「次元迷宮のレゾナンス」　超難解な推理小説

葉羽

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6章

虚実の境界線

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氷室の死は、俺に大きな衝撃を与えた。単なる偶然とは思えない。まるで、見えない何者かが、俺の周囲の人間を一人ずつ消し去ろうとしているかのように。恐怖と焦燥感が、俺の心を締め付ける。

「…奴の目的は、一体何なんだ？」

俺は呟きながら、氷室の日記を読み返していた。「螺旋のレゾナンス」「エレボス」「闇」。これらのキーワードは、間違いなく事件の核心に迫る手がかりとなるはずだ。だが、その意味を解き明かすには、まだ情報が足りない。

「レゾナンス…共鳴、共振…」

俺は、その言葉の意味を改めて考えてみた。物理的な振動だけでなく、精神的な共鳴も意味する言葉だ。もし、あの螺旋模様が、特定の周波数を発生させる装置であり、それが人間の精神に何らかの影響を与えているとしたら？

そして、被害者たちが口にした「螺旋のレゾナンス」という言葉は、その影響を受けた結果、発せられた言葉なのではないか？

俺は、この仮説を検証する必要がある。だが、そのためには、被験者が必要だ。誰に頼めばいい？　危険な実験だ。誰かを巻き込むわけにはいかない。

その時、彩由美の顔が頭に浮かんだ。彼女なら、きっと協力してくれるはずだ。だが、同時に、彼女を危険に晒すことになるかもしれない。葛藤する俺の心に、一つの声が響く。

真実を解き明かすためには、リスクを負わなければならない。彩由美を信じろ。そして、自分自身を信じろ

俺は、決意を固めた。彩由美に連絡を取り、実験への協力を依頼した。彼女は、少し戸惑っていたが、最終的には了承してくれた。

翌日、俺は彩由美を自室に招き入れた。机の上には、路地裏に残されていた螺旋模様を再現した図形が置いてある。

「…葉羽くん、これは…？」

彩由美は、不気味な模様を見て、少し怯えた様子を見せた。

「これは、事件現場に残されていた模様だ。この模様を見つめて、何かを感じるか試してほしい」

俺は、彩由美に説明した。

「…でも、これ、なんだか怖いよ…」

「大丈夫だ。もし、何か異常を感じたら、すぐに実験を中止する」

俺は、彩由美を安心させようと努めた。

彩由美は、恐る恐る模様を見つめ始めた。数分が経過する。彩由美の表情に変化はない。やはり、何も起こらないのか？

その時、彩由美の体がわずかに震え始めた。瞳孔が開き、焦点が定まらない。まるで、意識がどこか別の場所へ行ってしまったかのように。

「…彩由美！？」

俺は、慌てて彩由美の名前を呼んだ。しかし、彼女は反応しない。そのまま、虚空を見つめ、何かを呟き始めた。

「…らせん…の…れぞなんす…」

それは、被害者たちが死の間際に呟いていた言葉と同じだった。

「…エレボス…やみ…」

彩由美の声は、次第に大きくなり、荒々しくなっていく。まるで、何かに取り憑かれたかのように。

俺は、実験を中止することを決意した。彩由美の手を掴み、強く揺さぶった。

「彩由美！　しっかりしろ！」

俺の声が、彩由美の意識を現実に引き戻した。彼女は、ハッと我に返り、混乱した様子で俺を見つめた。

「…葉羽くん？　私、どうしたの…？」

「…大丈夫だ。もう終わった」

俺は、彩由美を抱きしめ、安堵の息を吐いた。最悪の事態は避けられた。

しかし、同時に、更なる恐怖を感じていた。あの螺旋模様は、確かに人間の精神に影響を与える力を持っている。そして、その影響は、想像以上に深刻なものだ。

彩由美は、実験後もしばらくの間、放心状態が続いた。俺は、彼女を落ち着かせ、家まで送り届けた。

一人になった俺は、改めて事件の深刻さを痛感した。これは、ただの謎解きではない。人間の精神を操る、恐るべき力との戦なのだ。

俺は、窓の外に広がる夜景を見つめた。街の光は、まるで虚構のように揺らめいている。現実と虚構の境界線が、曖昧になりつつある。

俺は、この虚実の迷宮から脱出できるのだろうか？　そして、彩由美を守ることができるのだろうか？

不安と決意が入り混じる中、俺は、更なる深淵へと足を踏み入れる覚悟を新たにした。

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