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契約と覚悟と意地と
契約と覚悟と意地と4
しおりを挟む「お前達、どうしてここが!?」
狭山常務は聖壱さんから掴まれた腕を力づくで外してから、彼らをきつく睨んだ。よほど聖壱さん達がこの場所に来たことが予定外だったのでしょうね。
まあそうでなければ私達を攫うなんて大胆な事はしなかったでしょうし。
「どうしてだって?不正取引の証拠を集められ焦っているアンタ達が、俺達の妻に目を付けることは最初から分かっていた。そんな状態で、妻にいつ何をされるか分からないのに俺と柚瑠木が何の対策もしないでいると本気で思っていたのか?」
「……なんだと!?」
確かに狭山常務たちは私と月菜さんの鞄の中やスマホなどはしっかりと調べていたようだけど……それくらいの事はこっちも予想済みなのよ。
「そうね、もちろん私も発信機くらい付けているわよ?このパンプスのヒールの部分……貴方達は疑いもしなかったようだけれど。」
そう、私は奪われた鞄の中、そのメイク用品の中に一つ。そしてこのパンプスのヒールに一つ発信機を付けてもらっていたのよ。
「それにこれもそうですよ、気付きませんでしたか?妻が持っているこのマスコットも怪しまないで……余程ご自分の作戦に自信があったのでしょうね。」
柚瑠木さんは気を失った月菜さんを抱きしめたまま、右手で白クマのマスコットを持ってみせた。
きっと月菜さんのためにあのマスコットは肌身離さず持っておくように言っておいたのでしょうね。
「お前達は、ふざけた真似を……!お前の妻たちがどうなってもいいと言うのか!?」
どうやら狭山常務は自分たちがこっちの罠にかかっていた事に気付いたようで、顔を真っ赤にして怒っている。周りの男女も焦ったように顔を見合わせているけれど……今頃気付いても、もう遅いわよ?
「……これですよね?」
柚瑠木さんがスーツのポケットの上着から、いくつかのUSBメモリーを取り出して狭山常務達に見せる。
多分あれが聖壱さんと柚瑠木さんが集めた、彼らの不正取引の証拠なのでしょうね。
「貴方達はずっとこれが欲しかったんですよね?このUSBの中には貴方達の悪事の全てが入ってますよ。」
そう言って柚瑠木さんはそのUSBを聖壱さんに渡したの。柚瑠木さんから渡されたものと聖壱さんが自分のポケットから取り出したもの、その手に持っていた数本のUSBメモリーが次の瞬間……宙に浮いた!
「そんなに欲しけりゃ、くれてやる!」
そう、聖壱さんは何のためらいもなくUSBメモリーを狭山常務に向けて投げたのだった。柚瑠木さんも聖壱さんのそんな様子を黙ってみているだけ。
「うわっと!……これが私たちの不正取引の証拠!?ではこれを、人質と交換で私達に渡してくれるんということなんですね?」
USBを拾って狭山常務は聖壱さん達をジッと睨んでいる。彼の中ではまたこの取引は終わってないつもりなのでしょうけれど……
「ええ、どうぞ。まあ、中身はコピーし、今頃は全て狭山社長に全て確認してもらっているはずですから。」
そう、今頃はきっとこの出来事も狭山社長に伝わっているはず。もう狭山常務は無傷ではいられなくなるのよ?
「それにさっき狭山常務の口から【人質】という、妻を攫った決定的な言葉もくれたしな?」
聖壱さんは小型のボイスレコーダーを取り出して見せた。やはり私の夫は抜け目がないわね。
「ふん、そんな言葉一つくらいならば私にだってどうとでも出来ますよ。すぐにもみ消して今度こそ貴方達を――――」
ここまで追い詰められても、まだ狭山常務は引こうとしない。もう彼に勝ち目はなく、他の人たちはそっと部屋の扉から外へ出ていこうとしているのに。
……けれどそんな常務の強気な発言もここまでだった。
「その必要はないよ、狭山常務。先程の会話ならば、僕のこの耳でちゃんと聞かせてもらったからね。」
いつの間にか部屋の扉の前に一人の男性が立っている。
ピシッとスーツを着こなし白髪交じりの髪を後ろに流した、聖壱さんとよく似た雰囲気の初老の……私はこの人を知っている。
「狭山社長、どうしてここに!?」
そう、そこに立っていたのは間違いなく狭山社長で……まさか聖壱さん達に調査を頼んだ本人がここに来るなんて。
「狭山社長、これでハッキリしただろう?これ以上彼らにSAYAMAカンパニーを任せることは不可能なんだと。」
これもきっと聖壱さんと柚瑠木さんの中では決まっていた計画だったのでしょうね。だけど私は聞いてなかったから、後でもしっかり文句を言わせてもらうわよ?
さすがに今度こそ常務も諦めたでしょう、そう思って狭山常務を見ると彼はブルブルと身体を震わせていて……
「違うんです社長、私達はみんな聖壱達に騙されたんです!この女たちもグルになって私達を……!」
まさか今度は聖壱さんを悪者にして誤魔化そうというの?そんな言い訳が今更狭山社長に通じる訳がないでしょう!
思わず狭山社長を見ると、彼は何かを考えるように顎に手を当てていて……
「確かに僕は聖壱と二階堂君にこんな方法をとるように言った覚えはないけれど。自分たちの大切な人を危険にさらすなんて……」
そんな、これは聖壱さんと柚瑠木さんが狭山社長とSAYAMAカンパニーのためを思ってしたことで……
けれど私達を囮に使ったことは決して褒められることではない、狭山社長の言う通りなんだわ。
「そうなんです、聖壱達は目的のためなら、自分たちの妻ですらこんな事に利用する奴なんです!」
……なんですって!?いくら何でも言っていい事と悪いことがあるわよ?私と月菜さんを自分たちの都合よく利用しようとしたのは狭山常務たちの方じゃないの。
私の夫とその親友を陥れようとする、この男だけは絶対に許さない!
そっちがそういう手を使うのならばこっちだって……!
「確かに私達は聖壱さんと柚瑠木さんに、今日の囮として選ばれただけの妻よ。彼らがそのために私と月菜さんに契約結婚を求めてきたのも事実だわ。」
「香津美……?お前何を……っ!」
ごめんなさい、聖壱さん少しだけ私のやりたいようにやらせて頂戴ね。私はこのまま引き下がれるような可愛い性格はしていないのよ。
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