深淵の迷宮

葉羽

文字の大きさ
上 下
9 / 10
9章

真実の対面

しおりを挟む
影たちの言葉が心に響いたまま、葉羽と彩由美は廊下を進んでいった。暗い空間の中で、彼らは互いの存在を頼りにしながら、真実を求めて歩みを進める。心の奥に潜む恐怖と向き合う勇気を持ちながら、次の試練が待ち受けていることを感じていた。

「葉羽、私、まだ不安だよ…」彩由美が小声で呟いた。

「俺もだ。でも、これを乗り越えないと、真実には辿り着けない。」葉羽は彼女を見つめ、勇気を示すつもりだった。

廊下の終わりに大きな扉が見えた。葉羽はその扉に近づき、手をかけた。「ここが次の試練の場所かもしれない。行こう。」

扉を開けると、部屋の中は薄暗く、壁には古びた絵画がかけられていた。中央には、長いテーブルがあり、その上にはさまざまなアイテムや資料が散らばっていた。彼らは慎重に部屋の中を見渡した。

「この部屋、なんだか異様な雰囲気がする…」彩由美が言った。

「うん、でも何か手がかりがあるはずだ。」葉羽はテーブルに近づき、上に置かれた資料を手に取った。

資料には、過去の家族の歴史やさまざまな事件についての記録が記されていた。葉羽はそれを読み進め、次第に家族の悲劇の詳細が明らかになっていく。

「ここに、家族の失踪事件が詳細に書かれている…」葉羽は声を震わせながら言った。「どうやら、毎代ごとに一人が失踪していたようだ。」

「それって、私たちの家族にも関係があるの?」彩由美が不安そうに尋ねる。

「そうかもしれない。君の祖母がこの家に関わっていたことも、何か意味があるんだ。」葉羽はさらに資料をめくり続けた。

その時、部屋の奥にある壁に目を留めた。そこには、家族の系図が描かれているように見えた。葉羽はその系図に近づき、じっと見つめた。

「これ、君の家族の名前が載ってる…」葉羽は驚きの声を上げた。「でも、君の祖母だけが線で繋がれていない。」

「どういうこと?」彩由美は心配そうに聞いた。

「もしかしたら、彼女はこの家から逃げることができたのかもしれない。でも、他の家族は…」葉羽は言葉を続ける。「その代わり、何かを背負わされてしまったのかもしれない。」

その瞬間、部屋が冷たくなり、背筋が凍るような感覚が二人を襲った。扉が突然閉まり、暗闇が深まった。

「葉羽、どうするの?出られなくなった!」彩由美が慌てて叫んだ。

「落ち着いて、必ず出られる方法があるはずだ。」葉羽は冷静さを保とうとしたが、心の中で恐怖が広がっていくのを感じた。

その時、再びあの影たちが現れた。彼らは静かに近づき、葉羽と彩由美を見つめている。

「真実を知りたいのなら、恐れずに受け入れなければならない。」影の一人が言った。

「何を受け入れればいいの?」葉羽は困惑した表情で尋ねた。

「お前たちの心の奥にあるものを、見つめ直すことだ。」影は続けた。「過去の悲劇が、今の運命に影響を及ぼしている。」

「私たちの運命…」彩由美が呟く。彼女の目には、恐怖と決意が混ざり合っている。

「私も、過去を受け入れなきゃいけないの?」彩由美は震える声で尋ねた。

「そうだ。過去の痛みを認めることで、未来を変えることができる。」影たちの言葉が、二人の心に響く。

葉羽は心の中で葛藤していた。過去の孤独や恐怖を受け入れることは、簡単なことではなかった。しかし、彼は彩由美の存在を思い出し、彼女と共に乗り越える決意を固めた。

「俺たち、受け入れるよ。過去の恐怖を。」葉羽は力強く言った。「それによって、真実を知りたい。」

「私も…」彩由美が同意した。「一緒に受け入れる。」

影たちは静かに頷き、部屋の空気が少し和らいだように感じた。二人は心の奥底にある恐怖と向き合うため、目を閉じ、過去の出来事を思い出そうとした。

「孤独だった日々、友達ができなかったこと…」葉羽は自分の心の中の影と向き合った。

「私も、いつも一人でいるのが怖かった…」彩由美は涙を流しながら言った。「それでも、私は友達が欲しかったのに、上手くいかなかった。」

その瞬間、彼らの心の中に温かい光が差し込んできた。過去の痛みを受け入れることで、新たな希望が生まれる感覚がした。

「これが、真実への道なのか…」葉羽は心の中で感じた。

影たちは静かに消え、部屋の明かりが戻った。扉が開き、外の光が差し込んできた。

「行こう、彩由美。これで私たちも新たな一歩を踏み出せる。」葉羽は彼女の手を引き、部屋を出て行く。

「うん、私も一緒に行く!」彩由美は力強く答えた。

二人は新たな希望を胸に、次の試練へと向かっていく。過去の恐怖を乗り越えたことで、真実に近づくための第一歩を踏み出す準備が整ったのだった。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

「鏡像のイデア」 難解な推理小説

葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。

霧崎時計塔の裂け目

葉羽
ミステリー
高校2年生で天才的な推理力を誇る神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、異常な霧に包まれた街で次々と起こる不可解な失踪事件に直面する。街はまるで時間が狂い始めたかのように歪んでいき、時計が逆行する、記憶が消えるなど、現実離れした現象が続発していた。 転校生・霧崎璃久の登場を機に、街はさらに不気味な雰囲気を漂わせ、二人は彼が何かを隠していると感じ始める。調査を進める中で、霧崎は実は「時間を操る一族」の最後の生き残りであり、街全体が時間の裂け目に飲み込まれつつあることを告白する。 全ての鍵は、街の中心にそびえる古い時計塔にあった。振り子時計と「時の墓」が、街の時間を支配し、崩壊を招こうとしていることを知った葉羽たちは、街を救うために命を懸けて真実に挑む。霧崎の犠牲を避けるべく、葉羽は自らの推理力を駆使して時間の歪みを解消する方法を見つけ出すが、その過程でさらなる謎が明らかに――。 果たして、葉羽は時間の裂け目を封じ、街を救うことができるのか?時間と命が交錯する究極の選択を迫られる二人の運命は――。

量子迷宮の探偵譚

葉羽
ミステリー
天才高校生の神藤葉羽は、ある日突然、量子力学によって生み出された並行世界の迷宮に閉じ込められてしまう。幼馴染の望月彩由美と共に、彼らは迷宮からの脱出を目指すが、そこには恐ろしい謎と危険が待ち受けていた。葉羽の推理力と彩由美の直感が試される中、二人の関係も徐々に変化していく。果たして彼らは迷宮を脱出し、現実世界に戻ることができるのか?そして、この迷宮の真の目的とは?

虹の橋とその番人 〜交通総務課・中山小雪の事件簿〜

ふるは ゆう
ミステリー
交通総務課の中山小雪はひょんなことから事件に関わることになってしまう・・・無駄なイケメン、サイバーセキュリティの赤羽涼との恋模様もからんで、さて、さて、その結末やいかに?

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

法律なんてくそくらえ

ドルドレオン
ミステリー
小説 ミステリー

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

処理中です...