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契約結婚の全てを知って…

契約結婚の全てを知って…2

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「あの頃の僕は周りとの交流を避けて殻に閉じこもってばかりだったのに、真澄ますみさんはそんな事はお構いなしに僕を外に連れ出すような人でした。父や母から頼まれた勉強は二の次で、彼女は僕に色んなものを見せ教えてくれたんです。」

 今の柚瑠木ゆるぎさんからは想像も出来ないような子供時代、それを少しずつ変えていったのがきっと真澄さんという存在なのでしょう。
 柚瑠木さんの話し方から、彼が真澄さんの行動に戸惑いながらも少しずつ心を開いていったことがなんとなく分かりました。

「真澄さんはどこに僕を連れ出す時も、いつも必ず手を握ってくれました。僕が何度恥ずかしいから、と言っても彼女はこの手を離したりしなかった。いつの間にか僕もそれが当たり前になっていて、気にしなくなるほどに……」

 知りたいと思っていた柚瑠木さんと真澄さんの事なのに、2人の親密な関係を聞けば胸が苦しくなる。そんな自分をどうしていいのか分からないまま。
 もしその頃の柚瑠木さんに私が出会えていたら……そんな事を考えても、私では真澄さんの代わりにはなれないのに。

「柚瑠木さんにとって真澄さんは……いえ、続きを話してもらえますか?」

 もし私が柚瑠木さんの立場だとしたら、真澄さんに恋心を抱いてもおかしくはありません。でもそんな事を聞く勇気は私には無かったのです。




月菜つきなさん……本当に無理をしていませんか?」

 そんな私の変化にも柚瑠木ゆるぎさんは気付いてくれて、優しい言葉をかけてくれます。けれど、今は柚瑠木さんになんとなく甘えられない気がして……

「大丈夫です、続きをお願いします。」

 今の私に言えることはそれしかありませんでした。だって本当に辛いのは、悲しい過去を思い出しながら私に話している柚瑠木さんのはずなのですから。 
 それでも柚瑠木さんの過去を知りたい、苦しんでいる理由を貴方から話して欲しいと思ってしまうんです。

「……分かりました。僕の事を二階堂にかいどう財閥の御曹司ではなく、ただの一人の人間として自然に接してくれる真澄ますみさん相手に僕が心を開くまで大した時間はかかりませんでした。友人のように、時には姉みたいに振舞う真澄さんは、いつの間にか僕にとって特別な存在になっていて……」

 柚瑠木さんの言葉に胸が「ズキン」と痛みます。やはり彼にとっての【特別】は真澄さんなのですね。これから先も、私が柚瑠木さんの一番の特別になれる日はこないのでしょうか?

「恋……をしたのですか?」

 その答えを知りたくないのに、我慢出来ずに柚瑠木さんに聞いてしまったんです。
 柚瑠木さんの事はどんな事でも受け入れると言ったのに、私はまだそんなに強くなれていないのかもしれません。




 私の問いかけによって柚瑠木ゆるぎさんの表情は曇り、彼が私への返答に悩んでいることが分かります。私だってこんな風に柚瑠木さんを困らせたいわけではないのに……
 もしその答えが私にとって辛いものでも、きっと柚瑠木さんは嘘をついたりしないと思います。だって……大切な人に嘘をつかれたほうがずっと苦しいって事を、柚瑠木さんが一番分かっているはずですから。

「……そうですね、僕は真澄ますみさんに恋をしていたんだと思います。多分、初恋でした。」

 覚悟していた言葉でしたが、やはりショックでした。私と出会う前の柚瑠木さんが誰かに恋をしていた。そんなの当然なのに、真澄さんがその相手だと思うと苦しくて……
 もし今も真澄さんが柚瑠木さんの傍にいたとしたら、私はここにはいなかったかもしれない、と。

「真澄さんのおかげで少しずつ僕も外の世界に目を向けるようになりました。誰よりも僕の事を親身になって考えてくれる真澄さんを、いつの間にか両親以上に信頼するようになっていて……」

 そこまで話すと柚瑠木さんは私に「少し待っていてください」とだけ言って、寝室へと入っていきました。すぐに寝室から出て来た柚瑠木さんは、片手に小さなアルバムを持っていました。

「この人が、真澄さんです。そして……これがあの日起こった出来事、僕の悪夢の原因です。」

 柚瑠木さんの見せてくれたアルバムには、活発そうでショートヘアーが似合う女性の写真。その隣には小さな新聞の切り抜きが貼り付けてあって……


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