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9章

珊瑚樹の秘密

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緊急停止ボタンに手を伸ばした葉羽の動きが、複製体五十嵐の叫び声で止まった。振り返ると、五十嵐は歪んだ笑みを浮かべながら、葉羽に銃口を向けていた。

「…そこまでだ、葉羽くん。これ以上、私の計画を邪魔するな」

冷酷な声が、実験室に響き渡る。翡翠川は、恐怖に慄きながらも、葉羽の前に立ちはだかった。

「…葉羽くんに触らないで!」

翡翠川の勇気ある行動に、葉羽は心を打たれた。しかし、このままでは、二人とも五十嵐に捕まってしまう。

「…くっ…」

葉羽は、何か打開策はないかと、必死に考えを巡らせた。その時、彼の脳裏に、五十嵐の日記に書かれていたある言葉が蘇ってきた。

五感操作薬…

五十嵐は、五感操作薬を使って、人間の五感を操ることができる。だとしたら、この状況を逆手に取ることはできないだろうか?

葉羽は、ゆっくりと立ち上がり、五十嵐に近づいていった。

「…何を企んでいる?」

五十嵐は、警戒しながら尋ねた。葉羽は、不敵な笑みを浮かべ、答えた。

「…何も。ただ、貴様の計画に協力しようと思ってね」

葉羽の言葉に、五十嵐は怪訝な表情を浮かべた。

「…協力?どういう意味だ?」

「貴様は、永遠の命を手に入れたいのだろう?ならば、俺が協力してやろう」

葉羽は、自信満々に言った。

「…フン、何を馬鹿なことを言っている。お前が、私に協力できることなど何もない」

五十嵐は、鼻で笑った。

「…いや、ある。俺は、貴様の知らない秘密を知っている」

葉羽は、意味深に言った。

「…秘密?」

五十嵐は、興味をそそられた様子で尋ねた。

「ああ。貴様の研究に協力していた、珊瑚樹伊織の秘密だ」

葉羽は、珊瑚樹の名前を出した。珊瑚樹は、五十嵐に五感操作薬を提供していた人物だ。五十嵐の日記には、珊瑚樹に関する詳細な情報は書かれていなかった。葉羽は、珊瑚樹が事件の鍵を握っているのではないかと考えていた。

「…珊瑚樹…?」

五十嵐は、少し考えてから答えた。

「…確かに、珊瑚樹は私の研究に協力していた。だが、彼はすでに死んでいる」

「…死んだ?本当か?」

葉羽は、疑いの眼差しで五十嵐を見つめた。

「…本当だ。彼は、実験中の事故で死んだ」

五十嵐は、平然と嘘をついた。しかし、葉羽は、五十嵐の言葉に嘘を感じ取った。

「…嘘をつくな!珊瑚樹は生きている!そして、彼は、貴様の計画の真の目的を知っている!」

葉羽は、強い口調で言った. 五十嵐は、一瞬たじろいだ。

「…何だと…?」

「珊瑚樹は、貴様に五感操作薬を提供していただけでなく、量子複製装置の開発にも深く関わっていた。そして、彼は、貴様が魂の転写実験を行う真の目的を知っている. それは、永遠の命を手に入れることではない…」

葉羽の言葉に、五十嵐は激昂した。

「…黙れ!貴様、何を…!」

五十嵐は、銃を構え、葉羽に銃口を突きつけた.

「…貴様の真の目的は、この世のすべてを支配することだ!珊瑚樹は、貴様の野望を阻止するために、ある証拠を残していた. 俺は、その証拠を手に入れた!」

葉羽は、冷静に言い放った。

「…証拠…?」

五十嵐は、葉羽の言葉に動揺した.

「ああ。珊瑚樹は、貴様の計画の全貌を記録したデータを、ある場所に隠していた. 俺は、そのデータを見つけ出した. そのデータには、貴様の犯行の証拠がすべて記録されている」

葉羽は、嘘をついて、五十嵐を揺さぶろうとした. しかし、五十嵐は、簡単には騙されなかった。

「…嘘だ!そんな証拠があるはずがない!」

五十嵐は、叫んだ. しかし、彼の声には、わずかな動揺が混じっていた.

「…本当だ。貴様が、俺を殺しても、その証拠は警察の手に渡る. 貴様の計画は、すべて無駄になる」

葉羽は、更に畳み掛けた。

「…くっ…」

五十嵐は、歯ぎしりした。彼は、葉羽の言葉が真実味を帯びていることを感じていた。彼は、珊瑚樹の存在を完全に抹消したつもりだったが、もし、彼が本当に証拠を残していたとしたら…。

「…その証拠はどこにある?」

五十嵐は、低い声で尋ねた. 葉羽は、不敵な笑みを浮かべ、答えた.

「…教えてやろう。だが、その前に、彩由美を解放しろ」

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