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9章

闇に潜む共犯者

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白鳥奏を目撃したというカフェ店員の証言は、葉羽の推理を大きく揺るがした。白鳥には鉄壁のアリバイがあったはずだ。だとすれば、目撃された男は白鳥ではないのか? それとも、白鳥のアリバイは偽装されたものなのか?

葉羽は混乱の中、改めて事件の全体像を俯瞰してみた。複雑に絡み合った状況、容疑者たちの不可解な証言、そして、巧妙に仕組まれたトリック。これらを全て一人で実行することは、ほぼ不可能に近いと思われた。

「やはり…共犯者がいる」

葉羽は、その結論に達した。烏丸蔵人殺害は、綿密に計画された犯行であり、単独犯では不可能なほどの緻密さと大胆さを兼ね備えていた。背後には、必ずもう一人の黒幕、共犯者が存在するはずだ。

そこで葉羽は、容疑者たちの人間関係を洗い直すことにした。彼らの間に隠された動機、秘密の関係、そして、共犯関係の可能性を探るためだ。

まず、葉羽は劇団員たちに改めて話を聞いた。彼らの証言は、以前と変わらず、互いに矛盾する点もあったが、葉羽は彼らの表情や仕草、言葉の微妙なニュアンスに注意を払いながら、真実を見抜こうと努めた。

演出家の白鳥奏は、冷静沈着で、感情を表に出すことはほとんどなかった。彼は、烏丸とは長年の付き合いがあり、信頼関係も厚かったと語っていたが、葉羽は彼の言葉にどこか嘘のようなものを感じていた。

主演俳優の朱雀紅蓮は、情熱的で、感情表現が豊かだった。彼は、烏丸を尊敬していたと語っていたが、同時に、彼の厳しい指導に不満を抱いていたことも明らかだった。

小道具係の玄武蒼真は、寡黙で、何を考えているのか分からない人物だった。彼は、烏丸とは仕事上の関係のみで、個人的な交流はほとんどなかったと語っていたが、葉羽は彼の言葉にどこか不自然なものを感じていた。

衣装係の青龍琉璃は、華やかで、ミステリアスな雰囲気を漂わせていた。彼女は、烏丸とは親密な関係にあったと噂されていたが、本人はそれを否定していた。

音響・照明技師の黄龍琥珀は、冷静で、論理的な思考の持ち主だった。彼は、烏丸とは仕事上の関係のみで、個人的な交流はほとんどなかったと語っていた。

そして、烏丸の姪である灰崎硝子。彼女は、依然として謎めいた存在だった。彼女は、烏丸とは疎遠になっていたと語っていたが、葉羽は彼女の言葉にどこか嘘のようなものを感じていた。

葉羽は、彼らの証言を分析し、それぞれの関係性を図式化してみた。すると、複雑に絡み合った人間関係と、それぞれの隠された動機が浮かび上がってきた。

白鳥は、烏丸の才能に嫉妬し、彼の地位を奪おうとしていた可能性があった。朱雀は、烏丸の厳しい指導に憤りを抱き、復讐を企てていた可能性があった。玄武は、烏丸に何らかの恨みを抱き、殺害を計画していた可能性があった。青龍は、烏丸との秘密の関係が露見することを恐れ、彼を殺害した可能性があった。黄龍は、烏丸の演劇に不満を抱き、破壊工作を企てていた可能性があった。そして、灰崎硝子は、烏丸の遺産を狙い、彼を殺害した可能性があった。

葉羽は、これらの可能性を一つ一つ検証していった。そして、共犯者の役割と目的を推理した。

共犯者は、犯人をサポートし、アリバイ工作や証拠隠滅に協力していたはずだ。また、共犯者は、犯人の動機を知っており、犯行を幇助するだけの理由があったはずだ。

さらに、共犯者は、情報操作によって、捜査を混乱させていた可能性もあった。例えば、偽の目撃情報を流したり、警察に嘘の証言をしたりすることで、捜査の焦点を別の場所に向けようとしていたのかもしれない。

葉羽は、推理を進めるうちに、共犯者の人物像が少しずつ明確になってきた。共犯者は、劇場関係者であり、烏丸と親しい人物であり、そして、高度な知識と技術を持つ人物であるはずだ。

葉羽は、推理を整理し、最終的な結論を導き出そうとした。その時、彼は窓の外に人影が動くのを見た。

人影は、劇場の裏口へと消えていった。葉羽は、それが共犯者ではないかと考え、急いで後を追った。

しかし、葉羽が裏口に辿り着いた時には、既に人影は消えていた。まるで、幻影のように。
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