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契約と新妻の自覚
契約と新妻の自覚2
しおりを挟むそんな私を見て聖壱さんは「ククク」と笑った。そんな聖壱さんの様子は私を余計に苛立たせるだけに過ぎなくて。
「何がおかしいのよ、貴方はやっぱり私の事を馬鹿にしてるんでしょう?」
そうよ、聖壱さんは私の事を簡単に扱えそうな女だから妻にしただけなんでしょう?そう思っていたのに……
「……いや、俺の妻は日に日に可愛らしくなっていくなと思って。」
「な、何をふざけた事を……」
予想もしなかった聖壱さんの言葉に、一瞬にして顔が熱くなる。何を言い始めるのよ、この人は!私は真面目な話をしようとしてるのに。
「そうやって私の話そうとしてることを誤魔化そうとしてるんでしょう?私はそう簡単に騙されてあげないんだから!」
私の言葉に少し驚いた様子の聖壱さん。だけど彼はすぐに真剣な表情で私の事を見て……
「俺は香津美を騙そうなんて思ってない。ただ……柚瑠木との契約婚の話を聞けば、香津美が不安に感じることがあるかもしれない。だから聞かせたくなかっただけだ。」
「私が不安を感じないように?」
それってどういう事?契約結婚の内容をちゃんと理解している私が今更不安になる事なんてないと思っていたの。
「柚瑠木達の契約結婚は俺達のソレとはまた少し違う。アイツの事をよく知らない状態で柚瑠木の話を聞けば、香津美は混乱するだろうと思ったんだ。」
私がジッと聖壱さんを見つめても、彼は目を逸らさない。嘘は……ついて無さそうね。
「柚瑠木さん達と私達の結婚の違いは教えてくれないの?どちらも契約結婚なのは同じでしょう?」
聖壱さんが私の事を心配してくれているのが理解できない訳じゃない。だけど秘密のされたままじゃ何だかモヤモヤばかりが私の中に残ってしまって。
「柚瑠木達の事を俺だけの判断で話すことは出来ない。アイツも香津美には聞かれたくないようだったし……もう少し時間をくれないか?」
「……分かったわ。今は聖壱さんの言葉を信じることにする。」
確かに柚瑠木さんは私に出ていって欲しかったのだと思う。いくら幼馴染の妻と言って初対面の相手、聞かれたくないようなのは当たり前だから。
「その件で香津美には一つ頼みたいことがあるんだ。香津美には柚瑠木の妻になる月菜さんと、これから仲良くしてやって欲しいと思ってる。2人も近々このレジデンスに住むことになるから。」
そう言えば柚瑠木さんもそんな事を言っていたわね。あの冷静沈着そうな柚瑠木さんの奥さんかあ、どんな女性なのかしらね?
「努力はしてみるわ。私はこんな性格だし、好かれることより嫌われることが多いしね?」
「いや、香津美なら大丈夫だ。きっと月菜さんに懐かれるだろう。」
私に懐く?そんなの今まで妹くらいだったけれど?本当に聖壱さんって私の事がどう見えているのかよく分からないわ。
それでもそう言われれば私だって悪い気分はしない訳で、こうなると簡単に聖壱さんの言葉一つで機嫌を直してしまうの。
「そう?そこまで言うのならば、私が月菜さんの面倒を見てあげてもいいわ。」
高飛車な態度のままそう言って見せるけれど、そんな様子も聖壱さんは楽しそうに笑うだけ。フンだ、どうせ私は貴方の言葉で簡単に機嫌を直しちゃうようなチョロい妻ですよ!
「それじゃあ、月菜さんのことは香津美に任せるとしよう。」
「ええ、月菜さんもきっと一人では不安でしょうし?私に出来る事なら力になってあげるわ。」
まあ、まだ納得できない事もあるけれど機嫌も直ったし、気分のいいままお風呂でも入ってこよう。そう思って聖壱さんから離れようとする。
「もう話は終わりよね?私、先にお風呂を済ませたいのだけれど。」
聖壱さんの顔を見上げると同時に、彼が私をソファーへと押し倒してきた。予想もしてなかった私は簡単に彼の腕の中へと閉じ込められて……
「きゃっ……いきなり何するのよ!?」
「確かにこの話は終わったな、だがあの時の香津美への教育がまだ途中だったと思うが?」
私を見つめる聖壱さんの瞳がスッと細められて、その迫力に背中にツウッと汗が流れた気がした……
「なんの……ことだったかしら?」
忘れた振りしたって、聖壱さんを誤魔化す事なんて出来ないって分かってる。だけど今の私には他にいい方法が何も浮かばなくて……
「せっかく夫の友人夫妻と仲良くしようという、妻の自覚がでてきたようだしな。もっと香津美には色んな事を覚えて貰おうか?」
それとこれとは全然違うでしょう?どう考えても聖壱さんの教えようとしている事は、身の危険しか感じないのよ!
「いい、間に合ってる。今は遠慮します!」
自分らしくない台詞だってことは分かってる。だけど服の中へと侵入してくる聖壱さんの手の感触、もう色々と考えている余裕はないの。
「遠慮?香津美には似合わない言葉だな。心配しなくてもまだ痛いことはしない。香津美が気持ちいいことだけだ。」
口角を上げた聖壱さんの妖しい色気が凄い。こんなの私みたいな何も知らない女にはこの人のフェロモンは刺激が強すぎて。
「それも結構よっ!」
もう泣きたい気分になっていた。大体痛いことって何、気持ちいいことって何?聖壱さんはいったい私に何をしようとしてるっていうのよ!
「残念だが香津美に拒否権はない。今日は諦めて俺の授業を受けるんだな。」
絶対変な授業でしょう?そう言いたいのに、もう言葉が出なくって……聖壱さんが私の首筋に顔を埋める瞬間のくすぐったさに身体を震わせた。
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★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
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