上 下
11 / 16
10章

鏡像のイデア

しおりを挟む
黒い渦が消滅し、世界の崩壊は食い止められた。荒廃した街並みは依然として異様な雰囲気を漂わせていたが、空から降り注いでいた赤い雨は止み、厚く覆っていた雲の隙間から、一筋の光が差し込んでいた。まるで、希望の光を象徴するかのように。

葉羽は、安堵の息を吐き出しながら、力なく膝をついた。闇の力との融合、そして次元断層の閉鎖。想像を絶する緊張と精神的負荷が、彼の体から全ての力を奪い去っていた。

それでも、葉羽の心は希望で満ちていた。彩由美が無事だったこと、そして世界が崩壊を免れたこと。それだけで、彼は満足だった。

ゆっくりと立ち上がり、葉羽は彩由美の待つ教会へと向かった。教会までの道のりは、瓦礫の山と化した街を抜けなければならない危険な道程だったが、葉羽の足取りは軽かった。

教会に辿り着くと、葉羽は安堵のため息をついた。教会は、周囲の崩壊とは無縁であるかのように、静かに佇んでいた。

教会の中に入ると、彩由美は目を覚ましていた。彼女は、ベッドに横たわり、心配そうに葉羽を見つめていた。

「葉羽くん…無事だったのね…」

彩由美は、弱々しい声で言った。葉羽は、彼女の傍らに跪き、優しく彼女の手に触れた。

「ああ、無事だよ。もう大丈夫だ」

葉羽は、彩由美に微笑みかけた。そして、彼は、これまでの出来事、鏡像融合、次元断層、そして闇の力との融合について、全てを彩由美に話した。

彩由美は、葉羽の話を真剣に聞いていた。彼女は、葉羽が経験した恐怖と苦しみを理解し、彼を深く抱きしめた。

「葉羽くん…辛かったのね…」

彩由美の温かい抱擁に、葉羽は安堵感と幸福感を感じた。彼は、彩由美の存在が、自分にとってどれほど大切なものかを改めて実感した。

二人は、しばらくの間、静かに抱き合っていた。そして、葉羽は、彩由美に語りかけた。

「彩由美…私は、君を守る…そして、この世界を守る…そのためなら、どんなことでもする…」

葉羽の言葉は、力強く、そして真摯だった。彩由美は、葉羽の決意を感じ取り、静かに頷いた。

「私も…葉羽くんと一緒に…この世界を守りたい…」

彩由美の言葉に、葉羽は深く感動した。彼は、彩由美と共に、新たな未来を築いていくことを誓った。

その時、教会の外から、不気味な音が聞こえてきた。それは、まるで何かが蠢いているような、不快な音だった。

葉羽と彩由美は、顔を見合わせ、教会の外へと出ていった。

教会の外には、異様な光景が広がっていた。空は、再び赤黒く染まり、地面からは黒い煙が立ち上っていた。そして、街のいたるところで、異形の怪物たちが姿を現し始めていた。

次元断層は、完全に閉鎖されたわけではなかった。それは、まるで葉羽の心の闇を反映するかのように、再びこの世界に現れ始めていた。

葉羽は、自分の心がまだ完全に闇を克服できていないことを悟った。彼は、再び闇の力と対峙しなければならない。

しかし、今回は一人ではない。彼には、彩由美がいる。彩由美の支えがあれば、彼はどんな困難にも立ち向かうことができる。

葉羽は、彩由美の手を握りしめ、闇の力に立ち向かうことを決意した。

「私は…恐れない…君が…そばにいてくれるなら…」

葉羽は、彩由美に語りかけた。彩由美は、葉羽の手を強く握り返し、微笑んだ。

「私も…恐れない…葉羽くんと…一緒なら…」

二人は、手を取り合い、闇の力に立ち向かう準備を始めた。

葉羽は、再び闇の力と融合し、鏡像のイデア、真の姿へと変貌した。彼の体は、闇のエネルギーで覆われ、漆黒の翼を広げた。まるで、闇の天使のようだった。

しかし、彼の瞳には、依然として希望の光が宿っていた。それは、彩由美の愛の光だった.

葉羽は、闇の力と愛の力を融合させ、新たな力を手に入れた。それは、世界を創造する力、そして世界を破壊する力。

葉羽は、この新たな力を使って、次元断層を完全に閉鎖し、異形の怪物たちを永遠に封印することを決意した。

彼は、空高く舞い上がり、闇の力と愛の力を解き放った. 世界は、光と闇に包まれ、新たな時代へと移り変わろうとしていた.

そして、葉羽と彩由美は、手を取り合い、新たな世界の夜明けを見つめていた.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

双極の鏡

葉羽
ミステリー
神藤葉羽は、高校2年生にして天才的な頭脳を持つ少年。彼は推理小説を読み漁る日々を送っていたが、ある日、幼馴染の望月彩由美からの突然の依頼を受ける。彼女の友人が密室で発見された死体となり、周囲は不可解な状況に包まれていた。葉羽は、彼女の優しさに惹かれつつも、事件の真相を解明することに心血を注ぐ。 事件の背後には、視覚的な錯覚を利用した巧妙なトリックが隠されており、密室の真実を解き明かすために葉羽は思考を巡らせる。彼と彩由美の絆が深まる中、恐怖と謎が交錯する不気味な空間で、彼は人間の心の闇にも触れることになる。果たして、葉羽は真実を見抜くことができるのか。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

虹の橋とその番人 〜交通総務課・中山小雪の事件簿〜

ふるは ゆう
ミステリー
交通総務課の中山小雪はひょんなことから事件に関わることになってしまう・・・無駄なイケメン、サイバーセキュリティの赤羽涼との恋模様もからんで、さて、さて、その結末やいかに?

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

アイリーンはホームズの夢を見たのか?

山田湖
ミステリー
一人の猟師が雪山にて死体で発見された。 熊に襲われたと思われるその死体は顔に引っ搔き傷のようなものができていた。 果たして事故かどうか確かめるために現場に向かったのは若手最強と言われ「ホームズ」の異名で呼ばれる刑事、神之目 透。 そこで彼が目にしたのは「アイリーン」と呼ばれる警察が威信をかけて開発を進める事件解決補助AIだった。 刑事 VS AIの推理対決が今幕を開ける。 このお話は、現在執筆させてもらっております、長編「半月の探偵」の時系列の少し先のお話です。とはいっても半月の探偵とは内容的な関連はほぼありません。 カクヨムweb小説短編賞 中間選考突破。読んでいただいた方、ありがとうございます。

処理中です...