上 下
5 / 25
5章

第一の発見

しおりを挟む
窓の外から聞こえてきたすすり泣くような音は、すぐに消え、再び静寂が屋敷を包んだ。しかし、葉羽と彩由美の心には、拭いきれない不安が残っていた。

「…今のは、何だったんだろう…」

彩由美は、怯えた様子で葉羽に尋ねた。葉羽は、眉間に皺を寄せ、考え込んでいた。

「…分からない。風の音だったのかもしれない…でも…」

葉羽は、何か引っかかるものを感じていた。風の音にしては、あまりにも生々しく、人間の感情が込められているように聞こえたからだ。

「…とにかく、気をつけよう」

葉羽は、彩由美にそう言い聞かせ、再び部屋の探索を続けた. 彼は、机の上の書類に目をやった. 書類は、量子力学に関する研究資料や、実験記録など、様々なものが混在していた.

葉羽は、書類を一枚一枚丁寧に見ていった。すると、ある実験記録の中に、気になる記述を見つけた。

「…被験者、五感操作薬投与…?」

葉羽は、目を凝らしてその記述を読んだ. 五感操作薬。それは、人間の五感を操作する薬物のことだった。

「…一体、何のために、こんな薬を…?」

葉羽は、疑問に思った。五十嵐は、一体何の実験を行っていたのだろうか?

その時、葉羽は、書類の中に挟まっていた一枚の写真に気づいた。写真は、五十嵐と、もう一人の男性が並んで写っているものだった。男性は、黒縁の眼鏡をかけ、知的な雰囲気を漂わせていた。

「…この人は、誰だろう…?」

葉羽は、写真の人物に見覚えがなかった。彼は、彩由美に写真を見せた。

「…彩由美、この人、知ってるか?」

彩由美は、写真を見て首を横に振った。

「…ううん、知らない。でも、どこかで見たことがあるような…」

彩由美は、何か思い出そうとしている様子だった。

「…どこかで…?」

葉羽は、彩由美の言葉に引っかかった。彼は、もう一度写真を見つめ、男性の顔をよく観察した。すると、彼はあることに気づいた。

「…この人、翡翠川蛍に似てる…?」

翡翠川蛍。五十嵐の秘書の名前だ. 警察から聞いた話では、彼女は五十嵐の研究内容をよく知っていたらしい。

「…翡翠川蛍…?」

彩由美も、その名前に聞き覚えがあった.

「…五十嵐さんの秘書の人だよね?そういえば、警察の人も、彼女から話を聞きたいって言ってた…」

彩由美の言葉に、葉羽はハッとした。翡翠川蛍。彼女が、事件の鍵を握っているかもしれない。

葉羽は、五十嵐のパソコンをもう一度調べ始めた。パソコンにはパスワードが設定されており、起動することはできなかったが、外部接続端子を見つけた。

「…よし、これでデータを取り出せるかもしれない」

葉羽は、持参していた小型のデータ抽出装置をパソコンに接続した。データ抽出には時間がかかったが、辛抱強く待ち続けた結果、パソコン内のデータを無事に抽出することに成功した.

葉羽は、抽出されたデータを確認し始めた。データの中には、研究資料や実験記録の他、個人的な日記やメールなども含まれていた。葉羽は、五十嵐の日記に目を通した。日記には、五十嵐の研究内容や、日々の出来事などが克明に記録されていた.

日記を読み進めていくうちに、葉羽は、五十嵐が奇妙な研究に没頭していたことを知った. それは、「魂の転写」に関する研究だった. 五十嵐は、人間の魂を別の肉体に移植する技術を開発しようと、日夜研究に励んでいたのだ. そして、その研究には、写真に写っていた謎の男性が深く関わっていた。男性の名前は、珊瑚樹伊織。五十嵐の主治医だった.

「…珊瑚樹伊織…?」

葉羽は、その名前を呟いた. 珊瑚樹は、五十嵐に五感操作薬を投与し、彼を実験台にしていたのだ. そして、その実験には、ある恐ろしい目的があった。

日記には、こう書かれていた.

「…私は、魂の転写技術を完成させ、永遠の命を手に入れる…そして、この世のすべてを支配する…」

葉羽は、五十嵐の狂気に満ちた野望を知り、戦慄した.

その時、彩由美が、部屋の隅にあるクローゼットに気づいた.

「…葉羽くん、あそこ見て…」

彩由美は、クローゼットを指差した. クローゼットの扉は、少しだけ開いていた. 葉羽は、クローゼットに近づき、ゆっくりと扉を開けた.

クローゼットの中には、何もなかった. しかし、葉羽は、ある異変に気づいた. クローゼットの奥の壁には、奇妙な模様が描かれていた. それは、まるで魔法陣のような複雑な模様だった。

「…これは…!」

葉羽は、壁に手を触れた。すると、壁ががらがらと音を立てて動き出した. 壁は、隠し扉になっていたのだ。

隠し扉の奥には、狭い通路があった. 葉羽と彩由美は、通路を進んでいった。通路の先には、 another room があった.

その部屋は、秘密の実験室だった。部屋の中央には、巨大な装置が置かれていた. 装置は、無数のケーブルとチューブで繋がれており、複雑な構造をしていた. 装置の周りには、様々な器具や薬品が散乱していた.

「…これは…!」

葉羽は、装置を見て息を呑んだ。それは、まさしく量子複製装置だった。五十嵐は、日記に書かれていた通り、量子複製装置を開発していたのだ。

葉羽は、装置を詳しく調べてみた. すると、装置には、ある仕掛けが施されていることに気づいた. 装置には、小さなレバーが付いており、そのレバーを操作することで、装置のモードを切り替えることができるようになっていた。

「…これは…「魂の転写モード」…?」

葉羽は、レバーの横にある小さなプレートに書かれた文字を読んで、驚愕した。五十嵐は、量子複製装置を使って、魂の転写実験を行っていたのだ.

その時、葉羽は、ある恐ろしい仮説を立てた。

(…もしかして、五十嵐さんは、すでに…?)

葉羽の脳裏に、ある恐ろしい映像が浮かんだ。五十嵐が、自ら量子複製装置に乗り込み、魂の転写実験を行った. そして、実験は失敗し、五十嵐の魂は、複製体へと転写され、元の肉体は死亡した…

「…だとしたら、この屋敷にいるのは…」

葉羽は、恐怖に慄いた。

その時、背後から、不気味な声が聞こえてきた。

「…よく来たね…神藤葉羽くん…」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

探偵はバーマン

野谷 海
ミステリー
とある繁華街にある雑居ビル葉戸メゾン。 このビルの2階にある『Bar Loiter』には客は来ないが、いつも事件が迷い込む! このバーで働く女子大生の神谷氷見子と、社長の新田教助による謎解きエンターテイメント。 事件の鍵は、いつも『カクテル言葉』にあ!? 気軽に読める1話完結型ミステリー!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

母からの電話

naomikoryo
ミステリー
東京の静かな夜、30歳の男性ヒロシは、突然亡き母からの電話を受け取る。 母は数年前に他界したはずなのに、その声ははっきりとスマートフォンから聞こえてきた。 最初は信じられないヒロシだが、母の声が語る言葉には深い意味があり、彼は次第にその真実に引き寄せられていく。 母が命を懸けて守ろうとしていた秘密、そしてヒロシが知らなかった母の仕事。 それを追い求める中で、彼は恐ろしい陰謀と向き合わなければならない。 彼の未来を決定づける「最後の電話」に込められた母の思いとは一体何なのか? 真実と向き合うため、ヒロシはどんな犠牲を払う覚悟を決めるのか。 最後の母の電話と、選択の連続が織り成すサスペンスフルな物語。

処理中です...