ピエロの嘲笑が消えない

6章

真実への一歩

森の中を抜け、幹線道路に出た葉羽と彩由美は、近くの交番へと駆け込んだ。息を切らしながら、二人は警察官にクロウ・ハウスで起きた出来事を説明した。しかし、警察官は半信半疑で、幻覚誘導装置や灰塚院長の陰謀について、容易には信じようとしなかった。

「証拠は？　何か物的証拠はありますか？」

警察官の問いに、葉羽は資料室で入手した金属製の装置と、院長の研究データのコピーを見せた。装置の画面には、依然として「ゲームはこれからだ」というメッセージが表示されている。

「これは……何でしょうか？」

警察官は怪訝そうに装置を見つめた。葉羽は装置の機能と、それが幻覚誘導装置の制御装置であることを説明した。さらに、入手した研究データの内容についても説明し、灰塚院長が患者たちにピエロの幻覚を見せていることを主張した。

しかし、警察官は首を横に振った。

「申し訳ありませんが、これだけでは証拠として不十分です。幻覚を見たという患者たちの証言も、精神疾患によるものと判断される可能性が高いです。それに、この装置が本当に幻覚を誘導できるという証拠もありません」

葉羽は苛立ちを感じた。警察は、自分たちの話を真剣に聞いてくれていない。このままでは、静香を救い出すことはできない。

「どうか、信じてください！　叔母さんは危険な目に遭っているんです！」

彩由美が必死に訴えた。彼女の切実な訴えに、警察官は少し考え込んだ。

「分かりました。とりあえず、診療所へ行き、状況を確認してみましょう。しかし、期待はしないでください。証拠がなければ、我々には何もできません」

警察官はそう言って立ち上がり、パトカーへと向かった。葉羽と彩由美も後を追い、パトカーに乗り込んだ。

クロウ・ハウスに到着すると、既に夜遅くにもかかわらず、玄関には明かりが灯っていた。警察官がインターホンを押すと、すぐに灰塚院長が現れた。院長は驚いた様子を見せたが、すぐに冷静さを装った。

「こんな夜遅くに、何のご用でしょうか？」

院長は警察官に尋ねた。警察官は身分証を提示し、

「警察です。診療所内で違法行為が行われているとの情報があり、調査に来ました」

と告げた。院長は表情を変えず、

「違法行為？　身に覚えがありませんが……。どうぞ、お入りください」

と、冷静に答えた。葉羽と彩由美は、院長の巧みな演技に苛立ちを感じた。

診療所内に入り、警察官は患者たちに話を聞いた。しかし、患者たちは皆、支離滅裂な言葉しか発せず、「ピエロを見た」という証言を得ることはできなかった。灰塚院長は、

「彼らの精神状態は非常に不安定です。何を言っているのか、彼ら自身も理解していないでしょう」

と説明した。警察官は葉羽と彩由美に視線を向け、

「やはり、証拠がないと……」

と呟いた。葉羽は諦めずに、

「待ってください！　患者たちがピエロに反応しているのは、特定の周波数の音や光に影響されているからです！　この装置を使って、実験を行っている証拠を探せば、必ず見つかるはずです！」

と主張した。葉羽は警察官に、談話室での出来事と、患者たちが特定の音や光に反応していたことを説明した。そして、幻覚誘導装置が特定の周波数を用いて、幻覚を生成していることを説明した。

警察官は半信半疑ながらも、葉羽の言葉に耳を傾けた。そして、

「分かりました。もう一度、診療所内を調べてみましょう」

と答えた。葉羽、彩由美、そして警察官たちは、再び診療所内を捜索し始めた。葉羽は、幻覚誘導装置が隠されている隠し部屋へと案内した。

隠し部屋に入ると、装置は既に電源が切られ、停止していた。しかし、葉羽は装置のモニターに表示されているデータを確認し、特定の周波数が設定されていることを警察官に示した。

「ほら、見てください！　この周波数が、患者たちに幻覚を見させている証拠です！」

葉羽は興奮気味に言った。警察官は真剣な表情でデータを確認し、

「これは……確かに怪しいですね」

と呟いた。そして、装置の周辺を調べ始めた。

その時、警察官は装置の近くに置かれた小さな箱を発見した。箱を開けると、中には無数のファイルが保管されていた。警察官はファイルの中を確認し、

「これは……患者たちのカルテですね。しかも、詳細な個人情報や、過去のトラウマまで記録されています」

と驚きの声を上げた。

「院長は、患者たちの個人情報を不正に入手し、幻覚実験に利用していたんです！」

葉羽は改めて院長の罪を糾弾した. 警察官は頷き、

「これは重大な犯罪です。院長を逮捕しなければ」

と決意を新たにした。