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後編
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エレノアは、そう言うと屋敷から出て行った。
「ダット子爵家を調べろ」
執事へ指示を出し、エレノアを探していた部下を引き上げさせた。
数日後、報告書が届き。中を確認するとエレノアが言った通り、乳母の娘と仲睦まじいダット子爵家次男ランスの事が書かれていた。
しかも、通っていた学園も違い。直接会った事が無いエレノアの事を愚弄する言葉も…
「私の娘と会った事も無い人間が何を吹聴している?」
「それは誤解で御座います。ランスは剣の腕も貴方様に認められる程、失礼ながらご令嬢の噂は私共の耳にも入っております。
男の中に交り剣を握り、教師を脅して不正な成績を残した等。
悪いが貴方様のご息女の評判は最悪ですぞ。
それの全てに目を瞑りそれでも婚約者になろうとしたランスを叱責なさると申しますか?」
ダット夫妻は、如何にランスが冷酷無比なエレノアに対し真摯に向き合う覚悟があったかと言っているが。
「では、この報告書は嘘だと仰るのですね」
テーブルの上へ投げつけた封筒から中身を確認すると、余裕を見せていたダット子爵の顔色が変わる。
「これは我が家への侮辱だ。ご子息が吹聴していた事を裏付ける証人もいる。しかも、乳母の娘と付き合っているらしいな。これも嘘だと言うのだな!」
「貴方様は娘への興味など無いはず。ランスを後継者にしたいが為にあの様な娘と優秀なランスと婚約を結ぼうとなさった!
愛する者を近くに置きたいと思うのは当たり前。あんな悪評しか無い娘と結婚しなければならないランスが可哀想とは思われないのですか!」
「はっ! それが本心か? ダット子爵よ、あまり我が家を見くびるな。
この話、悪いが陛下へ伝えさせてもらう」
「手に剣だこがあり、身体も傷ものの娘と結婚したがる男など誰も居ない!
そんな傷ものと、うちのランスの未来。どちらが大切かは明白ですぞ!
陛下へ伝えて、貴方様が恥をかかれるより。穏便に済まそうではありませんか」
にやけた顔をするダット子爵を見て、考えるより先に殴り飛ばしていた。
「私の娘を愚弄する事は許さん! 失礼する」
「旦那様、これが全てで御座います」
屋敷へ帰り、指示していた通りエレノアの部屋に残っていた物を整理させ本は自室へ持ってこさせた。
一冊を手に取り、パラパラと捲ると使い込まれたのだろう、端は少し縒れてしまっていた。
数冊、同じようにパラパラと見ていると。本と本の間にあったノートが床へ落ちた。
丁寧に書かれた文字。ふとページを捲ると小さな文字が書いてある。
『学園で一番になったの。剣術では三位だったけど、お父様は褒めて下さるかしら?
いいえ、愛するお母様を死へ追いやった私の事なんて、きっと見たくは無いわね。
それでも、私は…』
その後も何か書いてあったが、黒く塗りつぶされて読めなかった。
エレノア、エレノア!
私は娘の何を見てきたのか!
あの娘が言っていた通り、私の娘の魂はもう居ないのか!
『旦那様! エレノア様が!』
執事が部屋へ駆け込んで来た。
『エレノアなら部屋へ下がらせたが』
『胸に自ら剣を刺され… 絶命なされました』
『なに…』
エレノアの部屋には血溜まりができ、仰向けに倒れたエレノアはピクリとも動かない。
『医者を呼べ! 早く!』
『既に呼んでおります』
先ほどまで話していたエレノアを思い出そうとするが、エレノアの顔が思い出せない。
『死ぬなエレノア、お願いだ… 私を一人にしないでくれ』
『医者が到着しました! 先生早く!』
『エレノア様を早くこちらへ!』
『死因はこの心臓へ刺した剣でしょう。血を多く流し過ぎたのが致命傷かと』
ベッドに寝かされたエレノアは、綺麗に血を拭き取られ。今にも起き上がってきそうだった。
『旦那様、エレノア様の机にありました』
渡された紙に書かれていたのは。
『エレノアは死にました』
あぁ… あぁぁぁあぁぁ!!
自分の叫び声で目を覚ました。ノートを見ながらソファで眠っていたらしい。
心臓がドクドクと脈をうち、今見たのが夢なのか、この前来たエレノアの身体をした娘が言っていた事か区別がつかない。
「旦那様! 大丈夫で御座いますか!」
普段、取り乱す事が無い執事がノックも無しに駆け寄ってきた。
「大丈夫だ。…夢を見ていた」
「夢… で御座いますか」
「あぁ、私は夢の中でもエレノアを助ける事が出来なかった。
教えてくれ… 私はどこから間違えてしまったんだ」
笑っていたのだ。夢の中で見たエレノアの死に顔は笑っていた…
「私は娘一人守れない… 何が英雄だ、何が誉れ高い騎士だ」
******
「良かったのかい?」
「ん? 何が?」
私達は今、テディの祖国である国へ行く為。船に乗り甲板から海を眺めていた。
「エレノアと良く似ていたよ、あの父親。
きっと不器用なんだろうな」
「でも、全てを不器用で済ませるつもりは無いわ」
部屋から出る時に見た、エレノアの父親は今にも泣き出しそうだった。
「人間は間違いを犯す生き物だ。エレノアも父親へぶつかれば良かった、それは父親も同じだ」
確かに間違いは誰にでもある。私にも後悔した事は沢山あったが、
「テディ、私はエレノアの最後を夢に見たの」
屋敷から帰ってきた日、私は夢を見た。
胸へ短剣を突き刺した時、エレノアは笑ったのだ。
『お父様… 幸せになって』
愛していたのだ。あの不器用な父親をエレノアは自分が居なくなる事で、幸せになれると信じていた。
「いつか… 子どもを授かったら。顔を見せてあげよう」
「そうね。きっと赤ん坊の抱き方すら知らないわ」
「エリー、君が教えてあげれば良い」
ねぇ、エレノア。あなたは愛されていたわ。
でも、お互い愛し方が分からなかっただけ。
だから、一緒に愛し方を学びましょ。
大丈夫、私達はいつでもエレノア。あなたに会える日を待ち望んでいるわ。
隣に立つテディと手を繋ぎ、自分の事は全て話したが。私は彼の事を何一つ知らない事に今更ながら気づいた。
「ずっと気になっていたの。テディ、あなたは何者なの?」
髪を整え、ヒゲを剃ったテディは祭服を纏い。最初見た時はびっくりした。
「俺か? そうだな… 神の国と呼ばれている我が国は知っているか?」
「えぇ、名前だけは。イサナ国でしょ」
「イサナ国の国教である、モイズ教の司祭だ。赤ん坊の時に神殿の門の所へ捨てられ、俺はそこで育った。
毎週、家族で神殿へ来る人々を見ていたよ。住む場所も食べる物もあった、だけど俺には家族と呼べる人は居なかった。
ある日、祈りの間で神託を授かったんだ。
『神の国より導かれた魂と寄り添え』
最初は意味が分からなかったが、何かに導かれるように俺はあの場所で誰かを待っていた。
そしてエリー、君に出会えた。俺は初めて愛すると言う心を知ったんだ」
神の国… イサナ…
ハッとしてテディを見上げたが、優しく微笑む姿に自分の考えは言わず。この胸の中だけで、本当の答えに辿り着いたのだと確信した。
「私もテディに会えた。それだけで幸せよ」
あの日、私は神社で手を合わせた。
『本物の愛を私に教えて下さい』
願いを叶えて頂いたのね。
どこまでも続く青空と海を眺め、瞳を閉じた。
ありがとうございます。
私は、ここで愛を知りました。
遠くない未来、きっとエレノアに会えるだろう。
その時は、この手であの娘を抱きしめ愛していると伝えたい。
「ダット子爵家を調べろ」
執事へ指示を出し、エレノアを探していた部下を引き上げさせた。
数日後、報告書が届き。中を確認するとエレノアが言った通り、乳母の娘と仲睦まじいダット子爵家次男ランスの事が書かれていた。
しかも、通っていた学園も違い。直接会った事が無いエレノアの事を愚弄する言葉も…
「私の娘と会った事も無い人間が何を吹聴している?」
「それは誤解で御座います。ランスは剣の腕も貴方様に認められる程、失礼ながらご令嬢の噂は私共の耳にも入っております。
男の中に交り剣を握り、教師を脅して不正な成績を残した等。
悪いが貴方様のご息女の評判は最悪ですぞ。
それの全てに目を瞑りそれでも婚約者になろうとしたランスを叱責なさると申しますか?」
ダット夫妻は、如何にランスが冷酷無比なエレノアに対し真摯に向き合う覚悟があったかと言っているが。
「では、この報告書は嘘だと仰るのですね」
テーブルの上へ投げつけた封筒から中身を確認すると、余裕を見せていたダット子爵の顔色が変わる。
「これは我が家への侮辱だ。ご子息が吹聴していた事を裏付ける証人もいる。しかも、乳母の娘と付き合っているらしいな。これも嘘だと言うのだな!」
「貴方様は娘への興味など無いはず。ランスを後継者にしたいが為にあの様な娘と優秀なランスと婚約を結ぼうとなさった!
愛する者を近くに置きたいと思うのは当たり前。あんな悪評しか無い娘と結婚しなければならないランスが可哀想とは思われないのですか!」
「はっ! それが本心か? ダット子爵よ、あまり我が家を見くびるな。
この話、悪いが陛下へ伝えさせてもらう」
「手に剣だこがあり、身体も傷ものの娘と結婚したがる男など誰も居ない!
そんな傷ものと、うちのランスの未来。どちらが大切かは明白ですぞ!
陛下へ伝えて、貴方様が恥をかかれるより。穏便に済まそうではありませんか」
にやけた顔をするダット子爵を見て、考えるより先に殴り飛ばしていた。
「私の娘を愚弄する事は許さん! 失礼する」
「旦那様、これが全てで御座います」
屋敷へ帰り、指示していた通りエレノアの部屋に残っていた物を整理させ本は自室へ持ってこさせた。
一冊を手に取り、パラパラと捲ると使い込まれたのだろう、端は少し縒れてしまっていた。
数冊、同じようにパラパラと見ていると。本と本の間にあったノートが床へ落ちた。
丁寧に書かれた文字。ふとページを捲ると小さな文字が書いてある。
『学園で一番になったの。剣術では三位だったけど、お父様は褒めて下さるかしら?
いいえ、愛するお母様を死へ追いやった私の事なんて、きっと見たくは無いわね。
それでも、私は…』
その後も何か書いてあったが、黒く塗りつぶされて読めなかった。
エレノア、エレノア!
私は娘の何を見てきたのか!
あの娘が言っていた通り、私の娘の魂はもう居ないのか!
『旦那様! エレノア様が!』
執事が部屋へ駆け込んで来た。
『エレノアなら部屋へ下がらせたが』
『胸に自ら剣を刺され… 絶命なされました』
『なに…』
エレノアの部屋には血溜まりができ、仰向けに倒れたエレノアはピクリとも動かない。
『医者を呼べ! 早く!』
『既に呼んでおります』
先ほどまで話していたエレノアを思い出そうとするが、エレノアの顔が思い出せない。
『死ぬなエレノア、お願いだ… 私を一人にしないでくれ』
『医者が到着しました! 先生早く!』
『エレノア様を早くこちらへ!』
『死因はこの心臓へ刺した剣でしょう。血を多く流し過ぎたのが致命傷かと』
ベッドに寝かされたエレノアは、綺麗に血を拭き取られ。今にも起き上がってきそうだった。
『旦那様、エレノア様の机にありました』
渡された紙に書かれていたのは。
『エレノアは死にました』
あぁ… あぁぁぁあぁぁ!!
自分の叫び声で目を覚ました。ノートを見ながらソファで眠っていたらしい。
心臓がドクドクと脈をうち、今見たのが夢なのか、この前来たエレノアの身体をした娘が言っていた事か区別がつかない。
「旦那様! 大丈夫で御座いますか!」
普段、取り乱す事が無い執事がノックも無しに駆け寄ってきた。
「大丈夫だ。…夢を見ていた」
「夢… で御座いますか」
「あぁ、私は夢の中でもエレノアを助ける事が出来なかった。
教えてくれ… 私はどこから間違えてしまったんだ」
笑っていたのだ。夢の中で見たエレノアの死に顔は笑っていた…
「私は娘一人守れない… 何が英雄だ、何が誉れ高い騎士だ」
******
「良かったのかい?」
「ん? 何が?」
私達は今、テディの祖国である国へ行く為。船に乗り甲板から海を眺めていた。
「エレノアと良く似ていたよ、あの父親。
きっと不器用なんだろうな」
「でも、全てを不器用で済ませるつもりは無いわ」
部屋から出る時に見た、エレノアの父親は今にも泣き出しそうだった。
「人間は間違いを犯す生き物だ。エレノアも父親へぶつかれば良かった、それは父親も同じだ」
確かに間違いは誰にでもある。私にも後悔した事は沢山あったが、
「テディ、私はエレノアの最後を夢に見たの」
屋敷から帰ってきた日、私は夢を見た。
胸へ短剣を突き刺した時、エレノアは笑ったのだ。
『お父様… 幸せになって』
愛していたのだ。あの不器用な父親をエレノアは自分が居なくなる事で、幸せになれると信じていた。
「いつか… 子どもを授かったら。顔を見せてあげよう」
「そうね。きっと赤ん坊の抱き方すら知らないわ」
「エリー、君が教えてあげれば良い」
ねぇ、エレノア。あなたは愛されていたわ。
でも、お互い愛し方が分からなかっただけ。
だから、一緒に愛し方を学びましょ。
大丈夫、私達はいつでもエレノア。あなたに会える日を待ち望んでいるわ。
隣に立つテディと手を繋ぎ、自分の事は全て話したが。私は彼の事を何一つ知らない事に今更ながら気づいた。
「ずっと気になっていたの。テディ、あなたは何者なの?」
髪を整え、ヒゲを剃ったテディは祭服を纏い。最初見た時はびっくりした。
「俺か? そうだな… 神の国と呼ばれている我が国は知っているか?」
「えぇ、名前だけは。イサナ国でしょ」
「イサナ国の国教である、モイズ教の司祭だ。赤ん坊の時に神殿の門の所へ捨てられ、俺はそこで育った。
毎週、家族で神殿へ来る人々を見ていたよ。住む場所も食べる物もあった、だけど俺には家族と呼べる人は居なかった。
ある日、祈りの間で神託を授かったんだ。
『神の国より導かれた魂と寄り添え』
最初は意味が分からなかったが、何かに導かれるように俺はあの場所で誰かを待っていた。
そしてエリー、君に出会えた。俺は初めて愛すると言う心を知ったんだ」
神の国… イサナ…
ハッとしてテディを見上げたが、優しく微笑む姿に自分の考えは言わず。この胸の中だけで、本当の答えに辿り着いたのだと確信した。
「私もテディに会えた。それだけで幸せよ」
あの日、私は神社で手を合わせた。
『本物の愛を私に教えて下さい』
願いを叶えて頂いたのね。
どこまでも続く青空と海を眺め、瞳を閉じた。
ありがとうございます。
私は、ここで愛を知りました。
遠くない未来、きっとエレノアに会えるだろう。
その時は、この手であの娘を抱きしめ愛していると伝えたい。
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