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番外編 新しい出会いは必然で 後編

番外編 新しい出会いは必然で 後編3

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 その後私達は大きな手芸用品店に行き、たくさんの裁縫道具や裁縫材料に目をキラキラと輝かせている千夏ちなつさんとあちこち見て回ったりしました。
 並んだミシンを見て新しいのが欲しいと呟く千夏さんに、柚瑠木ゆるぎさんは「次にここに来た時には買ってあげますよ」なんて約束をしてみたり。戸惑いながらも「本当に? 約束よ、柚瑠木兄さん」と答える千夏さんも、少しずつ前向きになっているのを感じました。

 その後は人気のアイスクリーム店で好きなアイスを選んで乗っけてみたり、千夏さんは三段重ねに挑戦してとても喜んでいて。
 まるで子供のようにはしゃぐ千夏さんを見て、やはり家に引き籠っているなんて彼女には似合わないと感じていました。

「今日はありがとうね、柚瑠木兄さんも月菜つきなさんも。凄く楽しくていい思い出が出来たわ」

 帰り道の車の中、私と交換したアクセサリーを手にして千夏さんはそう言いました。まるで、その言い方だと次は無いという風に聞こえて……

「会えばいくらでも思い出は作れます、これを最後にしてしまうような言い方はしないでください」

 あんなに楽しそうな顔をしていたのに、どうしてこうも外に出ることに消極的なんでしょうか? 千夏さんはただ困ったように瞳を彷徨わせています。




千夏ちなつ、こうやって月菜つきなさんが悲しむ様子をみても、まだあんな親のために部屋に閉じこもり続ける気ですか?」

柚瑠木ゆるぎ兄さん、私は別にあの人のためになんか……」

 真剣な表情で千夏さんを説得しようとする柚瑠木さん、ですが千夏さんもなかなかその言葉に頷こうとはしません。彼女はいったい何にそんなに縛られているのでしょうか?
 私からは何も言えず、ただ二人のやり取りを見守っていると……

「千夏! いつまでそうして外に出ているつもりだ、お前はさっさと奥の部屋に戻っていなさい!」

 いつの間にか屋敷の玄関に立っていた千夏さんのお父様が、こちらを睨んで大きな声で千夏さんを呼びました。なぜ娘の千夏さんにそんな乱暴な言い方をするのでしょうか?

「千夏、一度くらい親に反抗したって誰も貴女を責めたりしませんよ?」

「……柚瑠木兄さん」

 父親に呼ばれ急いで帰ろうとする千夏さんの手首を柚瑠木さんが掴みます。その手を見つめる千夏さんの瞳が迷い揺れていました。

「ごめんなさい、今日はありがとう」

 そう言って千夏さんは柚瑠木さんの手から逃れ、走って屋敷の中へと消えていってしまいました。私と柚瑠木さんは顔を合わせた後、千夏さんのお父様に挨拶をして二人で車に乗り込みます。
 私の手に残ったのは千夏さんの作ったアクセサリー、それをジッと見つめてこれからの事を考えていました。




「これで良かったのでしょうか? 私には千夏ちなつさんがあのお屋敷で幸せな時間を過ごしているとは思えないんです」

 千夏さんの事情を何も知らない私が口を出すのは良くないと分かっています。ですがレジデンスに帰り着くと、我慢出来なくなり柚瑠木ゆるぎさんに自分の感じたことを話してしまいました。
 そんな私をソファーへと座らせ柚瑠木さんはキッチンへ、彼の後姿を見ながら私は深く息を吐きました。
 私が感情的になった所で簡単に解決するような問題ではない、だからこそ柚瑠木さんも時間をかけて千夏さんを説得してるのでしょう。

「あの家族は屋敷に千夏を隠すことしか考えてない、そして千夏もそれに従ってしまってる。そんな事がもう十年以上続いてるんです」

「そんな……どうして千夏さんは反抗しないんですか? 他の家族とそんな扱いが違うなんて変です!」

 私が前にあいさつした時は、千夏さん以外の方は両親と自然に話をしてました。千夏さんの様に怒鳴られたりなど……

「いつか、千夏も月菜つきなさんには話すと思います。僕だって彼女が望めばあの場所から出してやることは出来るのですが、頑なに拒否をするので」

「……そうなんですね。千夏さんにも考えがあるのでしょうし」

 この夜は私達は二人、何か千夏さんに出来ることは無いかと遅くまで話し合いました。
 

 ……そんな彼女にとても大きな変化が起こるのは、少しだけ先の事。


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