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契約結婚が想像と違います

契約結婚が想像と違います5

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 寧々ねねが急いで玄関へと向かい、私も立ち上がると彼女の後をついて行った。

「おかえりなさいませ、旦那様。結婚したばかりの新妻を置いて朝帰りとはいい御身分で」

「ね、寧々!?」

 もともと私の世話をしてくれていた使用人だという事もあり、彼女は初夜すら一緒に過ごそうとしなかった匡介きょうすけさんに怒り心頭なのだろう。さっきまで私を励ましていた笑顔は消えて、匡介さんを鋭く睨みつけている。

「……すまない。昨夜の用事は前々から決まっていたことで、どうしても反故出来ない約束だったんだ」

 私と寧々を見つめて無表情のまま話す彼に、昨日の後ろめたさがあるのかさえ分からない。私達の結婚式だって昨日今日決まったことではないのに、なぜそちらを優先されなければいけなかったのか?

「だから、その用事っていうのは何です? 奥様には言えないような相手との約束だなんて言いませんよね?」

 寧々は匡介さんを相手に問い詰める事を止めようとしない。私の為なのはわかるけれど、そんな事をして匡介さんが寧々をクビにしないかとハラハラしてしまう。

「そうだ、杏凛あんりにも今はまだ話すことが出来ない。悪いが少し部屋で休ませてもらう、杏凛は寧々とゆっくり過ごしているといい」

 それだけ言うと匡介さんは疲れた様子で自分の部屋へと入って行ってしまう。カチャリと中から鍵をかけられた音がして、なんとなく彼が私の事を拒絶しているように感じた。




「何です、あの態度! 奥様が一人で帰りを待っていたというのに、信じられません」

 怒りを隠そうともしないで、寧々ねねは朝食の後片付けを始める。残されたままの一人分は彼女が「私の昼食にさせてもらいます」と言ってくれた。
 新婚初夜に私を家に一人残してまで、会わなければいけない相手とはどんな人物なのか気にならない訳がない。しかしそれすら匡介きょうすけさんは私に話す気はないと……

「私って、本当に何の価値もない妻なのね……」

 期待してはいけない、そう思って匡介さんと結婚したはずなのに現実の扱いを知るたびに肩を落としてしまう。昨日見せてくれた優しさも、やはり彼の気まぐれだったに違いない。

「そんな事はありませんよ、杏凛あんり様の良さも分からないような旦那様で私はガッカリです」

 そうやって寧々は何度も私を励ましてくれる。
 だけど……私達にとって特別な夜に約束を交わすような相手が他の女性だとしたら? 私の中で浮かんだのはいつも匡介さんの傍にいた女性、あの人は結婚式に来ていなかったから。
 あんなに素敵な女性がすぐ傍にいれば、私のような女は霞んで見えるでしょう。それなのに匡介さんは何故私を契約妻に選び、祖父の会社を立て直してくれると言うのか……この結婚は分からないことだらけで。

「彼には隠さなきゃいけないような事があるのよね、きっと」

 ふう、とため息をついて匡介さんの部屋の扉を見つめてみる。

「浮気だったら、許しませんけどね! 私は」

 そう言って持っていた掃除機を振り回す寧々が逞しすぎて、沈んだ気持ちだったのに思わずつられて笑ってしまったの。


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