ピエロの嘲笑が消えない

葉羽

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10章

嘲笑う亡霊

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「ゲーム再開だ」――黒幕からの挑発的なメッセージは、葉羽の闘争心に火をつけた。静香が再びピエロの幻覚に苦しんでいる現状を目の当たりにし、葉羽は一刻も早く黒幕の正体を暴き、この悪夢を終わらせなければならないと強く決意した。

葉羽は、灰塚院長の研究データを改めて徹底的に調べ始めた。特定の周波数の音波による記憶操作技術。もし、黒幕がこの技術を使って静香にピエロの幻覚を見せているとしたら、その音波はどこから発信されているのか?

葉羽は、病院内をくまなく調べた。しかし、怪しい機器や装置は見つからない。黒幕は、病院内にいるとは限らない。もしかしたら、外部から音波を送信している可能性もある。

その時、葉羽は灰塚院長の研究データの中に、ある重要な記述を見つけた。それは、特定の周波数の音波は、特定の物体を媒介として伝播するという記述だった。

「特定の物体…?」

葉羽は呟いた。そして、静香の病室を見渡した。ベッド、机、椅子、カーテン…。一体、どの物体が音波の媒介になっているのだろうか?

葉羽は、静香の病室にある全ての物体を一つ一つ調べていった。そして、ついに、ある物体から微弱な振動音が聞こえてくることに気づいた。それは、静香がいつも大切に持っている小さなオルゴールだった。

葉羽はオルゴールを手に取り、詳しく調べてみた。すると、オルゴールの内部に小さな発信機が仕込まれているのを発見した。発信機からは、灰塚院長の研究データに記載されていた特定の周波数の音波が発信されていた。

「これだ…」

葉羽は呟いた。黒幕は、このオルゴールに発信機を仕込み、静香にピエロの幻覚を見せていたのだ。しかし、なぜオルゴールなのか? なぜ、静香はオルゴールを手放さないのか?

葉羽は彩由美に、静香とオルゴールの関係について尋ねた。彩由美によると、そのオルゴールは静香が幼い頃、サーカスで働いていた両親からもらった大切な形見だという。そして、静香は辛い時や悲しい時、いつもこのオルゴールを聞いて心を落ち着かせていたのだ。

「なるほど…」

葉羽は呟いた。黒幕は、静香にとって大切なオルゴールを利用することで、より効果的に幻覚を見せようとしていたのだ。そして、静香がオルゴールを手放さない限り、ピエロの悪夢から逃れることはできない。

葉羽は、オルゴールから発信機を取り外し、音波を遮断した。すると、静香の怯えは徐々に収まり、正気を取り戻し始めた。

「…葉羽君…?」

静香は弱々しい声で葉羽の名を呼んだ。葉羽は安堵の息を吐き出し、静香に優しく微笑みかけた。

「大丈夫ですよ、静香さん。もう悪夢は終わりです」

静香は、何が起きたのか理解していない様子だったが、ピエロの幻覚から解放されたことに安堵していた。

しかし、葉羽の戦いはまだ終わっていなかった。黒幕の正体は依然として不明のままだ。葉羽は、黒幕が再び静香を襲ってくる可能性も考えて、病院に警備を強化するよう依頼した。

葉羽は、黒幕を見つけ出すための手がかりを探し続けていた。そして、ついに、ある重要な事実にたどり着いた。それは、灰塚院長の研究データの中にあった、ある人物の名前だった。それは、火災事故で死亡したと思われていた、サーカスの元ピエロの名前だった。

「まさか…生きていたのか…?」

葉羽は呟いた。そして、そのピエロこそが、黒幕であり、全ての事件の黒幕である可能性に思い至った。葉羽は、そのピエロの行方を追うことを決意した。
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