決められた運命

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彼女

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 なく 鳴く 泣く…


 気づいた時には金の鳥籠の中だった。

 神は私を片翼の天使と呼ぶ。

 大切だから、好きだから、愛しているから、誰にも奪われないようにしていると。

 神にしか会わない日々が、何年、何十年、何百年…

 鳥籠から見える景色は、色とりどりの花がいつまでもどこまでも咲き乱れる。いつだって春。

 決して鳥籠から出ない、飛べない私に油断したのか、神が扉の鍵を締め忘れたあの日。

 色とりどりの花の中に、真っ黒な何かが居た。

 神以外の生き物。初めて見る真っ黒な何かは私を見て、その背中にある真っ黒な羽根を広げた。

「お前、そんな小さな鳥籠の中でしか生きられないのか? その足はお飾りか? くだらねぇ」

 その時に感じた初めての感覚。

「そうなの! 私は憐れで醜くて寂しくて花が綺麗に咲くのにすら嫉妬する。だから泣くしか出来ないの」

「泣く? 今、お前笑ってるじゃないか」

「え? ないてるよ、笑うって何?」

「お前馬鹿だろ? 笑う事も知らないのか」

「だって私は神の片翼の天使だから、完璧な神には不必要な物で創られた」

「やっぱりお前は馬鹿だな。こりゃ良い、お前を気に入った、一緒に来るか?」

「なくしか出来ないよ?」

「あぁ、鳴け。泣き叫べ、疲れ果てた先には俺が居てやる」


 彼はそう言って私へ手を差し伸べた。


 その手に掴まれば、私は真っ黒な羽根に包まれる。彼の羽根の中では全てが真っ黒に染まり…

「これはいらない。だって真っ黒じゃないから邪魔だもの」

 私の背中から生えた片方しかない羽根。飛ぶ事も出来ないのに、神の片翼だから真っ白な羽根。

「真っ黒に染まれるかな?」

 ブチブチと肉が千切れる音がする度に、私には新たな感情が生まれる。

「捨ててしまえ、お前には俺が居てやる」

 彼の羽根の中で私は産まれ変わった。

 

 彼と生きるのは喜び。
 彼と生きるのは怒り。
 彼と生きるのは哀しい。
 彼と生きるのは楽しい。

 あぁ、素晴らしきこの混沌たる世。


「お前の好きなように生きてみろ」

「うん!」

 だから私は今日も声が枯れるまで、疲れて眠るまで。

 
 なく 鳴く 泣く…




 
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