できることなら

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　偶然だが、妻のその当時の趣味は寺社巡りで、当日向かう場所は行きたいと思っていた寺だったそうだ。その日のうちに距離はグッと縮み、話が途切れる事のない楽しい一日を過ごす事が出来た。

　その後も寺社仏閣に美術館や歴史資料館など、美緒と付き合っていた時には行かなかった場所にたくさん行った。自分でも驚くほどアクティブなデートを繰り返していた。

　ただ、初めての場所に行ったり、遠出をする度に美緒と付き合っていた時、ここへ連れて来てやれば良かった。美緒なら喜んでくれただろうかと頭の片隅で考えていた。

　きっとこの頃からだろう、美緒の夢を見る様になったのは。

　だけど俺は夢を見ても朝起きる頃にはすっかり忘れていて、それからも妻とのデートを楽しんでいた。

　無意識といってもいい事だろうが、妻に対しなんて酷い事をしていたんだと我ながら思う。

　しかしながら初めて出会ったと言っても良い性格の持ち主に惹かれていった事は紛れもない事実で、付き合うまでにそう時間はかからなかった。

　そんな妻との時間は紆余曲折あったものの結婚まで順調に進んだ。

　紆余曲折というのは、やはり美緒の事を思い出して俺自身がマリッジブルーに陥ってしまい、別れ話を持ち出したりした事もあった。もちろん結婚後も妻の言いたい事をズバリ言う勝ち気な性格に参ってしまい、離婚も真剣に考えた事もあった。

　それでも2人の子どもを授かる事が出来、持ち家を手にしたりとそれほど大したトラブルもなく幸せに過ごしてきた。

　20年という歳月は俺の心を癒すには充分すぎる時間のはずだった。