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契約結婚を終える時には…
契約結婚を終える時には…
しおりを挟む柚瑠木さんは私の手を引いて部屋を出ると、鍵をかけてそのまま駐車場へと向かいました。
助手席のドアを開けて私を座らせると、彼はそのまま運転席へ。ドアを閉めてシートベルトを締めると、柚瑠木さんは車を発進させました。
「……僕が真澄さんの居場所を聖壱に調べてもらっていた事、黙っていてすみませんでした。」
「いいえ、なんとなく柚瑠木さんは知っているのではないかと思っていましたから。」
真面目な柚瑠木さんが、あの事件の事で真澄さんに謝りたいと思うのは当然だと思ったんです。でもきっとその勇気が出ないまま、聖壱さんに預けたままになっていたのではないでしょうか。
もし柚瑠木さんがその一歩を踏み出す事の手伝いを出来たのならば、それだけで私が傍にいて良かったと思えます。
「真澄さんのところまで遠いのですか?柚瑠木さんも疲れているのならば明日にした方が……?」
そう言うと、柚瑠木さんはなぜか私をジッと意味深な瞳で見つめてきて。私はどうして、柚瑠木さんから恨みがましい目で見られているのでしょうか?
「さっき言いましたよね、今夜貴女を妻にすると。僕は今すぐにでもそうしたいと望んでいるのに、月菜さんはまだ僕に我慢しろと……?」
柚瑠木さんの言葉の意味を理解すると同時に顔が真っ赤に染まります。彼がこんな風にはっきりと言う人だったなんて思ってなくて。
この年まで全く経験の無かった私、もちろんそんな事は柚瑠木さんに言葉にされるまで全く分かっていませんでした。それほどまでに彼に強く求めていられている事も。
その事は嬉しいのですが、やはり恥ずかしくなってしまい俯いてしまいます。でもそんな私の態度を見て、柚瑠木さんはため息をついて……
「……月菜さんが嫌なのならば言ってください。勝手に僕だけがその気になっているなんて恥ずかしいですから。」
「い、嫌じゃありません!私だって早く……」
途中まで言いかけて、慌てて手で口を押さえました。私は何という事を口にしようとしていたのでしょう、早く柚瑠木さんに……だなんて。
「月菜さんだって早く……どうして欲しいんですか?」
柚瑠木さんが拳を作って口に当て、笑いそうになるのを誤魔化そうとしているのが分かります。私が何を言いかけたのか分かっているくせに、そうやってわざと聞いてくるなんて。
「柚瑠木さんは意地悪です!」
そうやって怒ってみせると、柚瑠木さんは我慢出来ないと言うように顔を逸らして肩を震わせます。でも、そんな彼の頬と耳がうっすら赤く染まっている事に気付いて……
「柚瑠木さん、もしかしてテレているのですか?」
まさかと思いながらもそう聞いてみると、柚瑠木さんはゆっくりとこっちを向いて。
「……いけませんか?僕だって月菜さんの可愛い反応に、何も感じていないわけじゃないんですから。」
柚瑠木さんにそんな事を言われてますます熱くなる私の顔、一生懸命両手を当てて冷やそうとするけれどそんな様子も彼はジッと見ていて……
「もう、こっちを見ないでください。」
恥ずかしいのに嬉しくてにやけそうになってしまう、そんな変な顔を柚瑠木さんに見せる訳にはいかないのです。それなのに柚瑠木さんはこんな時だけ意地悪になって。
「嫌です、自分の妻を見て何が悪いんですか。月菜さんのどんな表情だって夫である僕のものでしょう?」
どうしてそんな事ばかり言うんです?どんどん甘く独占欲を隠そうともしなくなってくる柚瑠木さんに、私は翻弄されるばかりなのに。
こんな時に限って赤信号がなかなか青に変わらないのは何故?
私の答えを黙って待っている柚瑠木さんに、恥ずかしさからかろうじて聞こえるような声で返事をしました。
「……私の全てが柚瑠木さんだけのものです。どんな表情もこの心と身体も。」
そう言った瞬間、車が動き出して。びっくりして顔を上げると信号が青に変わっていた事に気付きました。
……さっきの私の言葉、もしかして聞こえなかったのでしょうか?柚瑠木さんは無表情で前だけを向いて運転に集中しているようで。
彼に聞こえて無くてホッとしたような、でも少し残念な気もしていたんです。だけど……
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