双極の鏡

9章

鏡の反射

葉羽と彩由美は、鏡の前で実験を続けながら、美咲の心の奥深くを探っていた。彼らの周囲には静寂が広がり、ただ鏡が反射する光だけが部屋を照らしている。葉羽は、何かが見えてくるのではないかと期待を抱きながら、鏡の前で光の角度を調整していた。

「この角度でどうだろう…」葉羽は鏡を少し傾け、光を当てる位置を変えた。すると、再び不自然な影が映り込むのを見た。心臓が高鳴り、彼はその影に目を凝らした。

「見て、彩由美！また影が映った！」

彩由美も興奮した様子で鏡を覗き込む。「本当に、何かいるみたい！」

影は一瞬にして消えたが、葉羽にはその影が美咲の心の中に潜む何かを示しているように感じられた。美咲が恐れていたもの、彼女が見たくなかったもの。それが何なのか、彼は理解できるかもしれないと強く感じた。

「この影、もしかしたら美咲が見たかった自分自身の姿かもしれない。」葉羽は思わず呟いた。

彩由美はその言葉に頷き、目を輝かせた。「彼女は自分を鏡で見ることができなかったから、反射で見える自分がどれほど醜いかを恐れていたのかも。」

葉羽はその考えに共感し、さらに実験を続けることにした。「もう少し光の当たり方を変えてみよう。美咲の思いを理解するために、何かが見えてくるかもしれない。」

彼は再び鏡の角度を調整し、部屋の照明を変えてみた。すると、鏡の中に微かな光の反射が現れ、影が再び浮かび上がった。葉羽の心には、不安と期待が交錯する。

「この影が何を意味しているのか、もっと深く探ってみよう。」

彼は鏡をじっと見つめ、影を追うように動いた。すると、今度は影の中に微かに人の形が浮かび上がった。驚きと混乱が彼の心を掻き乱す。

「彩由美、見て！あの影、誰かの姿のように見える！」

彩由美はまたもや鏡を覗き込み、息を呑んだ。「本当に、誰かがいるみたい…！」

葉羽はその影が美咲の姿である可能性を考え、心がざわついた。美咲は自分自身を受け入れられず、その思いが形となって鏡の中に現れているのではないか。彼はその影を見つめながら、彼女が抱えていた苦しみがどれほど深いものであったのかを理解しようとしていた。

「この影、まるで美咲が自分自身を見つめているようだ。」葉羽はつぶやいた。「彼女は鏡を通じて、自分の姿を見たくなかったのかもしれない。それが、彼女を追い詰めていたんだ。」

「でも、どうしてそんなことになったんだろう？」彩由美が不安そうに尋ねた。

葉羽は考え込みながら答えた。「美咲は、周囲の期待や自分自身の理想像に押しつぶされてしまったのかもしれない。誰にも本当の自分を見せられず、心の中に孤独を抱えていた。」

その時、突然、部屋の明かりがチカチカと点滅し始めた。葉羽と彩由美は驚いて顔を見合わせる。

「何かおかしい…」彩由美の声には緊張が漂っていた。

「ちょっと待って、何かが起きるかもしれない。」葉羽は鏡を見つめ続けた。すると、再び影が明確に映り、今度は明るく輝くように見えた。

「この影、何かメッセージを伝えようとしているのかもしれない…」

葉羽はその影を追い続け、心の中に浮かぶ疑問を抱きながら、もっと深く考えた。美咲がこの鏡を通じて何を見たかったのか、そしてその影が何を示しているのか。彼はその瞬間、影の中に美咲の思いを感じ取ろうとしていた。

「この影が真実を映し出すことを願って、もう一度光の角度を変えてみよう。」葉羽は決意を固め、再び鏡の前に立った。彼は光を調整し、鏡の角度を変えて、影の動きを追い続けた。

「美咲、君の思いを教えてくれ。君が何を見たかったのか、何を恐れていたのかを…」

その時、影が再び変化し、まるで美咲の顔が浮かび上がるように見えた。彼女の目が映り、その表情には苦しみと葛藤が宿っていた。葉羽はその瞬間、何かが彼の心に響いた。

「美咲、君は一人じゃない。僕たちが君の思いを受け止めるから。」

その言葉が、彼の心の奥深くで響く。葉羽は、美咲の影を見つめながら、彼女の心の中の闇に少しでも光を届けようと願った。果たして、彼は美咲の心の真実に辿り着くことができるのか。彼の思いは、鏡を通じて美咲の心に届くのだろうか。

静かな夜の中、葉羽は再び影を追い続けた。彼の心には、期待と不安が交錯し、真実を求める強い意志が宿っていた。