没入劇場の悪夢：天才高校生が挑む最恐の密室殺人トリック

葉羽

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2章

密室の惨劇

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烏丸蔵人は、椅子に座ったまま、微動だにしなかった。葉羽は、恐怖と不安に駆られながら、震える手で彼の肩を揺すった。

「先生…っ！しっかりしてください！」

しかし、烏丸は反応しない。蝋燭の光が、彼の顔を不気味に照らし出す。顔色は土気色で、目は虚ろに開いていた。

葉羽は、彼の脈を確かめた。脈はない。冷たくなっている。

「先生…！」

葉羽は、叫び声を上げた。その声は、地下室の静寂を切り裂き、演劇のリハーサル中の喧騒をかき消した。

叫び声を聞きつけ、白鳥奏をはじめとする劇団員たちが地下室に駆け込んできた。主演俳優の朱雀紅蓮（すざくぐれん）は、血相を変えて葉羽に駆け寄った。

「葉羽君！どうしたんだ！？」

「烏丸先生…烏丸先生が…！」

葉羽は、言葉にならないまま、震える指で烏丸を指差した。劇団員たちは、息を呑んだ。烏丸は、椅子に座ったまま、事切れていた。

「嘘だろ…先生…」

小道具係の玄武蒼真（げんぶそうま）が、呟いた。彼の声は、震えていた。

「誰か…救急車を…！」

衣装係の青龍琉璃（せいりゅうるり）が、叫んだ。彼女の顔は、青ざめていた。

「落ち着け！既に連絡済みだ」

白鳥は、冷静な声で言った。しかし、彼の顔にも動揺の色が隠しきれていなかった。

間もなく、警察が到着し、現場検証が始まった。地下室は、完全に密室状態だった。唯一の出入り口である鉄製の扉は、内側から閂が掛けられていた。窓は一つだけあったが、鉄格子で塞がれており、大人の人間が通り抜けることは不可能だった。

「完全に密室だな…」

ベテラン刑事の岩田が、呟いた。彼の顔には、深い皺が刻まれていた。

「烏丸先生の死因は、胸に刺さった短剣による失血死です。凶器は、現場で見つかりました」

鑑識官が、報告した。短剣は、烏丸の胸に深く突き刺さっており、柄の部分には指紋は残っていなかった。

「密室で、凶器の指紋も拭き取られている…計画的な犯行だな」

岩田刑事は、鋭い視線で劇団員たちを見渡した。劇団員たちは、互いに顔を見合わせ、不安そうに視線を逸らした。

「皆さんのアリバイを確認させてください」

岩田刑事は、一人ずつ尋問を始めた。

演出家の白鳥は、「リハーサル中はずっと舞台上にいた」と証言した。主演俳優の朱雀は、「楽屋で台詞の練習をしていた」と証言した。小道具係の玄武は、「小道具の整理をしていた」と証言した。衣装係の青龍は、「衣装の修繕をしていた」と証言した。そして、音響・照明技師の黄龍琥珀（おうりゅうこはく）は、「照明と音響の調整をしていた」と証言した。

さらに、烏丸の遺産相続人である姪の灰崎硝子（はいざきしょうこ）も劇場にいたことが判明した。彼女は、「叔父に会うために来ていた」と証言した。

全員がアリバイを主張していたが、互いに証言を裏付ける証拠はなかった。

「全員、容疑者だな…」

岩田刑事は、呟いた。

葉羽は、警察の捜査を静かに見守っていた。彼の心には、拭い去れない違和感があった。何かが、おかしい。

葉羽は、烏丸の遺体をもう一度観察した。遺体の顔色は悪く、目は虚ろに開いていた。そして、胸に刺さった短剣。

葉羽は、短剣の角度に不自然な点があることに気づいた。短剣は、心臓を狙って刺されたというよりは、まるで何かを隠すかのように、斜めに突き刺さっていた。

さらに、烏丸の右手には、小さく握りしめられた紙切れがあった。警察は、それに気づいていなかった。

葉羽は、こっそりと紙切れを手に取った。紙切れには、かすれた文字で「アビ…人形…」と書かれていた。

「アビ…人形…？」

葉羽は、呟いた。その言葉の意味が分からなかった。しかし、この紙切れが、事件の重要な手がかりであることは間違いないと感じた。

その時、葉羽は、背後に冷たい視線を感じた。振り返ると、灰崎硝子が、葉羽をじっと見つめていた。彼女の目は、まるで何かを訴えかけるように、深く沈んでいた。

「貴方が…何か知っているのね…」

灰崎硝子の言葉が、葉羽の耳に響いた。彼女の言葉は、まるで呪いのように、葉羽の心に重くのしかかった。

この密室殺人事件は、想像以上に複雑で、恐ろしいものだった。葉羽は、事件の真相を解明するために、自らの推理力と洞察力を駆使しなければならないことを悟った。そして、それは、彼にとって、想像を絶する恐怖の始まりでもあった。

劇場の地下室、烏丸の遺体、不可解な密室状況、そして、謎めいたメッセージ。すべてのピースが、複雑に絡み合い、葉羽を深い闇へと引きずり込んでいく。果たして、彼はこの悪夢から抜け出すことができるのだろうか。

そして、灰崎硝子の言葉の意味とは？彼女は何を知っているのか？

次々と浮かび上がる疑問と不安が、葉羽の心を締め付ける。彼は、この劇場に潜む闇の深淵を、まだ知らないでいた。

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