのかもしれない。いつもは誰かに抱き着いたりしないのに、匡介さんが手を広げてくれるから飛び込んでしまいたくなるの。
「そんなに甘やかして、優しくばかりしないで……」
何度もこうやって優しく助けてもらっていると、どうしたって心の奥が揺らいできてしまう。
本音も弱みもさらけ出してしまって大丈夫なんじゃないか、この人なら全部受け入れてくれるんじゃないかって思ってしまうの。
私はそんなに強い人間じゃない、こうやって手を広げられれば、甘えてしまいたくなるのよ。その相手が契約で結ばれた夫だとしても……
「妻の君を甘やかすのは夫である俺の役目だ、何度も言わせないでくれ」
ほら、そうやって自分の意見はちっとも曲げようとしない。匡介さんはいつだってそうなんだわ、私ばかりがこの人によって変えられてしまいそうになる。
「どうせいつか私から離れていくつもりのくせに……」
二人の結婚の契約期間は三年、きっと残りの時間もあっという間に過ぎていく。今のままじゃ、二人の未来はそれ以上見られないのにこんなに優しくするなんて狡い。
「離れたりしない。もし……君が望んでくれるのなら、俺は杏凛から一生離れたりなどしない」
「……匡介さん?」
真剣な声、きっとその場しのぎの言葉なんかじゃない。それくらいは私でも分かるけど、匡介さんの言葉の意味が理解出来ない。
私が望むならと彼は言ったけれど、それでは匡介さんの気持ちはどうなるの? 祖父の会社を立て直したら、彼をこの結婚から解放できるはずだったのに……
だけど、そもそもこの契約結婚は匡介さんに何のメリットがあったというの?
……私のお尻が乗っているのはいつものふかふかソファーの上ではなく、匡介さんの筋肉質な太ももの上なのだから。
まともに抱き合う事すらない私達なのに、今はこんなことになってるなんて……
「あの、私すぐに降りますから……」
そう言いながらも自分の腕はしっかりと匡介さんの首に回されている。やはり今すぐ離れるのは不安の方が大きかった。
そんな私の本心を匡介さんは全て見抜いているかのように、先ほどから耳を塞いでいた手の指先で優しく私の栗色の髪に触れる。
「杏凛が気を使う必要はない、俺がやりたくてやっている事だ。頼むから夫としての役目を奪わないでくれ」
「で、でも、それでは……きゃあっ!」
それでも悪いからと匡介さんから身体を離そうとした瞬間、また空が眩しく光る。稲光が恐ろしくて、気がつけばまた匡介さんにしがみつきブルブルと震えていた。
甘えていい、そう言われると人間は弱くなるのかもしれない。いつもは誰かに抱き着いたりしないのに、匡介さんが手を広げてくれるから飛び込んでしまいたくなるの。
「そんなに甘やかして、優しくばかりしないで……」
何度もこうやって優しく助けてもらっていると、どうしたって心の奥が揺らいできてしまう。
本音も弱みもさらけ出してしまって大丈夫なんじゃないか、この人なら全部受け入れてくれるんじゃないかって思ってしまうの。
私はそんなに強い人間じゃない、こうやって手を広げられれば、甘えてしまいたくなるのよ。その相手が契約で結ばれた夫だとしても……
「妻の君を甘やかすのは夫である俺の役目だ、何度も言わせないでくれ」
ほら、そうやって自分の意見はちっとも曲げようとしない。匡介さんはいつだってそうなんだわ、私ばかりがこの人によって変えられてしまいそうになる。
「どうせいつか私から離れていくつもりのくせに……」
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「……匡介さん?」
真剣な声、きっとその場しのぎの言葉なんかじゃない。それくらいは私でも分かるけど、匡介さんの言葉の意味が理解出来ない。
私が望むならと彼は言ったけれど、それでは匡介さんの気持ちはどうなるの? 祖父の会社を立て直したら、彼をこの結婚から解放できるはずだったのに……
だけど、そもそもこの契約結婚は匡介さんに何のメリットがあったというの?
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