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番外編 そんな事は言えなくて
番外編 そんな事は言えなくて4
しおりを挟む「はい、任せてください!」
それでも柚瑠木さんがいいと言ってくれるのであれば、もちろん頑張るつもりです。誰かの背中を洗うのなんて、子供の頃にお母様を相手にしたことしかありませんが……
それでも今のような微妙な距離感を感じるのはもう嫌なんです。これで柚瑠木さんが少しでも本音を話してくれるのならば、少しくらい恥ずかしくてもやってみせます!
「それでは僕は先に浴室に入ってますので、月菜さんの準備が出来たらどうぞ」
私の発言に驚いていたはずの柚瑠木さんの方が今は落ち着いていて、私をその場に残してさっさとバスルームへと入って行ってしまいました。
やっぱり私よりもずっと年上の彼は、このくらいの事はどうってこと無いのでしょうか?
自室に戻って濡れても構わないように、タンクトップとショートパンツに着替えました。普段このように露出の多い服を柚瑠木さんの前では着ないので、やはり緊張してしまいます。
準備を済ませると、浴室の扉の前で柚瑠木さんへと声をかけました。中へと入ると同時に、私に背中を向けて座っていた柚瑠木さんがこちらを振り向きました。
「……服、着てるんですね」
「……え?」
夫の背中を流すときは服を脱いできたほうが良かったのでしょうか? 失敗しました、私はそれを香津美さんにちゃんと確認してはいなかったのです。
「あの、脱いできた方が良かったですか?」
確かにここは浴室ですから、服は脱いだ方だ正しいのかもしれません。ですが柚瑠木さんを前にして、こんな明るい場所で裸になるだなんて恥ずかしすぎます。
私は裸で座る柚瑠木さんを直視することも出来ず、そのまま視線を彷徨わせていると……
「……いいえ、僕の方こそ変な事を言ってすみません。月菜さんはその格好でお願いします」
柚瑠木さんもこちらを見ないようにして、コホンと咳ばらいをしました。
まさかとは思いますが、柚瑠木さんは私が裸で入って来るのを期待していたって事はないですよね?そんな……ああ、このままでは私の方が変な事ばかり考えてしまいそうです。
「では、背中を流しますね?」
柚瑠木さんにそう伝えて、ボディソープを付けたスポンジをしっかりと泡立てます。そのスポンジで柚瑠木さんの広い背中を丁寧に洗っていくのですが。
普段は彼の背中をこんなにジッと見る事はありません、だから隠れた黒子の位置まで気になって……
「柚瑠木さんのこんな所に黒子があるなんて知りませんでした、また一つ柚瑠木さんの事が知れて嬉しいです」
なんて喜んでいると、スポンジを持っていた手を掴まれて。
「それって狡くないですか、月菜さん?」
少し拗ねたような柚瑠木さんに睨まれてしまったのです。狡いって、いったい何がでしょうか?
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