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契約結婚が想像と違います
契約結婚が想像と違います9
しおりを挟む「映画、ですか? いえ、私はあまり流行り物を知らないので……」
なぜ映画の話をしてくるのか、匡介さんは会話の内容を急に変えることがあるので私はまだ上手くそれについていけないでいた。
彼は私の返事を聞くとしばし考えるようなそぶりを見せて、スマホを取り出し操作し始める。
「あの、匡介さん? 私は今、この洋服について話をしてるのですが……」
仕事の事で何か連絡があったのならば邪魔しては悪いと思いながら、控えめに彼に伝えてみる。すると匡介さんはスマホの画面を私に差し出す様に見せてきて……
「今度の休みは二人でこの映画を見に行こう、君の服は……そうだな、これにするといい」
スマホの画面に映された恋愛映画のタイトルを驚いて見ていた私に、彼は一人勝手にその日の服を選んで渡してくる。
「匡介さん? あの、今私がしているのはそういう話ではなくて……」
「その次の休みは、水族館がいいか。だったらこれが良いだろうな。で、その次が……」
匡介さんは私の意見を聞かないで、次々と二人で出かける予定を立てていく。私にそれを断る暇さえ与えてくれないように感じた。
「二人で出かけるのにお洒落をして欲しい、そんな夫の願いを叶えてくれないか? 杏凛」
もしかして、匡介さんは私が遠慮しなくていいようにこんな事を? とても分かりにくい優しさだけど、その言葉に少しだけ心の奥が温かくなってくる。
「匡介さんがそうおっしゃるのならば……」
「ああ、そうしてくれ」
こんな時でも素直に嬉しいという感情を見せる事の出来ない私、でも匡介さんはそんな私に嫌な顔をしたりはしない。いつも通りの無表情なまま、会計を済ませる横顔からは彼の考えを知ることは出来ない。
たくさんの服を匡介さんに持たせられるわけもなく、スタッフに配送を頼むと二人で店を出る。思ったよりも時間が過ぎていたようで、お腹がくうっと音を立てる。人ごみの中そんな小さな音は、きっと匡介さんには聞こえないだろうと思っていたのに……
「そろそろ昼食にしようか、杏凛。君は何か食べたいものはあるか?」
「……え? ですが、まだ匡介さんは早く帰って休みたいのでは?」
疲れているはずの彼をあまり付き合わせるのも悪いと思い、なるべく早く家に帰るつもりだったのだけれど匡介さんは違ったらしく……
「さっき少し休んだから問題ない、俺が今優先したいのは睡眠ではなく杏凛との時間なんだ」
「……そうですか」
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