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契約結婚は謎ばかりです!
契約結婚は謎ばかりです!
しおりを挟むそっと隣の柚瑠木さんを見ると、彼は私に背を向けていて……寝顔くらい見せてくれてもいいのに、と思いました。
ちょっと残念に思いながらも目を閉じると、まだ疲れていたのかすぐに眠りにつくことが出来ました。
「……んで………おねが……めて…うああっ……!」
柚瑠木さんの大きな声に驚いて、私は目を覚ましました。唸り声のようで悲鳴のようでもあるその声が信じられなくて、ベッドから降りて柚瑠木さんに近付きます。
そーっと柚瑠木さんの顔を覗き込むと苦悶に満ちた表情をしていて、とても普通に眠っている状態だとは思えませんでした。
「……柚瑠木さん?」
名前を呼んでみても柚瑠木さんは、私の声には気付かないようで寝巻の胸元を掴んで苦しそうにしていて……
「うう……うして……めて……うううっ……!」
もうこれ以上放っておけない、私は柚瑠木さんの身体に触れ彼を起こすために揺らし始めました。後で彼から怒られても構いません。
「柚瑠木さん!起きてください、柚瑠木さん!」
普段出さないような大きな声を出して、柚瑠木さんの身体を揺らします。ビクリっと柚瑠木さんの身体が震えたと思ったら、彼はガバリと起き上がって……
「柚瑠木さん、よかっ……えっ!?」
声をかけた私に、勢いよく抱きついてきたのでした。
「あの……柚瑠木さん、大丈夫ですか?」
目が覚めたのだと思って訪ねてみても、彼から聞こえるのは「ハアハア」と荒い呼吸音だけ。私の事をきつく抱きしめる柚瑠木さんの腕の力は全く緩みそうになくて。
私は少しでも柚瑠木さんに落ち着いて欲しくて、彼の背に腕を回しました。
「……かないで……ねがい……せい……」
もしかして、行かないで……でしょうか?柚瑠木さんはいまだ夢の中、誰かを必死に引き止めてるのかもしれません。
柚瑠木さんがこんなに必死になる相手とはどんな方なのか……気にならないと言えば嘘になります。ですが今は私に甘えるようにしがみつく柚瑠木さんの背を撫でてあげたいんです。
彼の呼吸が少しずつ落ち着いて来るのを確認して、私はもう一度柚瑠木さんに声をかけました。
「柚瑠木さん、私の事が分かりますか?私は月菜です。」
私の名を伝えると、柚瑠木さんがピクリと反応しました。どうやら私の事が分かるようになったみたいです。ゆっくりと私を抱きしめていた腕が離れていき、柚瑠木さんが顔を上げました。
「月菜さん……」
「ああ、汗びっしょりですね。ちょっと待っていてください。」
急いでタオルを取って来て、柚瑠木さんの汗を拭いてあげます。私が出来るとこだけ拭き終わると、柚瑠木さんにタオルを渡しました。
「月菜さん、貴女は……」
柚瑠木さんが何か言いかけて言葉を止めたので、私は首をかしげます。もしかして何か言いづらい事なのでしょうか?
「何でしょう?そうだわ、汗が気持ち悪いなら今からシャワーを浴びて……」
そう言いかけた時、柚瑠木さんに手首を掴まれ、グッと引っ張られたんです。
「えっ……あの、柚瑠木さん……?」
もしかして口付けされるのかと思いました。それほどまでに柚瑠木さんと私の距離は近かったのです。
冷たくて真っ直ぐな柚瑠木さんの黒い瞳に見つめられると、上手く息も出来なくなりそうです。けれど私は目を逸らしちゃいけない気がして、柚瑠木さんをジッと見つめ返しました。
「……月菜さんは、僕が怖くないのですか?」
「怖いって、柚瑠木さんの事がですか?」
正直私には、柚瑠木さんの言っている事がよくわかりません。確かに柚瑠木さんの事がよく分からないとは何度も思いましたが、彼の事を怖いと思ったことは無かったので。
「月菜さんも見たんでしょう、酷く魘される僕の姿を。それを見て怖くなかったかと聞いているんです。」
柚瑠木さんは確かに吃驚するほど魘されていました。だからってそんな理由で柚瑠木さんを怖がれと言うのでしょうか?私は自分の夫が苦しんでいるのを、そんな風には思えません。
それに今の柚瑠木さんに対する私の気持ちは、怖いではなくて……心配なんです。
「私は柚瑠木さんの事が怖くありませんし、嫌でもありません。今は私に何かできることは無いかと考えています。」
目を見開いて私を見つめる柚瑠木さんの手に自分の手を重ねて、もう一度繰り返します。
「私は……どんな小さなことでも良いので、柚瑠木さんの役に立ちたいんです。」
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