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契約結婚が想像と違います

契約結婚が想像と違います3

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【ピピピピッ……】

 目覚まし時計の音で目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。緊張で寝付けないかと心配したけれど、疲れてたこともありぐっすりと眠ってしまっていた。
 私はパジャマを脱ぐと用意していた動きやすい服に着替えてキッチンへ。二人分の朝食くらいは用意しようと思って、冷蔵庫を開けると中にはきちんと食材が並べて用意されていた。

 和食、洋食……匡介きょうすけさんの好みを私は知らない。私は無難にパンを焼きオムレツやサラダを作る事にした。匡介さんは好き嫌いが少なそうな感じがするし、大丈夫でしょう。
 朝食の準備が終わって、匡介さんの部屋をノックしても返事はない。まさか意外と彼は寝起きが悪かったりとか……? 不思議に思ってそっとドアを開けると鍵はかけていなかったようで、そのまま扉が開いた。

「……え、匡介さん?」

 室内に匡介さんの姿はなく、寝具も整えられている。もしかして昨日、彼はここで休んでいないのかもしれない。だけど、いったいどこへ?
 キョロキョロとあちこちを見て回るけれど、やはり匡介さんはどこにもいない。

「数日は仕事も休みだと言っていたのに……」

 まさか結婚してすぐに新居に一人にされるとは思っていなかった。休みの間に契約結婚とはいえ少しくらいはお互いの事を知るために時間を使えるのだと思っていたのだから。
 でも、現実に迎えた契約結婚の朝はそう甘くはなかった。朝食を作っても一緒に食べることも出来ないなんて。

 


 せっかく作った朝食を食べる気にもなれず、私はソファーへと座り込むとボーっと壁掛け時計の時間を見つめていた。時計の針はまだ七時前を指しているというのに……
 まさか結婚初日からこんな風に家で一人きりで過ごすことになるなんて、自分が妻という立場以外何の価値もないように思えてくる。

 カチャリ……ガチャ

 玄関の扉が開いた音がして、私は立ち上がり急いでそちらへと向かう。匡介きょうすけさんが戻ってきたのかもしれない。そう、思ったのだけれど……

「あら、もう起きていらしたんですか? おはようございます、杏凛あんりお嬢様」

寧々ねね……貴女、なぜこんな朝早くに?」

 玄関の扉を開けたのは使用人の寧々だった、彼女には鍵を預けてあるとは聞いていたし驚くほどの事ではなかったけれど。寧々は私より少しだけ年上のしっかりした女性で、とても頼りになる。

「昨日の夜遅くに、旦那様から頼まれまして。ああ、今日からはお嬢様ではなく奥様とお呼びしなければいけませんね」

 寧々に奥様と呼ばれ複雑な気持ちになった。今の私に籍が入ったこと以外で匡介さんの妻らしいことは何一つ出来ていないから。多分その事を寧々も知ってるはず。

「昨日? 匡介さんは何て……?」

 妻である私には何も言わずに出て行っているのに、使用人の寧々には連絡をしているなんて。その事に少なからずショックを受けてしまう。


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