上 下
8 / 25
8章

瑠璃堂の疑惑

しおりを挟む
翡翠川に案内され、葉羽は再び秘密実験室へと足を踏み入れた。薄暗い部屋の中央には、巨大な量子複製装置が不気味な存在感を放っていた。装置の傍らには、拘束された彩由美の姿があった。彼女は意識を失っているようだった。

「彩由美…!」

葉羽は、彩由美の名前を叫び、駆け寄ろうとした。しかし、翡翠川が彼を制止した。

「待って!葉羽くん、罠かもしれない!」

翡翠川の言葉に、葉羽はハッとした。確かに、これは複製体の五十嵐が仕組んだ罠である可能性もあった。彼は、慎重に周囲を見渡した。

実験室は、前回訪れた時と変わらず、無数のケーブルとチューブが複雑に絡み合っていた。しかし、よく見ると、床の一部に僅かな隙間があることに気づいた。

「…翡翠川さん、見てください」

葉羽は、翡翠川に床の隙間を指差した。翡翠川も、床の異変に気づき、近づいてきた。二人は、床の隙間を慎重に調べてみた。すると、隙間からは微かな機械音が聞こえてきた。

「…これは…?」

葉羽は、床板をこじ開けてみた。すると、床下には小さな隠し部屋があることが分かった。隠し部屋の中には、モニターと操作盤が設置されていた。

「…これは、監視カメラの映像…?」

葉羽は、モニターに映し出されている映像を見て、驚愕した。映像には、実験室の様子が映し出されていた。そして、その映像には、もう一人、意外な人物が映っていた。

それは、五十嵐の顧問弁護士、瑠璃堂蓮だった。瑠璃堂は、複製体の五十嵐と共謀し、この事件を企てた黒幕だったのだ。

「…瑠璃堂…?」

葉羽は、信じられない思いで呟いた。瑠璃堂は、冷静沈着で、信頼できる人物だと思っていた。まさか、彼が事件に関わっているとは…。

「…どうやら、五十嵐さんは、一人ではなかったようね…」

翡翠川も、驚愕した様子で言った。

モニターの映像には、瑠璃堂が複製体の五十嵐に指示を出している様子が映し出されていた。彼らは、五十嵐の遺産を狙い、この事件を計画したのだ。

「…許せない…」

葉羽は、怒りを抑えきれないで言った。彼は、彩由美を助け出すだけでなく、瑠璃堂を捕まえることも決意した。

その時、実験室のドアが開き、複製体の五十嵐が入ってきた。

「…よく来たね、葉羽くん。待っていたよ」

複製体の五十嵐は、不気味な笑みを浮かべた。

「…貴様…!」

葉羽は、怒りを込めて五十嵐に詰め寄ろうとした。しかし、翡翠川が再び彼を制止した。

「落ち着いて、葉羽くん!今は、彩由美さんを助け出すことが先決よ」

翡翠川の言葉に、葉羽は冷静さを取り戻した。確かに、今は彩由美を助けることが最優先だ。

「…どうすれば、彩由美を助け出せる…?」

葉羽は、翡翠川に尋ねた。翡翠川は、少し考えてから答えた。

「…量子複製装置を破壊すれば、複製体の五十嵐も消滅する。そして、彩由美も解放されるはず…」

「…でも、どうやって…?」

葉羽は、尋ねた。翡翠川は、秘密の実験室の構造を説明し始めた。

「…この実験室には、緊急停止装置がある。それを起動させれば、量子複製装置の機能を停止させることができるわ」

翡翠川の言葉に、葉羽は希望の光を見出した。彼は、緊急停止装置を探すことにした。

「…でも、緊急停止装置はどこにあるんだ…?」

葉羽は、尋ねた。翡翠川は、実験室の壁に設置されているパネルを指差した. パネルには、複雑な配線図が描かれていた。

「…この配線図を辿れば、緊急停止装置の場所が分かるはずよ」

翡翠川の言葉に、葉羽は頷いた。彼は、配線図を慎重に辿り始めた。配線図は複雑で、解読するのに苦労したが、葉羽は諦めなかった。

やがて、葉羽は配線図の終点に辿り着いた。それは、実験室の奥にある、小さな扉だった。

「…ここか…!」

葉羽は、扉を開けた。扉の奥には、小さな部屋があった。部屋の中には、赤いボタンが一つだけ設置されていた. それは、まさしく緊急停止装置だった。

「…よし、これで…」

葉羽は、ボタンに手を伸ばした。その時、背後から、複製体の五十嵐の声が聞こえてきた。

「…待て!葉羽くん!それを押すな!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

「鏡像のイデア」 難解な推理小説

葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。

量子迷宮の探偵譚

葉羽
ミステリー
天才高校生の神藤葉羽は、ある日突然、量子力学によって生み出された並行世界の迷宮に閉じ込められてしまう。幼馴染の望月彩由美と共に、彼らは迷宮からの脱出を目指すが、そこには恐ろしい謎と危険が待ち受けていた。葉羽の推理力と彩由美の直感が試される中、二人の関係も徐々に変化していく。果たして彼らは迷宮を脱出し、現実世界に戻ることができるのか?そして、この迷宮の真の目的とは?

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...