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12章

時を超える代償

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異世界を救い、現実世界へと戻ってきた葉羽と彩由美。崩壊の危機は去り、街には少しずつだが、復興の兆しが見え始めていた。それでも、異様な歪みを見せる空や、時折揺らめく空間は、完全に元の日常に戻ったわけではないことを物語っていた。

葉羽は、異世界の滅亡の原因が次元断層の不安定さにあることを知っていた。そして、その不安定さは、根本的には解決されていない。再び異世界、そして現実世界に危機が訪れる可能性は否定できなかった。

「根本的な解決策を見つけなければ…」

葉羽は、呟いた。彩由美は、葉羽の真剣な表情を見て、彼の肩にそっと手を置いた。

「葉羽くん、無理しないで。もう十分頑張ったんだから…」

彩由美の優しい言葉に、葉羽はわずかに微笑んだ。しかし、彼の心の中の不安は消えなかった。

異世界の古代文献には、次元断層を完全に制御する方法が記されていた。それは、「時を操る力」を使うこと。しかし、それは禁断の力であり、使うには大きな代償が伴うとされていた。

葉羽は、その代償の大きさを知っていた。しかし、彼は、異世界と現実世界を救うためなら、どんな代償も払う覚悟ができていた。

彼は、瓏琅教授に相談することにした。教授は、物理学の権威であり、時間に関する知識も豊富だった。

教授の研究室を訪ねると、教授は葉羽の来訪を喜んで迎えた。葉羽は、教授に異世界の古代文献の内容、そして時を操る力について説明した。

教授は、葉羽の説明を真剣に聞き、深く考え込んだ。

「時を操る力か…確かに、理論上は不可能ではない. しかし、それは非常に危険な力だ。時を操るということは、因果律を改変することを意味する. それは、時空そのものを歪ませ、予測不可能な結果をもたらす可能性がある」

教授は、時を操る力の危険性を説明した。しかし、葉羽は、それでも時を操る力を使うことを決意していた。

「先生、他に方法はありません。異世界と現実世界を救うためには、時を操る力を使うしかないんです」

葉羽の強い決意に、教授は心を動かされた. 彼は、葉羽に協力することを約束した。

「分かった。私も協力しよう。しかし、時を操る力は、非常に危険な力だ。君はそのことを、決して忘れてはならない」

教授は、葉羽に警告した。葉羽は、教授の言葉に静かに頷いた。

葉羽と教授は、協力して、時を操るための装置を開発した。それは、異世界の古代技術と、現代科学を融合させた、複雑な装置だった。

装置が完成すると、葉羽は、時を操る実験を開始した。彼は、装置を起動させ、過去へと遡るための準備を始めた。

その時、彩由美が研究室に駆け込んできた。彼女は、葉羽が危険な実験をしようとしていることを知り、彼を止めようとした。

「葉羽くん、やめて! そんな危険なことはしないで!」

彩由美は、涙を流しながら訴えた。しかし、葉羽は、彼女の言葉に耳を貸さなかった。

「私は…やらなければならない…彩由美…君のためにも…世界の未来のためにも…」

葉羽は、彩由美に別れを告げ、装置の中へと入った。

装置が起動し、葉羽の体は光に包まれた。そして、次の瞬間、葉羽は過去へと遡っていた。

葉羽が辿り着いたのは、異世界がまだ滅亡する前の時代だった。彼は、異世界の滅亡を阻止するため、次元断層を安定させる方法を探し始めた。

彼は、異世界の賢者たちに教えを請い、次元断層を制御するための知識を学んだ。そして、彼は、次元断層を安定させるための儀式を行った。

儀式は成功し、次元断層は安定した。異世界の滅亡は回避された。

葉羽は、自分の使命を果たし、現実世界へと戻ろうとした。しかし、その時、彼は異様な感覚に襲われた。

彼の記憶が、徐々に消え始めていた. 時を操る力の代償として、彼は大切な記憶を失う運命にあったのだ。

葉羽は、必死に記憶にしがみ付こうとした。しかし、彼の努力も空しく、記憶は容赦なく消え去っていった。

彼は、自分が誰なのか、何のためにここにいるのか、そして彩由美の存在さえも、忘れてしまった。

葉羽は、記憶を失ったまま、現実世界へと戻ってきた。彼は、見知らぬ街を彷徨い、自分が誰なのかも分からずに、途方に暮れていた。
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