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契約結婚には秘密がある?

契約結婚には秘密がある?4

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 狭山さやま常務から目の前に差し出されたスマホ、これで柚瑠木ゆるぎさんに助けを求めれば私はここから解放されるのでしょうか……?
 ここにいる狭山常務も周りの年配の男性も若い女性も、みんなとても怖いです。
 受け取る事も拒否する事も出来ずただじっとスマホを見つめることしか出来なくて。

 柚瑠木さん、今回だけは私は貴方に助けを求めてもいいですか……?そう考えましたが、私は結婚して今までひとつも柚瑠木さんの役に立てていません。それなのに彼に迷惑だけかける訳にはいかないと思ったんです!
 私はしっかりと心の準備をして、狭山常務から差し出されてスマホに手を伸ばしました。

「私は……私は、柚瑠木さんに電話をかけるつもりはありません!」

 私は常務の手からスマホを床へと払い落しました。震える身体にギュッと力を入れて、私に出来る事はやったつもりでした。
 私が反抗することを予想していなかったのでしょう。狭山常務は驚いた顔で私を見下ろしていました。

「私は柚瑠木さんの妻です。こんな事で彼に迷惑をかける訳にはいかないんです。」

「自分の事より二階堂にかいどう君が大事ですか?ちゃんと私の言う事を聞けば貴女は無傷で帰れるんですよ?」

 確かに私が柚瑠木さんを呼べば私はこのまま帰してもらえるのかもしれません。






 けれど彼にどう思われていようと、私は柚瑠木ゆるぎさんの妻なんです。大切な夫を守りたい、そう思ってもいいはずでしょう?
 それなりに危険なことは覚悟はしていました、だけど……

香津美かつみ!いったいどうした!? 』

「待って聖壱せいいちさん、今、月菜つきなさんが……」

 狭山さやま常務はスマホを拾い上げもう一度私に差し出しました。今度はさっきのような嫌な笑みを浮かべていません。
 ……狭山常務の事はとても怖いです。けれど私は自分の意見を変えるつもりはありませんでした。

「これが最後です、よく考えてごらんなさい?」

「……いいえ、私の考えは変わりません。私は夫の柚瑠木さんの事を一番に優先します。」

 声が震えてしまいましたが、きちんと自分の気持ちを言う事が出来たと思います。
 柚瑠木さんのことを考えると、怖くて普段は出来ない事も出来るんじゃないかと思えます。傍にいてくれている香津美さんも、私に勇気をくれますし。

 ですがわたしが反抗的な態度をみせると、狭山常務は激怒し手を振り上げて……!

「この生意気な小娘……!」

 早く動いて避けなければいけないのに、身体は少しも動きません。そんな震える私の前に香津美さんが飛び出し、狭山常務から私を庇おうとしてくれて……!




 私の上に覆いかぶさった香津美かつみさんが衝撃に備え身を固くすると、私もそれにつられて瞳をギュッと閉じました。このままでは私の所為で香津美さんが、暴力を振るわれてしまうのに……!

 けれどいつまで経っても、私や香津美さんをに振り上げられた手が下りてくることは無くて。
 恐る恐る瞳を開いてみると、私達を殴ろうと振り上げた狭山さやま常務の手首を、きつく掴んだ狭山さん。
 そして部屋の入り口には厳しい表情をした柚瑠木ゆるぎさんも立っているではないですか。

「香津美、月菜つきなさん。2人とも無事か?」

 狭山さんがやってきたことで香津美さんが心底ホッとした表情を浮かべたのが分かりました。相手の事を信頼し、こんなにも想い合っているんですね。
 そんな2人の仲を見ていると、羨ましくて仕方ありませんでした。それに比べて私と柚瑠木さんの関係は何なのだろうと思い知らされてしまうのです。

 けれど……

「香津美さん、月菜さんをこちらに……」

 いつの間にか私たちの傍まで来ていた柚瑠木さんが、香津美さんにしがみついていたまま離れられないでいた私に手を伸ばしてきて……
 そっと私を受け止めて優しく抱きしめてくれたんです。初めてでした、柚瑠木さんが本当の妻にするように私に接してくれたのは。
 だから私は普段は我慢している涙も、今は堪えることが出来なくて……

「柚瑠木さん、すみません……私、柚瑠木さんにご迷惑を……」

 柚瑠木さんは私の涙を優しく手で拭ってくれます。私はそんな柚瑠木さんの上着をギュッと掴んでしまいました。今だけはもっと強く抱きしめられていたかったから。

「いいえ、月菜さんは何も悪くありません。僕は迷惑だなんて思っていませんから。」

 柚瑠木さんは私に応えるよう、抱きしめていた腕に力を込めてそう答えてくれました。柚瑠木さんは私の事を、迷惑だと思わないでいてくれました……今はその言葉だけで十分です。
 ホッとして安堵の笑みを浮かべると、目の前が真っ暗になりそのまま意識を失いました。



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