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4章
真実への扉
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時計の針が止まった瞬間、部屋の空気が変わった。それまでただの不気味な静けさだった空間が、まるで生き物のようにうごめき出し、葉羽と彩由美を包み込む。冷たい風が足元から這い上がり、薄暗い部屋全体が不気味な囁きで満たされた。
「……逃げられない……」
「……解けなければ、永遠に……」
その声はどこからともなく響き渡り、まるで部屋自体が話しかけてくるかのようだった。葉羽は背筋に寒気を感じつつも、決して動じないよう自分に言い聞かせた。彩由美は震えながらも葉羽に寄り添い、その冷静さに頼っていた。
「ここはただの部屋じゃない……」
葉羽は口元を引き締めながら、周囲を見渡した。時計が止まったことで、何かが始まったのだ。この屋敷全体が仕掛けられた「舞台装置」だとすれば、次の謎は今、動き始めているはずだ。彼の頭の中で、これまでの手がかりが次々と繋がり出す。
「この屋敷は、ただ過去の事件を再現しているだけじゃない……。ここにあるのはもっと根深い謎だ。時間を操作して、真実を隠そうとしているんだ。」
葉羽の言葉に彩由美はさらに不安を募らせるが、彼女は葉羽を信じるしかなかった。彼の推理こそが、二人をこの悪夢から救い出す唯一の方法だと信じている。
---
葉羽はゆっくりと動きを止めた時計に歩み寄り、その異常な仕掛けをじっくりと観察し始めた。金属製の歯車が複雑に組み合わさり、微妙な温度変化や気圧の差で動きを変えるように調整されている。時間が狂う原因は、やはりこの時計にあることは間違いない。
「この時計は、犯行時刻を偽装するために作られている。逆回りしているのも、温度変化によって時間が過去に戻ったように見せかけるためだ……。」
葉羽は、自分の推理が正しいことを確信し始めていた。しかし、それでもまだ何かが足りない。時計が止まった今、この謎は次の段階に進んだのだ。次に彼らがすべきことは――「扉を開ける」ことだと葉羽は直感した。
「彩由美、ここから抜け出すには、何かしらの『扉』を開ける必要がある。どこかに出口が隠されているはずだ。」
葉羽の目が輝き始めた。彼はすぐさま部屋中を調べ始めたが、この「絶対密室」と呼ばれる部屋には、一見して出口など存在しない。四方を覆う石造りの壁には窓もなく、唯一の入り口だった扉は、今や完全に閉ざされている。
「……でも、どうやって?」
彩由美は、しばらく黙っていたが、ようやく声を絞り出した。彼女の声には戸惑いが混じっていた。どれほど葉羽が天才的な推理力を発揮しても、この状況を覆すには何か異常な力が働いているのだと、彼女は薄々感じていたからだ。
---
「もう一度考えるんだ。何か、見落としているはずだ……」
葉羽はそう言いながら、部屋の隅々まで目を走らせた。だが、その瞬間、何かが彼の視界の端にちらついた。それは――部屋の壁にかかっている一枚の鏡だった。さっきまで気づかなかったのが不思議なくらい、その鏡は他の家具とは違って、異様に目立っていた。
「……あの鏡、何かおかしい。」
葉羽はすぐにそれに気づき、慎重に鏡へ近づいた。鏡は古いものだが、よく手入れがされており、反射が鮮明だ。しかし、葉羽はその鏡に映る自分の姿が、何か不自然に感じられることに気づいた。よく見ると、鏡の中の自分がほんのわずかにずれている――まるで、自分がそこにいるべき時間とは異なる時間を反射しているかのようだ。
「これは……普通の鏡じゃないな。」
葉羽は鏡をじっと見つめ、手をかざした。すると、鏡がわずかに揺らめき、まるで水面に手を差し込んだように、指が鏡の中へと吸い込まれていった。彩由美は驚愕の声を上げる。
「葉羽、それ……どうなってるの!?」
葉羽は驚きながらも冷静さを保とうとし、さらに鏡の中に手を伸ばしていった。すると、鏡の中から冷たい感触が手に伝わってきた。まるで異次元へと繋がっているかのような感覚――鏡の裏側には、明らかに何かが存在している。
「これは……扉だ。」
葉羽は確信した。この鏡自体が、別の空間への「扉」になっているのだ。この屋敷が隠している秘密、その真実への入り口がここにある。
「彩由美、行こう。この鏡の向こうに、答えがあるはずだ。」
彼は彩由美の手を取り、躊躇なく鏡の中へと飛び込んだ。
---
鏡の向こう側に広がっていたのは、まるで異世界のような光景だった。そこは薄暗い霧に包まれ、どこまでも続く荒野のように広がっている。足元には冷たい石畳が敷かれ、周囲には古びた建物の廃墟がちらほらと立っていた。まるで時が止まってしまった世界に迷い込んだかのような感覚だった。
「ここは……どこ?」
彩由美が戸惑いの声を上げたが、葉羽にはすぐにこの場所が何なのか理解できた。
「これは、過去だ。この屋敷が存在していた時代の残骸……過去の事件がここで起きたんだ。」
葉羽は冷静に状況を分析しながら、荒野の中央にある巨大な塔のような建物に目を向けた。そこには、無数の時計が掛けられており、そのすべてが異なる時間を指していた。
「この塔が……真実を隠している。俺たちは、ここで何が起きたのかを解き明かさないといけない。」
葉羽は彩由美を守るようにして、塔へと足を進めた。その途中、霧の中からかすかな人影が見えた。それはまるで幽霊のように淡く揺らめき、声を発することなく二人の周囲を漂っていた。
「葉羽……あれ、何……?」
彩由美の震える声に、葉羽は軽く首を横に振った。
「恐れるな。これはただの過去の残像だ……俺たちに害はない。」
だが、その言葉とは裏腹に、葉羽自身もその人影に対して不気味な感覚を抱いていた。過去に起きた事件の犠牲者たちが、ここに閉じ込められたかのように漂っているのだ。まるで、彼らが成仏できずに、この場所に縛りつけられているように。
---
やがて二人は塔の入り口にたどり着き、その中へと足を踏み入れた。内部は広大な図書館のようになっており、無数の本棚が天井までそびえている。だが、どの
本棚も古びていて、今にも崩れそうだった。
「この場所は、屋敷の全ての秘密を記録している……事件の真相を解き明かすためには、ここで手がかりを見つけないと。」
葉羽は冷静に本棚を調べ始めた。だが、その瞬間、背後で再び不気味な囁き声が響いた。
「……真実に近づくな……」
その声に、彩由美は震え上がる。彼女はもう限界に近かった。
「葉羽、お願いだからここから出ようよ……この場所、もう嫌……!」
だが葉羽は、そんな彼女の言葉にも動じなかった。彼は冷徹なまでに真実を追い求める。何があろうと、この謎を解き明かさなければならないという決意が、彼を突き動かしていた。
「まだだ。まだ終わっていない。ここで全ての答えを見つける。」
その言葉に、彩由美はただ頷くしかなかった。葉羽の目には、もう彼しか見えない「扉」が映っていた。
「……逃げられない……」
「……解けなければ、永遠に……」
その声はどこからともなく響き渡り、まるで部屋自体が話しかけてくるかのようだった。葉羽は背筋に寒気を感じつつも、決して動じないよう自分に言い聞かせた。彩由美は震えながらも葉羽に寄り添い、その冷静さに頼っていた。
「ここはただの部屋じゃない……」
葉羽は口元を引き締めながら、周囲を見渡した。時計が止まったことで、何かが始まったのだ。この屋敷全体が仕掛けられた「舞台装置」だとすれば、次の謎は今、動き始めているはずだ。彼の頭の中で、これまでの手がかりが次々と繋がり出す。
「この屋敷は、ただ過去の事件を再現しているだけじゃない……。ここにあるのはもっと根深い謎だ。時間を操作して、真実を隠そうとしているんだ。」
葉羽の言葉に彩由美はさらに不安を募らせるが、彼女は葉羽を信じるしかなかった。彼の推理こそが、二人をこの悪夢から救い出す唯一の方法だと信じている。
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葉羽はゆっくりと動きを止めた時計に歩み寄り、その異常な仕掛けをじっくりと観察し始めた。金属製の歯車が複雑に組み合わさり、微妙な温度変化や気圧の差で動きを変えるように調整されている。時間が狂う原因は、やはりこの時計にあることは間違いない。
「この時計は、犯行時刻を偽装するために作られている。逆回りしているのも、温度変化によって時間が過去に戻ったように見せかけるためだ……。」
葉羽は、自分の推理が正しいことを確信し始めていた。しかし、それでもまだ何かが足りない。時計が止まった今、この謎は次の段階に進んだのだ。次に彼らがすべきことは――「扉を開ける」ことだと葉羽は直感した。
「彩由美、ここから抜け出すには、何かしらの『扉』を開ける必要がある。どこかに出口が隠されているはずだ。」
葉羽の目が輝き始めた。彼はすぐさま部屋中を調べ始めたが、この「絶対密室」と呼ばれる部屋には、一見して出口など存在しない。四方を覆う石造りの壁には窓もなく、唯一の入り口だった扉は、今や完全に閉ざされている。
「……でも、どうやって?」
彩由美は、しばらく黙っていたが、ようやく声を絞り出した。彼女の声には戸惑いが混じっていた。どれほど葉羽が天才的な推理力を発揮しても、この状況を覆すには何か異常な力が働いているのだと、彼女は薄々感じていたからだ。
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「もう一度考えるんだ。何か、見落としているはずだ……」
葉羽はそう言いながら、部屋の隅々まで目を走らせた。だが、その瞬間、何かが彼の視界の端にちらついた。それは――部屋の壁にかかっている一枚の鏡だった。さっきまで気づかなかったのが不思議なくらい、その鏡は他の家具とは違って、異様に目立っていた。
「……あの鏡、何かおかしい。」
葉羽はすぐにそれに気づき、慎重に鏡へ近づいた。鏡は古いものだが、よく手入れがされており、反射が鮮明だ。しかし、葉羽はその鏡に映る自分の姿が、何か不自然に感じられることに気づいた。よく見ると、鏡の中の自分がほんのわずかにずれている――まるで、自分がそこにいるべき時間とは異なる時間を反射しているかのようだ。
「これは……普通の鏡じゃないな。」
葉羽は鏡をじっと見つめ、手をかざした。すると、鏡がわずかに揺らめき、まるで水面に手を差し込んだように、指が鏡の中へと吸い込まれていった。彩由美は驚愕の声を上げる。
「葉羽、それ……どうなってるの!?」
葉羽は驚きながらも冷静さを保とうとし、さらに鏡の中に手を伸ばしていった。すると、鏡の中から冷たい感触が手に伝わってきた。まるで異次元へと繋がっているかのような感覚――鏡の裏側には、明らかに何かが存在している。
「これは……扉だ。」
葉羽は確信した。この鏡自体が、別の空間への「扉」になっているのだ。この屋敷が隠している秘密、その真実への入り口がここにある。
「彩由美、行こう。この鏡の向こうに、答えがあるはずだ。」
彼は彩由美の手を取り、躊躇なく鏡の中へと飛び込んだ。
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鏡の向こう側に広がっていたのは、まるで異世界のような光景だった。そこは薄暗い霧に包まれ、どこまでも続く荒野のように広がっている。足元には冷たい石畳が敷かれ、周囲には古びた建物の廃墟がちらほらと立っていた。まるで時が止まってしまった世界に迷い込んだかのような感覚だった。
「ここは……どこ?」
彩由美が戸惑いの声を上げたが、葉羽にはすぐにこの場所が何なのか理解できた。
「これは、過去だ。この屋敷が存在していた時代の残骸……過去の事件がここで起きたんだ。」
葉羽は冷静に状況を分析しながら、荒野の中央にある巨大な塔のような建物に目を向けた。そこには、無数の時計が掛けられており、そのすべてが異なる時間を指していた。
「この塔が……真実を隠している。俺たちは、ここで何が起きたのかを解き明かさないといけない。」
葉羽は彩由美を守るようにして、塔へと足を進めた。その途中、霧の中からかすかな人影が見えた。それはまるで幽霊のように淡く揺らめき、声を発することなく二人の周囲を漂っていた。
「葉羽……あれ、何……?」
彩由美の震える声に、葉羽は軽く首を横に振った。
「恐れるな。これはただの過去の残像だ……俺たちに害はない。」
だが、その言葉とは裏腹に、葉羽自身もその人影に対して不気味な感覚を抱いていた。過去に起きた事件の犠牲者たちが、ここに閉じ込められたかのように漂っているのだ。まるで、彼らが成仏できずに、この場所に縛りつけられているように。
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やがて二人は塔の入り口にたどり着き、その中へと足を踏み入れた。内部は広大な図書館のようになっており、無数の本棚が天井までそびえている。だが、どの
本棚も古びていて、今にも崩れそうだった。
「この場所は、屋敷の全ての秘密を記録している……事件の真相を解き明かすためには、ここで手がかりを見つけないと。」
葉羽は冷静に本棚を調べ始めた。だが、その瞬間、背後で再び不気味な囁き声が響いた。
「……真実に近づくな……」
その声に、彩由美は震え上がる。彼女はもう限界に近かった。
「葉羽、お願いだからここから出ようよ……この場所、もう嫌……!」
だが葉羽は、そんな彼女の言葉にも動じなかった。彼は冷徹なまでに真実を追い求める。何があろうと、この謎を解き明かさなければならないという決意が、彼を突き動かしていた。
「まだだ。まだ終わっていない。ここで全ての答えを見つける。」
その言葉に、彩由美はただ頷くしかなかった。葉羽の目には、もう彼しか見えない「扉」が映っていた。
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