「次元迷宮のレゾナンス」　超難解な推理小説

葉羽

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4章

亡霊の囁き

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催眠実験の後、深い倦怠感に襲われた。まるで魂を吸い取られたかのような、底知れぬ疲労感。だが、同時に、奇妙な高揚感も感じていた。深淵を覗き込んだことで、逆に恐怖心が薄れ、真実への渇望が強まっている。第三階層、情報特異点。あの異界の謎を解き明かすまでは、俺は安息を得られないだろう。

「情報特異点…一体、何なんだ？」

俺は呟きながら、パソコンの電源を入れた。インターネットで情報を探す。だが、「情報特異点」という単語で検索しても、有益な情報は何も出てこない。一般的な意味では使われていない言葉のようだ。

「…だとしたら、どこを探せばいい？」

俺は、考え込んだ。情報特異点。もし、それが情報空間に存在する特異な領域だとしたら、普通の検索エンジンでは見つからないかもしれない。もっと特殊な方法が必要だ。

その時、ある人物の名前が頭に浮かんだ。久堂冴紗（くどうさえさ）。彼女は、天才的なハッキング技術を持つ、謎めいた女性だ。以前、とある事件で知り合ったことがあった。彼女なら、情報特異点に関する情報を持っているかもしれない。

俺は、冴紗に連絡を取ることにした。彼女との接触は容易ではない。彼女は、表の世界には姿を現さず、常に情報空間を漂っている。だが、俺には彼女と繋がる手段を知っていた。

暗号化されたメッセージを特定の掲示板に投稿する。それは、冴紗への呼びかけの合図だ。数時間後、返信が届いた。やはり、彼女は俺のメッセージに気づいていた。

指定されたチャットルームにアクセスする。画面に、冴紗のアイコンが表示された。紫色の髪に、鋭い目つき。ミステリアスな雰囲気を漂わせる女性だ。

「…久しぶりね、神藤葉羽くん。今回はどんな用事かしら？」

「やあ、冴紗。実は、ちょっと困ったことがあってね…」

俺は、事件の概要と「情報特異点」という言葉について説明した。冴紗は、静かに俺の話を聞いていた。

「…情報特異点、か。面白いキーワードね。確かに、情報空間には、通常のアクセスでは辿り着けない領域が存在する。そこは、あらゆる情報が混在する混沌とした場所で、時空間の法則も歪んでいる。もし、君が言うように、被害者がその領域にアクセスしてしまったとしたら…」

冴紗の言葉に、俺は希望の光を見た。やはり、情報特異点は実在するのだ。

「冴紗、頼みがある。その情報特異点にアクセスする方法を教えてくれないか？」

「…簡単じゃないわよ。アクセスするには、高度なハッキング技術と、特殊なデバイスが必要になる。それに、その領域は非常に危険な場所よ。精神が崩壊する可能性もある」

「それでも、俺は行く必要がある。事件の真相を解明するために」

俺の決意を聞いた冴紗は、少し間を置いてから口を開いた。

「…分かったわ。協力してあげる。でも、約束して。絶対に、深入りしすぎないこと。もし、何か異常を感じたら、すぐに引き返すこと」

「ああ、約束する」

冴紗の協力の下、俺は情報特異点へのアクセスを試みる。特殊なデバイスを装着し、冴紗が作成したプログラムを起動する。画面が乱れ、ノイズ音が響き渡る。まるで、世界の境界線を突破しようとしているかのような感覚。

そして、ついに、俺は情報特異点へと辿り着いた。そこは、無限に広がるデータの海だった。無数の文字列、画像、音声、動画。あらゆる情報が、時系列も脈絡もなく、混沌と渦巻いている。

「…これが、情報特異点…」

圧倒的な情報量に、思考が麻痺しそうになる。だが、俺は集中力を切らさない。この情報の中から、事件の手がかりを見つけなければならない。

冴紗の指示に従い、特定のキーワードで検索をかける。被害者の名前、事件現場の住所、螺旋模様の画像データ。一つずつ情報を絞り込んでいく。

そして、ついに、俺は一つのファイルを発見した。それは、音声ファイルだった。ファイル名には、被害者の名前と日付が記されている。

俺は、恐る恐るファイルを再生した。スピーカーから、ノイズ混じりの声が流れ出す。それは、被害者自身の声だった。

「…ここは…どこだ…？　何も見えない…聞こえる…あの音…頭が…痛い…」

断片的な言葉が、恐怖と混乱を物語っている。まるで、悪夢の中で呻いているかのような声。

「…螺旋…レゾナンス…エレボス…闇…彼が…見ている…次元の…狭間から…」

そして、最後の言葉が、氷のように俺の心を凍りつかせた。次元の狭間から、誰かが見ている？　一体、誰なんだ？

音声ファイルはそこで途切れた。だが、残響音のように、被害者の恐怖が、俺の心に深く刻み込まれた。

「…彼が見ている…」

俺は、呟いた。この情報特異点、そして事件の背後には、人間の理解を超えた何かが存在している。それは、闇に潜む亡霊のように、俺たちを見つめている。

俺は、更なる深淵へと足を踏み入れる覚悟を決めた。たとえ、そこに何が待ち受けていようとも。

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