深淵の迷宮

葉羽

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2章

幼馴染の誘い

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翌日、葉羽は朝からそわそわしていた。心の中では廃墟への期待と不安が交錯し、落ち着かない気持ちを抑えきれなかった。普段は冷静な彼だが、今日は何かが違う。まるで推理小説の主人公が運命に導かれるかのように、彼は運命の分岐点に立っている気がした。

「彩由美、早く来ないかな…」葉羽は窓の外を眺めながら呟いた。彼の豪邸は、広い庭に囲まれた静かな場所に位置している。青空が広がる中、緑の葉が風に揺れているのを見ていると、少しだけ心が和らいだ。

約束の時間が近づくにつれ、彼の心拍数は高まっていく。ついに、待ちに待った彩由美の姿が見えた。彼女は笑顔を浮かべてこちらに向かってくる。白いブラウスにデニムのショートパンツというカジュアルな服装が、彼女の明るい性格を引き立てている。

「おはよう、葉羽!」彩由美は元気よく手を振りながら近づいてきた。

「おはよう、彩由美。準備はできてる?」葉羽は少し緊張しながらも、彼女の笑顔に心が和むのを感じた。

「もちろん!廃墟の名家、めちゃくちゃ楽しみだよ!」彼女の目はキラキラと輝いている。葉羽はその無邪気さに少し癒され、彼女に何とかしてこの冒険を楽しませる決意を固めた。

「じゃあ、行こうか。」葉羽は彼女と共に家を出た。二人は自転車に乗り、廃墟の名家へと向かう。道すがら、彩由美はずっと話しかけてきた。彼女の話題は、最近読んだ恋愛漫画の話や、学校での出来事など、多岐にわたる。

「葉羽は、推理小説以外に何か読んでる?」彩由美が尋ねる。

「最近はあまり読んでないな。でも、君の話を聞くのは面白いよ。」葉羽は彼女の笑顔を見ると、自分の心も少しずつ明るくなっていくのを感じた。

「そう?じゃあ、今度一緒に漫画を読もうよ!私のおすすめ、すごく面白いから!」彼女は興奮気味に話し続ける。

そのとき、葉羽は何気なく彼女の横顔を見つめる。彼女の笑顔は、どこか自分を安心させる力を持っていた。彼は心の中で、もしこの冒険がうまくいけば、彼女との距離が少し縮まるかもしれないと期待を抱く。

やがて二人は廃墟の名家がある場所に到着した。周囲は薄暗く、古びた木々が茂り、まるでこの場所が過去の悲劇を隠しているかのような雰囲気を醸し出していた。葉羽は心の中で、メッセージの内容を思い出す。「廃墟となった名家」という言葉が、彼の胸に重くのしかかる。

「ここがその名家だよ。」葉羽は少し緊張した声で言った。

「うわぁ、すごく雰囲気ある!」彩由美は目を輝かせて、建物を見上げた。彼女の反応に少し驚きつつも、葉羽は彼女の明るさがこの場の緊張感を和らげていることに気づく。

二人は名家の入口に立ち、しばしその場に佇んだ。古びた扉は、長い間誰も訪れていないことを示すように、埃に覆われている。葉羽は一瞬躊躇ったが、彩由美の存在が彼を鼓舞する。彼女がいるからこそ、恐怖を乗り越えられると信じた。

「行こう、葉羽。私たちがこの謎を解くんだから!」彩由美の言葉に背中を押され、葉羽は扉を開けた。ギシギシと音を立てながら、扉が開くと、暗闇の中に足を踏み入れる。

中は薄暗く、かすかな光が窓から差し込んでいる。古い家具や壊れた壁、そしてかつての栄華を物語る残骸が散乱している。葉羽は冷たい空気を感じながら、心の中で「これはただの廃屋ではない」と直感した。

「すごい…」彩由美が小声で呟く。

「うん、何か不気味だな。」葉羽は周囲を見渡しながら、彼女の手を優しく引く。「でも、何か手がかりがあるはずだ。気をつけて行こう。」

二人は廃墟の中を進んでいく。葉羽は、推理小説のように周囲の状況を観察しながら、何か怪しいものを探し続けた。彩由美も彼のそばで、時折不安そうな表情を浮かべるが、決して後ろを振り返ることはなかった。

その時、葉羽の目に留まったのは、壁にかけられた古びた絵画だった。絵の中には、かつてこの家に住んでいたと思われる家族の姿が描かれている。彼はその絵の表情に何か引っかかるものを感じた。

「彩由美、これ見てみて。」葉羽は絵画を指差した。

「うん…」彩由美が近づくと、彼女の表情が変わった。「なんか、見たことある気がする。」

「本当に?」葉羽は驚いた。「どこで見たんだ?」

「ううん、思い出せないけど…なんだか懐かしい。」彩由美の目は、絵画に吸い込まれるように見つめ続けていた。葉羽は彼女の反応に不安を覚えたが、同時に何か大きな謎が待ち受けている予感がした。

その瞬間、薄暗い廊下の奥から、かすかな音が聞こえた。二人は思わず振り向き、音の正体を探ろうとした。葉羽の心臓が高鳴り、彩由美の手を強く握りしめる。

「何かいるのかも…」彩由美は小声で囁いた。

「大丈夫、俺がいるから。」葉羽は必死に自分を鼓舞し、彼女に安心感を与えようとした。彼は心の中で、どんな恐怖が待ち受けているのかを考え始めた。

この廃墟の中には、過去の悲劇が隠されている。彼らが手を踏み入れた瞬間、運命の歯車が動き出したのかもしれない。葉羽は、これから待ち受ける数々の試練に対して、心の奥底から挑戦する覚悟を決めた。

「行こう、彩由美。どんな謎が待っていても、俺たちで解き明かそう。」葉羽は再び前を向き、廃墟の奥へと足を進めるのだった。 

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