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2章
呪われた血の系譜
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曇天の空の下、黒塗りの車が長い並木道を進み、やがて視界が開けると、重厚な石造りの洋館が姿を現した。蔦が絡まり、まるで歳月をそのまま刻み込んだようなその姿は、威圧的であり、同時にどこか退廃的な雰囲気を漂わせていた。天堂家の洋館――葉羽は、現実のものとは思えないその異様な光景に、息を呑んだ。隣に座る彩由美も、珍しく口を閉ざし、緊張した面持ちで窓の外を見つめていた。
車が玄関前に停まると、黒服の老執事、黒瀬玄斎(くろせ げんさい)が深々と頭を下げて二人を出迎えた。黒瀬の顔には深い皺が刻まれ、まるで洋館そのもののように古めかしい印象を与えた。
「ようこそ、神藤様、望月様。お待ちしておりました」
黒瀬の声は、低く嗄れており、周囲の静寂に不気味に響いた。
重厚な扉が開き、二人は洋館の中へと案内された。高い天井、長い廊下、無数の肖像画――館内は、外見以上に古びており、一種独特の空気が淀んでいた。埃っぽい匂いと、かすかに漂う花の香りが混ざり合い、葉羽の嗅覚を奇妙に刺激した。
応接間に通された二人は、黒瀬から天堂家の歴史と、複雑な家族構成について説明を受けた。天堂家は、代々莫大な財産を築いてきたが、同時に、一族内で争いが絶えず、多くの者が謎の死を遂げていたという。まるで、一族に呪いがかけられているかのような、陰惨な歴史に、葉羽は眉をひそめた。
「当主の雅也様は、近年、ご隠居のような生活を送られておられました。時折、奇異な言動も見受けられ、周囲を不安にさせていたのも事実でございます」
黒瀬は、伏し目がちにそう語った。彼の言葉の端々には、天堂家に対する深い忠誠心と、同時に、拭いきれない不安が滲み出ていた。
説明の後、黒瀬は葉羽たちに館内を自由に見て回るように促し、自身は他の用務へと向かった。葉羽は、彩由美を連れ、広大な洋館を探検することにした。
いくつもの部屋を巡る中で、葉羽の足は自然と書斎へと向かった。書棚には、古今東西の書物がびっしりと並んでおり、まるで知識の迷宮に迷い込んだようだった。葉羽は、天堂家の歴史に関する資料を探し始め、古い日記や手紙を読み漁った。それらには、血塗られた歴史と、一族に纏わる不可解な出来事が記されていた。まるで、館の壁に染み付いた血痕のように、消えることのない過去の影が、葉羽の心に重くのしかかった。
彩由美は、書斎の窓辺で、庭を眺めていた。薔薇が咲き乱れる美しい庭園は、洋館の陰鬱な雰囲気とは対照的に、明るく華やかだった。
「ねえ、葉羽、見て。薔薇が綺麗だよ」
彩由美は、葉羽に声をかけたが、葉羽は資料に夢中で、彼女の言葉に返事をしなかった。彩由美は、少し寂しそうに微笑み、再び窓の外へと視線を戻した。
書棚の奥深くで、葉羽は一冊の古びた本を見つけた。革表紙には何も書かれておらず、一見するとただの古書にしか見えなかった。しかし、葉羽は、その本に不思議な引力を感じ、思わず手に取った。ページをめくると、そこには、人の時間感覚を狂わせる方法について、詳細に記述されていた。薬物、催眠、環境操作――まるで禁断の知識が詰め込まれた魔導書のようだった。葉羽は、背筋に冷たいものを感じ、思わず本を閉じた。この本と、天堂家の奇妙な歴史、そして雅也の失踪――それらの間に、何か繋がりがあるのだろうか?
不吉な予感は、まるで濃霧のように、葉羽の心を包み込んでいた。
車が玄関前に停まると、黒服の老執事、黒瀬玄斎(くろせ げんさい)が深々と頭を下げて二人を出迎えた。黒瀬の顔には深い皺が刻まれ、まるで洋館そのもののように古めかしい印象を与えた。
「ようこそ、神藤様、望月様。お待ちしておりました」
黒瀬の声は、低く嗄れており、周囲の静寂に不気味に響いた。
重厚な扉が開き、二人は洋館の中へと案内された。高い天井、長い廊下、無数の肖像画――館内は、外見以上に古びており、一種独特の空気が淀んでいた。埃っぽい匂いと、かすかに漂う花の香りが混ざり合い、葉羽の嗅覚を奇妙に刺激した。
応接間に通された二人は、黒瀬から天堂家の歴史と、複雑な家族構成について説明を受けた。天堂家は、代々莫大な財産を築いてきたが、同時に、一族内で争いが絶えず、多くの者が謎の死を遂げていたという。まるで、一族に呪いがかけられているかのような、陰惨な歴史に、葉羽は眉をひそめた。
「当主の雅也様は、近年、ご隠居のような生活を送られておられました。時折、奇異な言動も見受けられ、周囲を不安にさせていたのも事実でございます」
黒瀬は、伏し目がちにそう語った。彼の言葉の端々には、天堂家に対する深い忠誠心と、同時に、拭いきれない不安が滲み出ていた。
説明の後、黒瀬は葉羽たちに館内を自由に見て回るように促し、自身は他の用務へと向かった。葉羽は、彩由美を連れ、広大な洋館を探検することにした。
いくつもの部屋を巡る中で、葉羽の足は自然と書斎へと向かった。書棚には、古今東西の書物がびっしりと並んでおり、まるで知識の迷宮に迷い込んだようだった。葉羽は、天堂家の歴史に関する資料を探し始め、古い日記や手紙を読み漁った。それらには、血塗られた歴史と、一族に纏わる不可解な出来事が記されていた。まるで、館の壁に染み付いた血痕のように、消えることのない過去の影が、葉羽の心に重くのしかかった。
彩由美は、書斎の窓辺で、庭を眺めていた。薔薇が咲き乱れる美しい庭園は、洋館の陰鬱な雰囲気とは対照的に、明るく華やかだった。
「ねえ、葉羽、見て。薔薇が綺麗だよ」
彩由美は、葉羽に声をかけたが、葉羽は資料に夢中で、彼女の言葉に返事をしなかった。彩由美は、少し寂しそうに微笑み、再び窓の外へと視線を戻した。
書棚の奥深くで、葉羽は一冊の古びた本を見つけた。革表紙には何も書かれておらず、一見するとただの古書にしか見えなかった。しかし、葉羽は、その本に不思議な引力を感じ、思わず手に取った。ページをめくると、そこには、人の時間感覚を狂わせる方法について、詳細に記述されていた。薬物、催眠、環境操作――まるで禁断の知識が詰め込まれた魔導書のようだった。葉羽は、背筋に冷たいものを感じ、思わず本を閉じた。この本と、天堂家の奇妙な歴史、そして雅也の失踪――それらの間に、何か繋がりがあるのだろうか?
不吉な予感は、まるで濃霧のように、葉羽の心を包み込んでいた。
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