時の呪縛

6章

記憶の断片

葉羽と彩由美は、影の導きに従い、時計塔の中央に立つ巨大な時計の前に集まった。影はその周囲を取り囲み、彼らをじっと見つめている。緊張が高まる中、葉羽は心の中で自分の決意を固めていた。過去の真実を知るために、彼らは儀式を行わなければならなかった。

「まずは、過去の記憶を呼び起こす儀式を始める。」影が低い声で言った。「お前たちが失踪者たちの運命を理解することが、私たちの解放に繋がる。」

葉羽は彩由美の手をしっかりと握りしめた。「俺たちが行わなければならないことは、彼らの記憶を受け入れることだ。どんな真実であっても、逃げない。」

「うん、私も一緒にいるから。」彩由美は力強く頷き、彼の決意に応えた。

影は一歩前に進み、時計の針を指差した。「この針が動くことで、過去の記憶が再現される。お前たちがその記憶に触れることで、真実が見えてくる。」

葉羽と彩由美は、影の言葉に従い、時計の針を触れた。触れた瞬間、周囲が眩しい光に包まれ、彼らは再び過去の世界へと引き戻された。光が収まると、目の前にはかつての村の光景が広がっていた。

「ここは…？」葉羽は驚きの声を上げた。彼らは村の広場に立っていた。周りには、村人たちが楽しそうに集まっている。子供たちの笑い声が響き、大人たちは談笑しながら食事を囲んでいる。

「どうやら、村の祭りの日のようだ。」彩由美が言った。彼女の目は、祭りの楽しげな雰囲気に引き込まれている。

「でも、これが失踪事件にどう関係しているのか…」葉羽は不安を感じながら周囲を見渡した。

その時、彼らの目の前に一人の女性が現れた。彼女は華やかな衣装を身にまとい、村人たちの中心で楽しそうに踊っている。葉羽はその女性の顔に見覚えがあった。それは、彼が時計塔で見た写真の中にいた失踪者の一人だった。

「彼女が失踪した村人なのか…」葉羽は思った。

女性は踊りながら、周囲の村人たちと笑い合っていた。しかし、その笑顔の裏には、何か不安を抱えているようにも見えた。葉羽はその表情に引き寄せられ、彼女に近づくことにした。

「あなたは、どうしてここにいるの？」葉羽は女性に声をかけた。女性は驚いたように振り向いた。

「あなたたち…見えないはずなのに。」彼女は一瞬戸惑いの表情を浮かべた。

「私たちは、あなたの記憶を見ているの。あなたの過去を知りたい。」葉羽は真剣な眼差しで言った。

「過去の記憶…それは私たちの運命を決めるもの。私たちは、時計の儀式を行わなければならなかった。だけど、何かが間違っていたの。」女性は悲しそうに言った。

「何が間違っていたの？」彩由美が尋ねると、女性は静かに話し始めた。

「儀式の日、時計が止まったの。私たちは、時計の力に依存していた。それが止まったことで、村に異変が起き始めた。失踪者が次々と現れ、私たちの心が不安に包まれていった。」

「それが、失踪事件の始まりだったのか…」葉羽は思った。彼はその言葉の重みを感じながら、女性の目を見つめた。

「私たちは、過去の選択を受け入れなければならなかった。しかし、誰もそのことを理解できなかった。私たちは恐れ、逃げてしまった。」女性は涙を浮かべながら続けた。

その瞬間、周囲が再び揺れ始めた。葉羽は慌てて女性に手を伸ばした。「待って！あなたの運命を知りたい！」

だが、彼女の姿は次第に薄れていき、周囲の光景も崩れ始めた。葉羽は必死に女性を引き留めようとしたが、その手は虚空に消えていった。

「葉羽！」彩由美が叫ぶ。彼女の声が、葉羽の心に響いた。次の瞬間、彼らは再び暗闇に包まれ、目の前の景色が崩れ去っていく。

光が収まると、彼らは再び時計塔の内部に戻っていた。影たちが周囲を取り囲み、彼らを見つめている。

「何が起こった？」葉羽は心臓が高鳴るのを感じながら尋ねた。

「お前たちが過去を受け入れ、記憶を体験した。その中に、解放の鍵が隠されている。」影が告げた。

「鍵…？」葉羽はその言葉に戸惑った。彼は過去を知ることで、何か大切なことを理解したはずだ。

「これから、もう一度過去の記憶に触れることになる。お前たちがその真実を理解することで、私たちを解放することができるだろう。」影は続けた。

葉羽は彩由美を見つめた。彼女の目には決意が宿っている。「私たちが、過去を受け入れるためにもう一度挑戦する必要があるのね。」

「うん、私たちが解放されるためには、過去を理解しなければならない。」葉羽は頷き、再び時計に手を伸ばした。

「行こう、彩由美。私たちの運命を変えるために。」葉羽は強い決意を持って言った。

そして、彼らは再び過去の世界へと足を踏み入れる準備を整えた。記憶の断片が、彼らを待っている。