24 / 88
契約と覚悟と意地と
契約と覚悟と意地と
しおりを挟む聖壱さんから頼まれた事は……いつもと変わらない毎日を送ってほしいという事と、空いた時間は外に出て一人で行動して欲しいという事だった。
今までは聖壱さんと取ることが多かった昼食も、テナント内のお店や少し離れた場所にある喫茶店などで過ごしていた。
私が一人になればすぐに相手も近づいて来るかと思ったけれど、向こうも慎重なのかなかなかそれらしき人物が見つからない。
月菜さんに何かあったともまだ聞いてないけれど……
そう思いながら食後のコーヒーを飲んでいると、隣の席に落ち着いた感じの年配の男性が座った。
喫茶店の中にはまだいくつも席は空いている、わざわざ私の隣に座ったという事は――――
「貴女が狭山 香津美さんですね?少しお話しよろしいですか?」
「……わ、私に何のご用でしょうか?」
いつもの強気な狭山 香津美は出せない。この人たちには私の事を怖がりで、か弱いお嬢様だと思ってもらわなければならない……
さあ……簡単に思い通りになる女だと思って、余裕ぶって隙を見せて頂戴よ。
「そんなに怯えなくて大丈夫ですよ、香津美さんが私たちの言う事を聞いて下さればすぐに済みますから……」
「あの、私はどうすれば……?」
「私達と一緒に来てください。香津美さんが協力してくだされば、とても良いものが見れるはずですから。」
どうやら私の演技にうまく騙されてくれたようで、男性はそう言ってすぐに仲間らしき男性を呼ぶと私をその場から連れ出した。
それにしても彼らの言う「とても良いもの」って何かしらね。間違いなく聖壱さん達に関する事だとは思うけれど……
今の私は両サイドから男性に挟まれいる状態で、簡単には逃げられそうもない。今は大人しいふりをして、彼らについていくしかなさそうだわ。
あらかじめ用意されていたであろう車に乗せられると、小柄な女性が怯えた様子で座っていた。もしかしてこの人が柚瑠木さんの奥さんの月菜さん?
隣に座っている女性に話しかけたいけれど、今は我慢するしかない。彼女が青ざめて震えているのに、今はどうする事も出来なくて悔しい……
目的地が分からないように目隠しをされて、連れて行かれたのは古びたビルの一室だった。窓のカーテンは全てキッチリと閉められていて、外の景色は確認出来そうにない。
「素直についてきてくださって助かりましたよ。少しだけ私達のお手伝いをしていただければ、貴女達はすぐに帰してあげますから。」
そう言うと年配の男性は私達をソファーへと座らせた。怯えた様子の女性を見てニヤニヤ笑う男性が気に入らないわ……後で覚えていなさいよ。
「私達は大事な話があるので、少しここで大人しくしていてくださいね?」
男たちが別の部屋に移動したのを確認して、私は隣に座り震える女性に話しかけた。
「貴女が二階堂 柚瑠木さんの奥さん、二階堂 月菜さんよね?」
こうして私と一緒に連れて来られたという事は、彼女が月菜さんである可能性は高い。あの男たちがここに戻ってくる前に少しでも早く彼女を落ち着かせ安心させてあげなければ……
「あの、私は……」
余程怖い思いをさせられたのかしら、女性は震えるだけで上手く喋れない様子。ふとその時女性がしっかりと握りしめている白クマのマスコットが目に入る。
……間違いないわ、この女性は二階堂 月菜さんだ。
「小柄で色白、持ち物は白クマのマスコットの付いた鍵……聞いていた通りだわ。あのね月菜さん、私の名前は狭山 香津美。二階堂 柚瑠木さんの親友の狭山 聖壱の妻よ。」
「狭山さんの……奥さん?」
私が聖壱さんの妻だと名乗ると、少し安心したのか月菜さんはジワリと瞳に涙を浮かべた。こんなか弱い女性に何も伝えないなんて……私は柚瑠木さんの考えにはどうしても納得出来ないでいた。
「大丈夫よ、ここは私達が何とかしてみせるから。月菜さんは私の後ろに隠れていてちょうだい。」
きっとすぐに聖壱さん達が助けに来てくれるはず。さすがに私たちのバックは奪われてしまったけれど彼らなら何とかしてここまで来てくれるはずだから。
「あの、この事を柚瑠木さん達は……?」
知っているのかと聞きたいのでしょうね。けれど柚瑠木さんが月菜さんに何も説明していない以上、余計な事を話せば混乱するだけでしょうし……
「心配いらないわ、必ず彼らが何とかしてくれるはずだから。月菜さんは何も不安がらなくていいのよ。」
肩に手を置いて月菜さんを少しでも安心させようとすると、彼女はそっと震える身体を寄せてきた。
「私、簡単に騙されてしまって。柚瑠木さんに迷惑を……」
こんな状況なのに、怖くてこんなに震えているのに月菜さんは柚瑠木さんに迷惑をかけて申し訳なさを感じてしまっている。
もう!こんな優しくていい子に何の説明もしないなんて柚瑠木さんは一体何を考えているのよ!
震える小さな肩を抱きしめて頭を撫でると、小さな嗚咽が聞こえてくる。きっと月菜さんは怖くても必死に一人で耐えていたのでしょうね。
「大丈夫よ、貴女は絶対に私が守ってあげるから。」
か弱いのに一生懸命頑張る姿が私の妹の【なほ】に似ている。聖壱さん達が来るまで、私が月菜さんを何としてでも守らなくては。
しばらくそうしていると、扉の開く音がして先程の男性二人とそれ以外の数人の男女が部屋に入って来た。
その中にはSAYAMAカンパニーの重役として顔を見たことのある人も混じっていて――――
0
お気に入りに追加
534
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる