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契約と夫の隠し事

契約と夫の隠し事3

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 聖壱さんがそんなにまで私の事を想ってくれていたなんて。きっと幼馴染の柚瑠木ゆるぎさんとの約束を破る事なんて今まで無かったのでしょうに。

「ちっ、柚瑠木が余計なことまで香津美に話すから、この事は隠しておきたかったのに……」

 聖壱さんはそう言うけれど、私は知れてよかったと思うの。この人のためならば私だって頑張れる気がするから。

「聖壱さんの気持ちは嬉しいわ。私その程度の事では離婚する気はないけれどね。」

 ふふふと笑ってみせると、聖壱さんはテレたように頭を掻く。柚瑠木さんは私たちのそんな様子を冷たい目で見ているだけだけど。

「話を戻していいですか?香津美さんは今までの話を聞いてもまだ囮になってもいいと言えますか?そうでないのなら、これ以上は話すことは出来ないので。」

 冷たい言い方しかしないけれど、柚瑠木さんはキチンと私の意思を確認してくれる。私がなんて答えるかを聖壱さんは心配そうに見ている。
 聖壱さん、いつも貴方の言う事を聞かない妻でごめんなさい。

「ええ、やってやろうじゃないの。私は夫の問題を知らんぷりできる妻になろうとは思っていないのよ。」

 私がそう言うと柚瑠木さんは静かに頷き、聖壱さんは困ったような顔をして額に手を当てた。




 聖壱さんが私を心配してくれるのは勿論嬉しいわ。だけど私は貴方のお飾りの妻ではいたくないの。私にだって少しは聖壱さんの力になれるんだって知ってほしい。

「そうですか、香津美さんが自分から協力するというのなら聖壱も文句はないですよね?では話の続きを……」

「ちょっと待て、柚瑠木ゆるぎ。」

 話の続きを始めようとする柚瑠木さんを、聖壱さんが止めた。きっと聖壱さんが彼の話を止めた理由は……

「何でしょうか、聖壱?」

「俺は迷ったけれどきちんと香津美に話をした。その上で香津美は俺達に協力してくれると言っている。柚瑠木は話さなくてもいいのか、月菜《つきな》さんに?」

 ……そう、私も気になっていたの。月菜さんがどんな女性なのかは知らないけれど、彼女だけ何も知らされないままだなんて。

「僕は彼女には何も話すつもりはありません。何度も言いますが、僕と聖壱の考えは違うんです。」

「全てを話して、月菜さんに嫌われるのが怖いのか……?」

 聖壱さんの問いかけに、柚瑠木さんは瞳を伏せて静かに首を振る。
 この人が妻に嫌われることを恐れるとは思えないけれど……きっと聖壱さんの方が柚瑠木さんのことは分かるはず。

「彼女に恨まれるのは……僕一人でいいんです。」




 恨まれるのは自分一人でいいって……柚瑠木ゆるぎさんの考え方も分からない訳じゃない、でも月菜つきなさんがそんな事を望んでいるとも思えない。

「それじゃあ、柚瑠木さんは最後まで彼女には話さないつもりなの?そんなのって……」

「香津美さん、これは僕たち夫婦の事なんです。だからこれ以上は口を出さないで欲しいんです。」

 柚瑠木さんの反応は冷たかったけれど、静かに目を伏せるから本当はこんな風に言いたくないんじゃないかって思ったの。
 心からこんな事を言えるような人なら、聖壱さんはこんなに柚瑠木さんのことを信頼してはいないと思うもの。

「もし……柚瑠木が月菜さんに話す気になったらいつでも協力するからな?な、香津美。」

 ほら、聖壱さんは柚瑠木さんのことを決して放ってはおこうとはしない。きっと2人にしか分からない固い絆があるんでしょうね。

「もちろんよ、何なら私がこれからの月菜さんの相談相手になってもいいわ。」

 そう言えばいつだったか、聖壱さんに私は月菜さんに懐かれるって言われたのだったっけ?まあ、それも悪くないわね。

「本当にお節介なんですね、貴方達夫婦は。」

 呆れたような、少しだけ喜んでいるような……そんな柚瑠木さんの返事に私と聖壱さんは微笑み合った。




「では話の続きになりますが、問題の聖壱の身内たちは僕達が彼らの不正について調べている事にもう気付いています。ですからあちらも僕らの弱みを握りたいと思っているはず。」

 柚瑠木ゆるぎさんの淡々と話す内容に、少しだけ不安も感じてる。本当に私に囮が務まるのか、彼らに迷惑をかけることにならないかと。

「その聖壱さんと柚瑠木さんの弱みというのが私と月菜つきなさんっていう事?」

「そう、俺達だって人間だ。新妻に何かあれば冷静な判断を失うはず、奴らはそこに付け込もうとするだろう。そのために香津美達に近付いてくるはずなんだ。」

 なるほど、そのために聖壱さんと柚瑠木さんは私達との結婚を急いだのね。式を後回しにしたのも、きっと私達が離婚しやすい様になのでしょう。

「じゃあその時、私は何をすればいいの?」

 もう乗り掛かった舟だもの、聖壱さん達の力になるためにやってやるわ。それに、月菜さんのこともあるしね。

「そうですね、彼らが香津美さんに近付いてきたときに、貴女にやっていただきたい事は――――」

 その日は遅くまで、聖壱さん達とその事についてしっかりと話し合った。
 月菜さんにも話した方がいいともう一度柚瑠木さんを説得したけれど、彼は首を振るだけだった。


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