「鏡像のイデア」　難解な推理小説

葉羽

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5章

反転する世界

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眩い光に包まれた葉羽の意識は、ゆっくりと浮上していく。まるで深い眠りから覚めるように、現実世界へと戻ってきた感覚があった。だが、目を開けると、そこに広がっていたのは見慣れた自宅の玄関ホールではなかった。

薄暗い部屋、重苦しい空気、そして異様な紋様が刻まれた壁。ここは、あの鏡の向こう側の異世界、鏡像迷宮だった。しかし、前回とは何かが違う。空気の澱み、壁から滲み出るような不気味な気配、全てがより濃密に、葉羽の感覚を締め付けてくる。

「ここは…また、あの世界…？」

葉羽は混乱しながら呟いた。一体何が起こっているのか？真実の鏡に触れたはずなのに、なぜまだこの世界にいるのか？そして、最も葉羽を不安にさせたのは、鏡の中の自分の姿だった。

鏡に映っていたのは、紛れもなく葉羽自身だった。しかし、その瞳の奥には、冷酷な光が宿り、唇には嘲りの笑みが浮かんでいた。それは、まさにあの鏡像、異世界に囚われたもう一人の自分の姿だった。

「まさか…入れ替わってしまったのか…？」

葉羽は、最悪の事態を悟った。真実の鏡に触れたことで、現実世界の自分と、異世界の自分の立場が逆転してしまったのだ。つまり、今の葉羽は、鏡像として現実世界に存在し、本当の葉羽は鏡像迷宮に囚われたままなのだ。

パニックに陥りそうになる心を必死に抑え込み、葉羽は冷静に状況を分析しようと試みた。まず確認すべきは、自分が本当に現実世界にいるのかどうかだ。

葉羽は玄関のドアを開け、外に出た。すると、そこには見慣れた街並みが広がっていた。夕焼けに染まる空、行き交う車、そして家路を急ぐ人々。全てが、いつもの日常と変わらないように見えた。

しかし、葉羽は違和感を拭い去ることができなかった。人々の表情、街の雰囲気、全てがどこか薄っぺらで、現実味がないように感じられた。まるで、精巧に作られた舞台装置を見ているような、そんな感覚だった。

その時、葉羽は前方から歩いてくる彩由美の姿を見つけた。彼女はいつものように明るい笑顔で、葉羽に向かって手を振っている。

葉羽は、彩由美に駆け寄ろうとした。しかし、次の瞬間、彼は足を止めた。もし、自分が鏡像だとしたら？彩由美に近づけば、彼女に危険が及ぶかもしれない。

葉羽は、彩由美に声をかけずに、その場を立ち去った。彩由美は、葉羽の不可解な行動に戸惑い、心配そうに彼を見送った。

葉羽は、自宅に戻り、鏡の前に立った。鏡の中の自分は、相変わらず冷たい笑みを浮かべている。

「なぜ…こんなことをするんだ…？」

葉羽は、鏡像に問いかけた。鏡像は、ゆっくりと口を開いた。

「私は…君だ…君の闇…君のもう一つの人格…」

「もう一つの人格…？」

「ああ…君は、私を閉じ込めていた…鏡の奥底に…しかし、私は…ついに解放された…そして今…私は…君の世界を…手に入れる…」

鏡像の言葉は、葉羽の心を深く抉った。鏡像は、葉羽の抑圧された闇の部分、もう一つの人格だったのだ。そして、鏡像融合によって、その闇の人格が解放され、現実世界を侵食し始めていた。

葉羽は、鏡像の企みを阻止しなければならない。しかし、どうすればいいのか？鏡像は、葉羽自身の一部であり、葉羽と同じ能力を持っている。彼を倒すことは、自分自身を倒すことと同じだ。

その時、葉羽は、瓏琅教授から聞いた「反転の法則」を思い出した。量子力学の世界では、粒子と反粒子が衝突すると、両者は消滅し、莫大なエネルギーが放出される。もし、自分と鏡像が粒子と反粒子の関係にあるとしたら、自分と鏡像を衝突させることで、鏡像融合を解除できるかもしれない。

しかし、それは非常に危険な賭けだ。失敗すれば、葉羽自身も消滅してしまう可能性がある。

葉羽は、迷宮に囚われた本当の自分を救い出すため、そして鏡像の侵食から世界を守るため、危険な賭けに出ることを決意した。

彼は、鏡像と同じように、鏡の世界へと入っていく方法を探し始めた。鏡像迷宮の構造、鏡像融合のメカニズム、そして量子力学の法則。葉羽は、持てる知識と推理力を駆使し、鏡の世界へと戻る方法を模索した。

そして、ついに、彼は一つの仮説に辿り着いた。鏡像融合は、特定の条件下で発生する量子的な現象であり、その条件を再現することで、再び鏡の世界へと入ることができるのではないか？

葉羽は、鏡像融合が発生した状況を詳細に分析し、その条件を特定しようと試みた。鏡に触れた時の感覚、鏡の表面の揺らぎ、そして鏡像の言葉。葉羽は、一つ一つの手がかりを丹念に追っていった。

そして、ついに、彼は鏡像融合の条件を特定した。それは、「鏡に触れながら、特定の周波数の音波を発生させる」ことだった。

葉羽は、スマートフォンを使って特定の周波数の音波を発生させ、鏡に触れた。すると、鏡の表面が波打ち始め、周囲の景色が歪み始めた。

葉羽は、深呼吸をして心を落ち着かせ、鏡の中へと足を踏み入れた。

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