影蝕の虚塔 - かげむしばみのきょとう -

葉羽

文字の大きさ
上 下
7 / 8
7章

虚構の崩壊 - 真相の顕現 -

しおりを挟む
巨大な黒い影は、まるで生き物のように蠢きながら葉羽に迫ってきた。その圧倒的な存在感に、葉羽は身動き一つ出来ずに立ち尽くす。逃げようにも、足が根が生えたように動かない。恐怖が全身を駆け巡り、息をするのも苦しかった。

その時、葉羽の脳裏に、過去の記憶がフラッシュバックした。両親との楽しかった思い出、彩由美との穏やかな日々…それらが走馬灯のように駆け巡り、彼の心を温かく包み込んだ。そして、大切な人々を守るため、彼は恐怖に打ち克つ力を得た。

「…僕は…負けない…!」

葉羽は叫び、影に立ち向かった。彼はポケットから、いつも持ち歩いている推理小説を取り出した。それは、彼が最も愛する作家の作品だった。

「…この本には…論理と真実が詰まっている…!」

葉羽は本を高く掲げ、影に投げつけた。本は影に命中し、そのまま吸い込まれていった。

すると、驚くべきことが起こった。影は激しく震え始めたかと思うと、みるみる小さくなっていった。まるで、光に当たった闇のように、消え去っていく。

「…何が…起こっているんだ…?」

葉羽は呆然としながら、影が消えていく様を見つめていた。その時、部屋の奥から、綺羅星が現れた。彼の顔には、もはや鬼のような形相はなく、深い悲しみが刻まれていた。

「…全て…終わった…」

綺羅星は呟いた。彼の言葉に、葉羽は疑問を投げかけた。

「…一体、何が終わったというんです?あの影は…何だったんですか?」

綺羅星の口から、驚くべき真実が語られた。

「…あの影は…この塔に囚われた…人々の恐怖の集合体…そして…わしの…心の闇…だった…」

綺羅星は、かつてこの塔で行われた実験の犠牲者たちの末裔だった。彼は、祖先たちが受けた苦しみを償うため、そして、この塔に囚われた人々の魂を解放するために、自ら装置を起動させ、影を生み出したのだ。

「…しかし…装置を起動させたことで…わし自身の心も…闇に囚われてしまった…」

綺羅星は苦しそうに胸を押さえた。彼の体は、まるで影に蝕まれたように、徐々に消え始めていた。

「…あなたは…犠牲者たちを…救おうとしていた…?」

葉羽は理解した。綺羅星は、悪人ではなかった。彼は、ただ過去の過ちを償おうとしていたのだ。

「…もう…遅い…わしの…時間は…尽きた…」

綺羅星の体は、完全に消え去ろうとしていた。彼は最後の力を振り絞り、葉羽に語りかけた。

「…この塔の…秘密は…永遠に…封印するのだ…そして…彩由美さんを…頼む…」

綺羅星の言葉と共に、彼の体は完全に消滅した。部屋には、葉羽一人だけが残された。

その時、葉羽は彩由美のことを思い出した。彼女は、どこにいるのだろうか?無事なのだろうか?

葉羽は部屋を飛び出し、彩由美を探し始めた。そして、ついに、塔の最上階で彼女を発見した。彼女は、床に倒れ込んでいた。

「…彩由美!」

葉羽は駆け寄り、彩由美を抱き起こした。彼女は意識を失っていたが、怪我はなさそうだった。

葉羽は安堵のため息をついた。そして、彼は彩由美を抱きかかえ、塔の外へと出た。

外は既に夜だった。満天の星空の下、葉羽は彩由美を抱きしめ、静かに涙を流した。

全ての謎が解け、事件は解決した。しかし、葉羽の心には、深い悲しみと、そして、新たな決意が芽生えていた。

彼は、この事件を風化させてはならない。そして、綺羅星の願いを叶えるため、この塔の秘密を永遠に封印しなければならない。

葉羽は彩由美を抱きかかえ、島を離れる船に乗り込んだ。朝日が昇り始める中、虚塔は徐々に小さくなっていき、やがて水平線の彼方へと消えていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

ナガヤマをさがせ~生徒会のいちばん長い日~

彩条あきら
ミステリー
中学生徒会を主役に、行方不明の生徒会長を探し回るミステリー短編小説。 完全無欠の生徒会長ナガヤマ・ユウイチがある日、行方不明になった!彼が保管する文化祭実行のための重要書類を求め、スバルたち彩玉学園中学生徒会メンバーは学校中を探し始める。メンバーたちに焦りが募る中、完璧と思われていた生徒会長ナガヤマの、知られざる側面が明らかになっていく…。 ※別サイトの企画に出していた作品を転載したものです※

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

【完結】シリアルキラーの話です。基本、この国に入ってこない情報ですから、、、

つじんし
ミステリー
僕は因が見える。 因果関係や因果応報の因だ。 そう、因だけ... この力から逃れるために日本に来たが、やはりこの国の警察に目をつけられて金のために... いや、正直に言うとあの日本人の女に利用され、世界中のシリアルキラーを相手にすることになってしまった...

【1話完結】ほのぼのミステリー

Algo_Lighter
ミステリー
ほのぼのとした日常の中に隠れた、小さな謎を解く心温まるミステリー。 静かに、だけど確かに胸に響く優しい推理をお楽しみください。

処理中です...