ファンタジー推理小説 「時計仕掛けの密室 - 時を欺く幻影」

1章

奇妙な招待状

神藤葉羽は、秋風が肌寒くなってきた夕方の帰り道、ふとポケットに奇妙な感触を覚えた。まるでそこに、突然何かが現れたかのような違和感。鞄にしまっていたはずの鍵を取り出すと、その奥から薄い羊皮紙の封筒がひょっこりと顔を出したのだ。まったく覚えのない代物だった。まるで誰かが密かに彼の持ち物に差し込んだかのように。

「なんだ、これ……？」

葉羽は立ち止まり、その場で封を開けた。羊皮紙の質感は、どこか現実味を感じさせない。古びているのに、ついさっき書かれたばかりのような新鮮さもある。招待状らしき手紙には、こう書かれていた。

「**謎解きパーティーに招待する。来る者には、知恵と勇気が試される。場所は、君が最初に読んだ推理小説の舞台だ。待っている。**」

文面は簡潔だが、同時に異様な魅力を放っている。葉羽は眉をひそめた。「最初に読んだ推理小説？」それは、彼が小学生の時に夢中になった作品『白い館の殺人』だった。しかもその舞台は、辺鄙な森の中に建つ、まるで城のような大邸宅。しかし、そんな場所が現実に存在するはずがない。

「何かの冗談か？」

葉羽は推理好きとしての血が騒ぎ、軽く笑ってしまった。だが同時に、この奇妙な手紙に潜む何かを感じ取っていた――この誘いがただの遊びでは終わらない、そんな予感。

彼は家に帰ると、幼馴染の望月彩由美にこのことを話した。彩由美は、相変わらずの天然な笑顔を浮かべながら、葉羽の話を興味深く聞いていた。

「ねぇねぇ、その『謎解きパーティー』って、推理小説みたいな展開なのかな？ちょっと怖いけど、面白そう！」

彩由美は普段、恋愛漫画ばかり読んでいるが、葉羽の話すことにはいつも興味を示す。それがどんなに奇妙で不気味な話でもだ。彼女は不安よりも好奇心の方が勝ってしまうタイプだ。

「いや、彩由美、これはただの遊びじゃないかもしれない。少し気味が悪いんだよ。差出人も不明だし、招待状の書き方も普通じゃない。そもそも、その舞台が……」

「ねえ葉羽、行ってみようよ！なんだかワクワクするじゃない？」

彩由美は、無邪気に話を遮り、目を輝かせた。葉羽は彼女の天然な部分に少し苦笑しつつ、内心では彼女を危険な場所に連れて行くべきではないと考えていた。だが、彼の好奇心がそれを押しのけた。何かが、彼にどうしてもこの招待を受けるように囁いていたのだ。

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次の日、二人は指定された場所へ向かうことにした。場所の案内図は、ぼんやりとした手書きの地図。だが、その通りに進んでいくと、都会からどんどん離れ、やがて深い森の中へと入っていった。

「こんなところに屋敷なんて本当にあるのかな……？」

彩由美が不安げに周囲を見渡す。薄暗い木々の間から、冷たい風が時折吹き込み、木の葉がざわめく音が耳に残った。葉羽は、常に冷静を保とうと努めるが、どこか現実離れした雰囲気に圧倒され始めていた。

「心配するな、彩由美。俺がちゃんと守るから。……たぶん。」

葉羽は冗談めかして言ったが、その声はどこか硬くなっていた。彩由美は、ふと葉羽の横顔を見上げる。その真剣な表情に、一瞬、胸がドキリとした。

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森を進んでいくと、突然視界が開け、大きな石造りの屋敷が姿を現した。その姿はまるで時間に取り残されたかのように古びていたが、どこか圧倒的な存在感を放っていた。外壁はつたが絡み、窓はほとんどが閉ざされている。まるでこの場所が、長い間誰の目にも触れられてこなかったかのように。

「これ……小説の中に出てきたあの屋敷にそっくりじゃない？」

葉羽は息を呑んだ。まさに、彼が最初に夢中になった推理小説の舞台そのものだった。だが、その不気味さは、かつての記憶以上に現実味を帯び、異様な緊張感が彼らを包み込んだ。

屋敷の前には、古びた彫像が立っていた。夜の薄明かりに照らされるその彫像は、まるで二人を見つめているようだった。葉羽はその目が一瞬動いたように感じたが、錯覚だと自分に言い聞かせる。

「やっぱり帰ろう、葉羽……なんか、ここ……」

彩由美の声は震えていた。だが葉羽は、そんな彼女の不安を感じながらも、自分の中で膨らむ謎への好奇心を抑えられなかった。

「大丈夫だ、彩由美。俺たちがこの謎を解けばいいんだ。これはただの……謎解きパーティーだよ。」

二人は深呼吸をし、屋敷の重たい扉を押し開ける。内部は驚くほど荘厳で、予想以上に手入れが行き届いているようだった。だが、不気味な静けさが全体を包んでいる。どこかから、遠くで小さな音が聞こえる――まるで誰かが部屋の奥で動いているかのように。

「誰か、いるの……？」

彩由美が小さな声でつぶやいた。葉羽は、何も言わず、ただ静かに進んだ。その背中に、見えない何かが重くのしかかっているように感じながらも。

彼らはまだ気づいていなかった。この屋敷が、ただの「謎解き」の舞台ではないことを。この扉を開けた瞬間から、すでに謎の一部として巻き込まれていることを。

続く不気味な夜の中で、彼らを待ち受けるのは何か？その答えは、今はまだ誰にもわからない――。