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契約と2度目の夜

契約と2度目の夜2

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 そんな事、私は聖壱さんに望んでいないわ。心の中ではそう思っているはずなのに、彼から伝わってくる温もりは心地よく感じてしまう。

「私は、そんな事教えて欲しくなんか……」

「香津美、お前が本当に嫌なら力いっぱい抵抗してみせろ。そうじゃなきゃ、俺は止めてやらない。」

 そんなに急いで私を追い詰めようとしないでよ。少しの考える時間もくれず、グイグイと攻めてくる聖壱さんに私は戸惑うばかりで。
 このままじゃ、バクバクと音を立てている私の心臓が壊れてしまうんじゃないかって思ってしまった。

 聖壱さんが止めてくれないという事は、もしかして私はこのまま聖壱さんに……?

「お願い、ちょっとだけ待ってよ……私まだ心の準備が。」

 焦って彼の胸を手で押し返そうとすると、聖壱さんに手首を掴まれシーツに縫い留められてしまう。真剣な表情で私を見つめる彼から、私は思わず目を逸らしてしまった。

「逃げるな、香津美。ちゃんと俺を見ろ、俺と向き合うんだ。」

「待って、待ってよ聖壱さん!そんな無理ばかり言わないでよ、私は何もかも未経験なのに……!」

 こんな風に男性に迫られた経験のない私には、聖壱さんみたいにグイグイと攻めてこられれるとどうしていいのか分からない。




「こういう事がしたいのなら、他の女性を……」

 抱けばいいじゃないと言いかけて、途中で言えなくなったの。聖壱さんがとても鋭い目で私を見ていたから。

「夫に他の女を薦めようとするな、俺だって傷付くんだ。大体、他の女なんて抱きたくない。俺は香津美だから抱きたいんだ。」

 聖壱さんの言葉はいつだってストレートだわ。けれど私はまだ、真っ直ぐに伝えられる愛の言葉の受け止め方を知らないの。

「私を抱いてどうするの?契約結婚の私達には子作りなんて必要ないでしょう?」

「香津美、俺は子作りのためだ気にお前を抱きたいわけじゃない。香津美と愛を確かめ合いたいからだ。」

 分かってるわ。肌を合わせるという行為が、愛し合う二人の間で行われるものだってことくらい。分かってるけれど、私はまだ聖壱さんのことを……

「まずは俺を夫として、そして一人の男として見ろ。」

 まだ私達は夫婦になったばかりなのに、形ばかりという約束だったはずなのに……どうしてこんな事に?

「聖壱さん、私は……愛し方なんて知らない。」

「じゃあ、まず俺に愛されろ。そして愛を学べ。」

 この人は狡い、私は誰かに命令されるのなんて大嫌いなはずなのに……偉そうな聖壱さんの言葉に一瞬だけどキュンとしてしまった。


「愛されろって、私は一体どうすれば……」

 聖壱さんは簡単に言うけれど、愛し方を知らない私は勿論愛され方も分からないわけで。私は聖壱さんの言葉に首をかしげるしかない。

「香津美はどう愛されたい?俺は言葉と身体の全てでお前を愛したい。」

 聖壱さんに耳元で色っぽく囁かれ、頭がクラクラしそうになる。世の中の恋人や夫婦はこんなにも甘い言葉を囁き合うものなのかしら?
 言葉と身体……彼は私の全てを望んでいる、そして私の全てを手に入れる準備をしている。

 私はもうどう頑張ってみても、聖壱さんから逃げられる気がしなかった。

「じゃあ、愛してみせて?この私に人を愛する感情を教えて見せてよ。」

 逃げられないからって、簡単に何でも言うこと聞く女になるつもりはないの。
 こんな性悪女の私を愛して、愛を学ばせてみればいい。私が聖壱さんを愛せたら、貴方の勝ちよ。

「いいだろう、香津美が俺無しじゃダメになるくらい俺に夢中にさせてやる。」

 グイっと顎を持たれて唇が近付く。ちょっと待って、私はキスもまだ――――

「これからは香津美の唇も、身体も髪の毛一本まで俺のものだ。決して他の男に触れさせるな。」

 そう言って聖壱さんは私の目を手のひらで隠すと、そっと口付けた。本当にちょっとだけ唇が触れただけのキスだった。




 初めてのキスの余韻に浸っていると、聖壱さんからそっとベッドへと寝かされる。少し冷たいシーツの感触を感じながら、聖壱さんの次の行動を待つ。
 彼は言葉でも身体でも私を愛したいと言ったの。彼がどんなふうに私を愛してくれるのかと、胸はドキドキしていた。

 この年まで私の肌に誰かが触れることは無かった。私の心を震わせてくれる誰かも見つからなかった。

 聖壱さんはそんな私の心と身体を変えてくれる?本当に私を愛し、愛される女性にしてくれるって期待してもいいの?

「愛してよ、聖壱さん。」

 私は両手を広げて聖壱さんを抱き締めようとした。だけど彼はそんな私の頭を撫でるだけで……

「震えている香津美に、無理に何かをしたりするつもりはない。相手を欲しがるのも愛情だが、大事にすることも愛情だと俺は思ってる。」

 ……何よ、私が大事だから触れないって言うの?触れたいのも愛情で触れないのも愛情なんて、訳が分かんないの。

「本当にいいの?次があるか分からないのに、後悔しても知らないんだから。」

「本当に悪い女だな、香津美は。震えてるくせに虚勢ばかり張って見ていて危なっかしい。だから……俺が守りたくなる。」

 聖壱さんの言葉にかあっと顔が熱くなる。急いで下を向いたけれど、彼が私の頬に手を添えてクイッと上を向かされる。





「今は香津美のこんな反応を見ているのも悪くない。そう思えるくらいには俺はお前に夢中なんだよ。」

 私の小さな変化も見逃さず、彼はどんどん私を暴いていこうとする。私ですら知らなかった私の顔を彼は見ようとしてる。
 そうやってストレートな愛の言葉で私の心を揺さぶって、どんどん胸を苦しくさせていく……

 ……ああ、やっぱりこの人は甘い甘い毒で私を狂わせていくんだわ。



「ねえ……誰かに夢中になるって、どんな感じがするの?」

 聖壱さんに腕枕をされて、私はベッドに横になっている。私は普通の枕が良いって言ったのに、聖壱さんが「腕枕をする」って譲らなかったのよ。固いし、寝心地もいまいちだけどそう悪くないわね。

「そうだな、俺は香津美に夢中になって毎日ワクワクドキドキしてる。たまに想像もつかない事を香津美がしてくれるから、スリルもある。」

「よく、分からないわね。私はどんな風に人を愛することが出来るのかしらね。」

 もう結構遅い時間だからか、だんだんと眠くなってくる。こんな話をするつもりじゃないのに。

「ずっと誰かを愛することは辛く切ないだけじゃないかって思ってた、だから今まで恋をしてこなかったの。でも今は少しだけ恋をしてみたい……」

「俺に恋をすればいい。ずっと香津美の傍にいてやるから。」

 聖壱さんの優しい言葉を最後に、私の意識は遠のいていった。


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