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11章

錯覚のメカニズム

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葉羽が振り返ると、そこには誰もいなかった。しかし、彼は確かに気配を感じたのだ。まるで、誰かが見ているような、冷たい視線を感じたのだ。

葉羽は、背筋が寒くなるのを感じた。この劇場には、何か得体の知れないものが潜んでいる。そう確信した。

葉羽は、血痕の付いた布切れをポケットにしまい、隠し通路を戻った。そして、再び烏丸蔵人の遺体が発見された密室へと向かった。

葉羽は、密室の構造を改めて確認した。部屋は、完全に密室状態だった。唯一の出入り口である鉄製の扉は、内側から閂が掛けられていた。窓は一つだけあったが、鉄格子で塞がれており、大人の人間が通り抜けることは不可能だった。

「しかし…犯人は、どうやってこの密室に出入りしたんだ…?」

葉羽は、考え込んだ。そして、ある可能性に思い至った。

「もしかしたら…この密室は、偽物なのではないか?」

葉羽は、その可能性を検証するために、密室を再現することにした。彼は、劇場の舞台上に、密室と同じ大きさの空間を作り、同じように鉄製の扉と鉄格子付きの窓を設置した。

そして、葉羽は、プロジェクションマッピングと音響効果を使って、錯覚のトリックを再現することにした。

彼は、プロジェクターを使って、壁や床、天井にリアルな映像を投影した。そして、音響効果を使って、様々な音を発生させた。

葉羽は、プロジェクションマッピングと音響効果を巧みに組み合わせることで、視覚と聴覚を欺くことに成功した。偽物の密室は、本物と見分けがつかないほど精巧に作られていた。

葉羽は、偽物の密室に入り、鉄製の扉を閉めた。そして、閂を掛けた。

すると、密室は完全に閉鎖された空間となった。しかし、葉羽は、密室の外に出ることができた。

葉羽は、隠し通路を使って密室から脱出したのだ。

「やはり…この密室は、偽物だったんだ」

葉羽は、確信した。そして、烏丸蔵人は、この偽物の密室で殺害されたのではないかと考えた。

犯人は、プロジェクションマッピングと音響効果を使って、観客を騙し、烏丸蔵人を偽物の密室で殺害したのだ。そして、真犯人は、観客の中に紛れ込んでいた。

葉羽は、劇場全体が巨大なトリック装置であることに気づいた。舞台装置、照明、音響、そして、観客席。全てが、緻密に計算されたトリックの一部だったのだ。

葉羽は、劇場の設計図を改めて確認した。すると、設計図には、隠し通路や隠し部屋以外にも、様々な仕掛けが描かれているのを発見した。

例えば、舞台装置の裏側には、秘密の通路が隠されていた。照明には、特殊な仕掛けが施されており、観客の視線を操作することができた。そして、音響効果によって、観客の聴覚を欺くこともできた。

葉羽は、劇場全体が、観客を騙すための巨大なトリック装置であることを理解した。そして、この装置を操作することで、犯人は完全犯罪を成し遂げようとしていたのだ。

葉羽は、トリック装置の起動スイッチを探した。そして、ついに舞台装置の裏側で、小さなスイッチを発見した。

スイッチは、赤いランプで点滅していた。葉羽は、スイッチに手を伸ばした。

その時、葉羽は、背後に気配を感じた。

葉羽は、ゆっくりと振り返った。

しかし、そこには誰もいなかった。

葉羽は、再びスイッチに視線を戻した。そして、スイッチを押した。

すると、劇場全体が暗闇に包まれた。そして、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

葉羽は、罠に嵌ったことを悟った。スイッチは、警察に通報するためのものだったのだ。

葉羽は、急いで劇場から逃げ出そうとした。しかし、扉は全てロックされており、開けることができなかった。

葉羽は、罠に閉じ込められてしまったのだ。
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