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契約結婚の優しさに触れて

契約結婚の優しさに触れて4

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 私は捻くれてて可愛くない妻なのに、この人はどうしてここまでしてくれるの? こうやって優しさをくれるのに、私が気にしている事には答えをくれなかったり。
 いっそ思いきり傲慢な夫でいてくれれば、私だって強情な妻の姿だけを見せていられるのに。そっと被ったシーツを剥がしてくる彼から逃れるように、私はギュッと目を閉じる。

「……こっちを向いてくれないか、杏凛あんり。君ときちんと向き合って話がしたい」

「嫌です」

 そう言ったもののそれ以上は触れてくることも無く、静かに待っているだけの匡介きょうすけさんに結局私の方が根負けしてしまって。
 諦めるようにゆっくりと身体を匡介さんの方へと向ける。

「匡介さんて意外と粘り強いですね。普通の人なら私みたいな女の相手なんてすぐ止めてしまうのに」

 これは本当の話で、私が見合いをした相手は匡介さんが初めてではない。私の病気や性格を理由に何度も相手の男性から断れれてきたのに、そんな私から匡介さんは離れようともしない。

「当たり前だ、すぐに諦めるられるならこんな手を使ったりしてまでいない。君が思うほど俺は潔い性格はしてないんだ」

「……意味がよく分かりませんが?」

 何か深い意味があるようだけれど、それを私に教えるつもりはないような言い方。余計に気になる事を増やされて、こっちの方が何となく焦らされているような気分になる。




「……分からないように言わなければ、君は逃げるだろうからな」

「なんですか、それ」

 私に話す気が無いのなら中途半端に教えなければいいのに。それとも匡介きょうすけさんは心のどこかでその事を私に知って欲しい気持ちがあったりするのかしら?
 その無表情からは相変わらず匡介さんの気持ちをうかがい知ることは出来なくて。

「もうその話は良い、鵜方うがた先生が来るまで少し身体を休めていてくれ」

 自分の都合が悪くなると、そうやって誤魔化すのかと言いたかったけれど止めておくことにする。この人がこれ以上言わないと決めたことは、私が何度訪ねてもきっと教えてはくれない。
 昨日の夜に彼が何をしていたのかを話してくれなかったように……

「そうですね、無理に話してくれなくてもいいです。所詮、私は契約妻にすぎませんから」

杏凛あんり、俺は……」

 自分の立場を再確認するように「契約妻」と言葉にすれば、匡介さんの口元が僅かに歪んだ。そんな彼の言葉の続きを聞くのが怖くて、匡介さんの言葉を遮るように……

「すみません、変な事ばかり言って。やっぱり疲れてるのかも、少し休みますね」

 もう一度彼に背を向けるようにしてベッドに潜り込むと、匡介さんが小さく息を吐く音が聞こえて。

「きちんと話しておくべきだった、聞いてくれないか杏凛。昨日の夜、俺は————」


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