上 下
8 / 88
契約と新婚生活

契約と結婚生活3

しおりを挟む

 ドキドキしながら連れて来られた和菓子屋は、そんなに大きい店舗ではないのに趣があって高級感の感じられるお店。さすがセレブ達の集まる【ラピスヒルズビレッジ】内にあるお店なだけあるわ。

「若旦那、先日頼んだものは出来ているか?」

「これは狭山様、ご注文いただきました商品ならば職人が張り切って作りました。今お持ちします。」

 もしかして聖壱さんはこの店の常連だったりするのかしら?意外と甘いものが好きなのかしらね、今度甘味処にでも誘ってみようかしら?
 でも、私は2人の会話で一つだけ気になったことがあって。

「え?……注文?さっき聖壱さんは私に似合いそうな和菓子を見つけたって。」

「奥様、狭山様は私たちに「明るく華やかな、自分の妻になる女性をイメージした和菓子作って欲しい」と。それはもう奥様をべた褒めでして、私達も気合を入れて作らせていただきました。」

 え、それってどういう事?という言葉から考えると、聖壱さんが私「に冷たくこの結婚は【契約婚】だ」と言っていたころの話ってこと?

「若旦那は余計な事を話してないで、早く取って来い!」

 何故他焦った様子の聖壱さん。私がチラリと彼を見ると、心なしか頬が赤い。まさか……そんな事私の思い違いよね?
 もしかして本当は最初から私の事を気にかけてくれていたのかも、なんて。





「こちらが狭山様からご注文いただいた商品になります。」
 
 若旦那と呼ばれていた男性が、奥から持ってきたのは手のひら大の白い箱で……

「綺麗……こんな綺麗な和菓子初めてみたわ。」

 箱に入っていたのはカラフルな花束の形をした和菓子で、それはとてもとても華やかだったの。まさかこんな美しいものが、私をイメージしたものだって言うの?

「気に入ったか、香津美。」

「聖壱さん、貴方私の事をどんなふうに伝えたのよ?いくら何でも……綺麗すぎる。」

 こんなイメージを持たれているのかと恥ずかしくなって俯けば、聖壱さんを喜ばせるだけで。
 こんなサプライズをされて私は嬉しくて、だけど照れくさくて何度も聖壱さんの背中を叩いてしまった。そんな私の可愛くない行動を、聖壱さんは「照れ屋な妻だ」と笑っていたけれど。

 箱を大事に抱えて他の店も見て回る。宝石店によれば聖壱さんが勝手に商品を見せて貰い始めて

「これが、香津美には似合いそうだ!いや、こっちの商品も……」

 なんて勝手に買ってしまいそうになるし。この人はちゃんと金額を見ているのかしらって不安になるわ。
 でも彼が買おうとするのは、いつも私のための物ばかりで。

「どうして?」

「香津美にはいつも俺がプレゼントしたものを身に着けていて欲しいんだ。」

 なんて、そんな事を言われて赤くならない女がいるかしら?聖壱さんは私に対する愛情も独占欲も少しも隠そうとはしない。




「この商品、色違いってあります?」

 質の良いオリジナルの小物や雑貨を取り扱うお店で、ちょっと気になるカップを見つける。出来れば色違いの物も欲しくて近くにいた若い店員さんに声をかける。

「はい、どの商品ですか?」

「これ、なんだけど。出来ればもう少し……そう、そんな感じで。」

 店員さんが奥に商品を探しに行くと、聖壱さんが私の腕を掴んで店から連れ出してしまう。どういうことか分からず私は目を丸くするばかりで……

「ちょっと、聖壱さん!私まだあの店員さんが来るのを待ってるのよ?」

「ダメだ!あの店員は香津美に色目を使っている。」

 何を怒っているのかと思えば、そんな事?ヤキモチ妬きにもほどがあるわよ。

「貴方は私の夫でしょ?ちょっと話したくらいでそんなにヤキモチ妬かれたら、落ち着いて買い物も出来ないわよ!大体……」

「だいたい?」

「あのお店で店員さんに頼んだのは、聖壱さんと使うためのお揃いのカップだったのに……」

 二人お揃いで使うものが欲しかったのに、それを駄目にされたんだもの。ちょっと拗ねてしまうわ。
 そんな私の言葉を聞いて,聖壱さんはちょっと申し訳なさそうな表情で……

「さっきのは俺が悪かった。それに香津美の気持ちも嬉しかった、もう一度さっきの店に戻ろうか。」

 素直に謝ってくれた聖壱さんと二人でお店に戻り、無事お揃いのカップを買う事が出来たのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。 同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。 初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。 幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。 彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。 新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。 しかし彼は、諦めてはいなかった。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

伯爵閣下の褒賞品

夏菜しの
恋愛
 長い戦争を終わらせた英雄は、新たな爵位と領地そして金銭に家畜と様々な褒賞品を手に入れた。  しかしその褒賞品の一つ。〝妻〟の存在が英雄を悩ませる。  巨漢で強面、戦ばかりで女性の扱いは分からない。元来口下手で気の利いた話も出来そうにない。いくら国王陛下の命令とは言え、そんな自分に嫁いでくるのは酷だろう。  互いの体裁を取り繕うために一年。 「この離縁届を預けておく、一年後ならば自由にしてくれて構わない」  これが英雄の考えた譲歩だった。  しかし英雄は知らなかった。  選ばれたはずの妻が唯一希少な好みの持ち主で、彼女は選ばれたのではなく自ら志願して妻になったことを……  別れたい英雄と、別れたくない褒賞品のお話です。 ※設定違いの姉妹作品「伯爵閣下の褒章品(あ)」を公開中。  よろしければ合わせて読んでみてください。

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

処理中です...