116 / 127
番外編 新しい出会いは必然で 後編
番外編 新しい出会いは必然で 後編3
しおりを挟むその後私達は大きな手芸用品店に行き、たくさんの裁縫道具や裁縫材料に目をキラキラと輝かせている千夏さんとあちこち見て回ったりしました。
並んだミシンを見て新しいのが欲しいと呟く千夏さんに、柚瑠木さんは「次にここに来た時には買ってあげますよ」なんて約束をしてみたり。戸惑いながらも「本当に? 約束よ、柚瑠木兄さん」と答える千夏さんも、少しずつ前向きになっているのを感じました。
その後は人気のアイスクリーム店で好きなアイスを選んで乗っけてみたり、千夏さんは三段重ねに挑戦してとても喜んでいて。
まるで子供のようにはしゃぐ千夏さんを見て、やはり家に引き籠っているなんて彼女には似合わないと感じていました。
「今日はありがとうね、柚瑠木兄さんも月菜さんも。凄く楽しくていい思い出が出来たわ」
帰り道の車の中、私と交換したアクセサリーを手にして千夏さんはそう言いました。まるで、その言い方だと次は無いという風に聞こえて……
「会えばいくらでも思い出は作れます、これを最後にしてしまうような言い方はしないでください」
あんなに楽しそうな顔をしていたのに、どうしてこうも外に出ることに消極的なんでしょうか? 千夏さんはただ困ったように瞳を彷徨わせています。
「千夏、こうやって月菜さんが悲しむ様子をみても、まだあんな親のために部屋に閉じこもり続ける気ですか?」
「柚瑠木兄さん、私は別にあの人のためになんか……」
真剣な表情で千夏さんを説得しようとする柚瑠木さん、ですが千夏さんもなかなかその言葉に頷こうとはしません。彼女はいったい何にそんなに縛られているのでしょうか?
私からは何も言えず、ただ二人のやり取りを見守っていると……
「千夏! いつまでそうして外に出ているつもりだ、お前はさっさと奥の部屋に戻っていなさい!」
いつの間にか屋敷の玄関に立っていた千夏さんのお父様が、こちらを睨んで大きな声で千夏さんを呼びました。なぜ娘の千夏さんにそんな乱暴な言い方をするのでしょうか?
「千夏、一度くらい親に反抗したって誰も貴女を責めたりしませんよ?」
「……柚瑠木兄さん」
父親に呼ばれ急いで帰ろうとする千夏さんの手首を柚瑠木さんが掴みます。その手を見つめる千夏さんの瞳が迷い揺れていました。
「ごめんなさい、今日はありがとう」
そう言って千夏さんは柚瑠木さんの手から逃れ、走って屋敷の中へと消えていってしまいました。私と柚瑠木さんは顔を合わせた後、千夏さんのお父様に挨拶をして二人で車に乗り込みます。
私の手に残ったのは千夏さんの作ったアクセサリー、それをジッと見つめてこれからの事を考えていました。
「これで良かったのでしょうか? 私には千夏さんがあのお屋敷で幸せな時間を過ごしているとは思えないんです」
千夏さんの事情を何も知らない私が口を出すのは良くないと分かっています。ですがレジデンスに帰り着くと、我慢出来なくなり柚瑠木さんに自分の感じたことを話してしまいました。
そんな私をソファーへと座らせ柚瑠木さんはキッチンへ、彼の後姿を見ながら私は深く息を吐きました。
私が感情的になった所で簡単に解決するような問題ではない、だからこそ柚瑠木さんも時間をかけて千夏さんを説得してるのでしょう。
「あの家族は屋敷に千夏を隠すことしか考えてない、そして千夏もそれに従ってしまってる。そんな事がもう十年以上続いてるんです」
「そんな……どうして千夏さんは反抗しないんですか? 他の家族とそんな扱いが違うなんて変です!」
私が前にあいさつした時は、千夏さん以外の方は両親と自然に話をしてました。千夏さんの様に怒鳴られたりなど……
「いつか、千夏も月菜さんには話すと思います。僕だって彼女が望めばあの場所から出してやることは出来るのですが、頑なに拒否をするので」
「……そうなんですね。千夏さんにも考えがあるのでしょうし」
この夜は私達は二人、何か千夏さんに出来ることは無いかと遅くまで話し合いました。
……そんな彼女にとても大きな変化が起こるのは、少しだけ先の事。
0
お気に入りに追加
647
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~
安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。
愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。
その幸せが来訪者に寄って壊される。
夫の政志が不倫をしていたのだ。
不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。
里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。
バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は?
表紙は、自作です。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
契約書は婚姻届
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」
突然、降って湧いた結婚の話。
しかも、父親の工場と引き替えに。
「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」
突きつけられる契約書という名の婚姻届。
父親の工場を救えるのは自分ひとり。
「わかりました。
あなたと結婚します」
はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!?
若園朋香、26歳
ごくごく普通の、町工場の社長の娘
×
押部尚一郎、36歳
日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司
さらに
自分もグループ会社のひとつの社長
さらに
ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡
そして
極度の溺愛体質??
******
表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる