上 下
56 / 127
契約結婚を終える時には…

契約結婚を終える時には…

しおりを挟む


 柚瑠木ゆるぎさんは私の手を引いて部屋を出ると、鍵をかけてそのまま駐車場へと向かいました。
 助手席のドアを開けて私を座らせると、彼はそのまま運転席へ。ドアを閉めてシートベルトを締めると、柚瑠木さんは車を発進させました。

「……僕が真澄ますみさんの居場所を聖壱せいいちに調べてもらっていた事、黙っていてすみませんでした。」

「いいえ、なんとなく柚瑠木さんは知っているのではないかと思っていましたから。」
 
 真面目な柚瑠木さんが、あの事件の事で真澄さんに謝りたいと思うのは当然だと思ったんです。でもきっとその勇気が出ないまま、聖壱さんに預けたままになっていたのではないでしょうか。
 もし柚瑠木さんがその一歩を踏み出す事の手伝いを出来たのならば、それだけで私が傍にいて良かったと思えます。

「真澄さんのところまで遠いのですか?柚瑠木さんも疲れているのならば明日にした方が……?」

 そう言うと、柚瑠木さんはなぜか私をジッと意味深な瞳で見つめてきて。私はどうして、柚瑠木さんから恨みがましい目で見られているのでしょうか?

「さっき言いましたよね、今夜貴女を妻にすると。僕は今すぐにでもそうしたいと望んでいるのに、月菜つきなさんはまだ僕に我慢しろと……?」

 柚瑠木さんの言葉の意味を理解すると同時に顔が真っ赤に染まります。彼がこんな風にはっきりと言う人だったなんて思ってなくて。




 この年まで全く経験の無かった私、もちろんそんな事は柚瑠木ゆるぎさんに言葉にされるまで全く分かっていませんでした。それほどまでに彼に強く求めていられている事も。
 その事は嬉しいのですが、やはり恥ずかしくなってしまい俯いてしまいます。でもそんな私の態度を見て、柚瑠木さんはため息をついて……

「……月菜つきなさんが嫌なのならば言ってください。勝手に僕だけがその気になっているなんて恥ずかしいですから。」

「い、嫌じゃありません!私だって早く……」

 途中まで言いかけて、慌てて手で口を押さえました。私は何という事を口にしようとしていたのでしょう、早く柚瑠木さんに……だなんて。

「月菜さんだって早く……どうして欲しいんですか?」

 柚瑠木さんが拳を作って口に当て、笑いそうになるのを誤魔化そうとしているのが分かります。私が何を言いかけたのか分かっているくせに、そうやってわざと聞いてくるなんて。

「柚瑠木さんは意地悪です!」

 そうやって怒ってみせると、柚瑠木さんは我慢出来ないと言うように顔を逸らして肩を震わせます。でも、そんな彼の頬と耳がうっすら赤く染まっている事に気付いて……
 
「柚瑠木さん、もしかしてテレているのですか?」

 まさかと思いながらもそう聞いてみると、柚瑠木さんはゆっくりとこっちを向いて。

「……いけませんか?僕だって月菜さんの可愛い反応に、何も感じていないわけじゃないんですから。」




 柚瑠木ゆるぎさんにそんな事を言われてますます熱くなる私の顔、一生懸命両手を当てて冷やそうとするけれどそんな様子も彼はジッと見ていて……

「もう、こっちを見ないでください。」

 恥ずかしいのに嬉しくてにやけそうになってしまう、そんな変な顔を柚瑠木さんに見せる訳にはいかないのです。それなのに柚瑠木さんはこんな時だけ意地悪になって。

「嫌です、自分の妻を見て何が悪いんですか。月菜つきなさんのどんな表情だって夫である僕のものでしょう?」

 どうしてそんな事ばかり言うんです?どんどん甘く独占欲を隠そうともしなくなってくる柚瑠木さんに、私は翻弄されるばかりなのに。
 こんな時に限って赤信号がなかなか青に変わらないのは何故?
 私の答えを黙って待っている柚瑠木さんに、恥ずかしさからかろうじて聞こえるような声で返事をしました。

「……私の全てが柚瑠木さんだけのものです。どんな表情もこの心と身体も。」

 そう言った瞬間、車が動き出して。びっくりして顔を上げると信号が青に変わっていた事に気付きました。
 ……さっきの私の言葉、もしかして聞こえなかったのでしょうか?柚瑠木さんは無表情で前だけを向いて運転に集中しているようで。
 彼に聞こえて無くてホッとしたような、でも少し残念な気もしていたんです。だけど……


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

【完結】東京・金沢 恋慕情 ~サレ妻は御曹司に愛されて~

安里海
恋愛
佐藤沙羅(35歳)は結婚して13年になる専業主婦。 愛する夫の政志(38歳)と、12歳になる可愛い娘の美幸、家族3人で、小さな幸せを積み上げていく暮らしを専業主婦である紗羅は大切にしていた。 その幸せが来訪者に寄って壊される。 夫の政志が不倫をしていたのだ。 不安を持ちながら、自分の道を沙羅は歩み出す。 里帰りの最中、高校時代に付き合って居た高良慶太(35歳)と偶然再会する。再燃する恋心を止められず、沙羅は慶太と結ばれる。 バツイチになった沙羅とTAKARAグループの後継ぎの慶太の恋の行方は? 表紙は、自作です。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...