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騒動
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一
大霧の季節が終わろうとしていた。霧を吹き飛ばす大風が吹くと、春が訪れる。それが、小津地方の春が訪れる為の儀式のようなものであった。
風車が心地良い風に誘われて、カタカタと音を鳴らして回っている。あんずは、この所、この風車が回るのをじっと見ている時が多くなっていた。勘一郎が縁日で買ってくれた物であった。
余一郎はというと、この所、朝早く起きては、朝餉の前に木刀で素振りの稽古を始めていた。彼が稽古をする姿をあんずは見た事がなかった。この早春の珍事は、何の前触れだろうかと、本気で心配したのだが、ふと気づいたのだ。
素振りの稽古は、勘一郎の日課であった。これが、友を偲ぶ彼なりの気持ちの現れなのかは分からない。だが、只一つ言える事は、あの事件の日以来、勘一郎の名も、葦の者の事も、事件の事など、余一郎が何一つ口に出さなくなった事だけである。
あんずは、仰向けに寝転がりながら、縁側の樹に括りつけた風車がクルクルと回るのを飽きもせずに見続けている。
「あら、とっても素敵な風車ね」
不意に声がして、仰向けの恰好を反転させて、今度はうつむせになると、訪ねて来た東姫と目がしっかり合った。途端にあんずは、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
「姫様、お人が悪うございます」
姫の事だから、そっと中へ入って、あんずの行儀の悪い様を暫く眺めていたに違いない。きっと、足をバタバタとさせていた所もしっかり見られていたんだ。
「一郎殿は、またこれを?」
あんずの恥ずかしさなど気にする事もなく、姫は両手だけで、素振りをしてみせる。
「東姫様は、大丈夫なのですか?」
あんずからの問いに、姫は無言で頷いた。あの事件の後、東姫は富之助と共に、城へ戻っていた。戻ったと行っても、お忍びで小津へと戻った御正室様が、城内を堂々と闊歩していては色々と不味い為、元の屋敷に、秘密裡に匿われている。
「私は殿様が江戸へ行かれる際に、お付きの侍女として、共に参りまする」
それまでは、もう吾郎佐も居ない、あの大きな屋敷で、口の堅い護衛と、侍女たちに守られながら暮らすしかないのです。
「ようするに、暇を持て余して、また抜け出して来たのだろう?」
稽古を終えて、縁側で汗を拭っていた余一郎が、東姫の顔を見て、いつものように悪態をつく。姫はそれに舌を出して応える。
亡くなった田嶋吾郎佐衛門と、井上勘一郎には、身寄りがなかった。葬儀も余一郎ら数名で行っただけである。本来であるならば、両名の功績を考えて、藩を挙げてでも良いぐらいだと、富之助はこぼしていたが、葦の者とは、陰の存在である。死して盛大に見送られるなどとは、彼らの矜持を或いは傷つけるだけではないだろうか。余一郎はそう考えていた。
「ねえ、全て終わったのよね?」
不安な表情で、姫は口にする。そう、全ては終わった筈なのだ。十三年前の事件に関わっていた全ての者達は等しく死を迎えたのだから。
「本当にもうよいのか?」
今度は、余一郎は傍らのあんずに問うた。
「だって、私は復讐をして欲しかった訳じゃないから」
余一郎とあんずが言っているのが、香戸晋太郎の事だと、東姫は理解した。
あんずの養父であり、祖父である一蔵を殺したのは、晋太郎に間違いなかった。それは、彼自身が認めている。最初、あんずも晋太郎を許せない気持ちでいっぱいであった。しかし、それよりも、何故、一蔵は殺されねばならなかったのか?その謎を知る事が目的となっていた。そして、真実を知った今、あんずは思う事があった。
「墓にね、椿の花が供えてあったの」
それは、高昌寺に正貫和尚を見舞った時の事だ。帰りに一蔵の墓参りをした時、誰かが供えた白い椿の花が一輪と、まだ火が残った線香があったのだ。あんずは、それを晋太郎がした物だと、直感していた。誰に言われたのでもないし、彼が供えた所を見た訳でもない。しかし、これだけで、あんずには、分かったのだった。
「だから許すと言う訳でもないのだけれど」
きっと、彼にも耐えがたい数々の何かがあって、そして、ずっと悔いて生きているんだろうと思うと、真っ直ぐに責め続ける事は、出来なかった。
「そう、よかったわね」
東姫は殊更、元気な声を出した。何がよかったのか、言っている自分でも分からないが、とにかく、これでよかったのだ。
「いつまでも閉じこもってないで、今日はよい天気ですよ」
姫に誘われるまま、引きこもりの二人は嫌々外へ出る。暖かい陽射しに誘われるように、散歩がてら、城下街を進むと、何やら辺りがうるさい。
「どうも様子がおかしいのう?」
機嫌よく、余一郎の歩が早くなる。喧嘩を三度の飯より、好物とする男の勘が働いている。見れば人だかりが出来ている。辺りが喧騒を始めていた。よしよしと、舌なめずりしながら、その喧騒の中へと飛び込んで行く。呆れた様子の東姫とあんずは、顔を見合わせ眉をひそめるも、当の本人は、おかまいなしだ。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
人混みを掻き分けて、輪の中心へ入っていく。こういう時の余一郎は、実に良い顔をしている。悪戯小僧の顔だとあんずに言われて、子供の頃から変わっていないと東姫に言われる表情がそれだ。
輪の中心では、二人の男が何やら揉めている。卑怯者!盗人!など罵詈雑言が飛び交っている。ただの揉め事ではない異様な様子だ。見れば、一人の浪人風の侍が抜刀して、今にも、もう一人の男に斬りかからんとしている。
「権兵衛か?」
今にも、斬りかかれそうなその商人は、坂本屋の権兵衛であった。権兵衛は、暴行を受けたのか、顔に血と痣があった。
「おい、どんな事情かは知らねえが、白昼の往来で刃傷沙汰とは、穏やかじゃねえな」
事と次第では、この喧嘩仲裁屋の伊賀崎様が聞かねえ事じゃねえぞ。余一郎は、男の腕を掴む。今にも斬りかかろうと、上段に構えた男は、それで動けなくなった。
「貴様離せ、こいつは俺の金を盗った悪党だ」
斬らねばならぬ。こいつが、大金をせしめている。俺だけじゃない。皆の為に斬るのだ。男は腕を掴まれながらも、懸命にもがいている。
「大丈夫?」
倒れて額から血を流している権兵衛をあんずが抱えて、自らの着物の裾で、その血を拭ってやる。
「どのような訳があるのでしょう?」
東姫が男に諭すように聞く。侍が往来で人を斬るのには、理由がいる。正当な理由が無ければ、斬った方が処罰される。
「このお侍様は、客です」
男の代わりに、権兵衛が話しだした。苦しそうに、肩で息をしながら、それでも懸命に声を出す。この方に紹介した仕事で不手際があって、余り賃金が払われなかったのです。
「それで、手前の仲介料を無しにしろと」
それは、余りに一方的な言いがかりであった。
「この親父はな、それを断ったどころか、もう仕事は回さんと言ったのだ」
権兵衛の言葉に激昂した男が、強行に及ぼうとしたのが、この諍いの全容であった。
「お主、商人が仲介料で商いをするのを知らんのか?」
余一郎は、いささか呆れたような口振りをする。いいか、商いという物はだな…と講釈を垂れだしたのだが、それに耳を傾けてくれる者は居そうになかった。
「そんな事はどうでもよい。このような商人が居るから、俺たちのような者が貧するのだ」
余一郎は、男の一方的な話しに、更に何か言ってやりたくなったが、周りを囲む野次馬達から、そうだ!商人たちを潰せ!俺たちの金を返せ!などと、過激な言葉が飛び交い始めた。
これには、余一郎も東姫も、あんずも色を失い、権兵衛を庇うのがやっとであった。
「おい、どうしたのだ」
どいつもこいつも、この藩の民はどうなってやがる。坂本屋の権兵衛は、確かに悪人顔をしておるが、俺が言うのは癪だがな、全うな商売をしてやがる。
「ここに居る奴の中に、必ず権兵衛の世話になった事がある奴が一人は居る筈だ」
それを黙って斬られるのを見てやがるとは、一体どんな了見だ。いつから、そんなに薄情者の集まりになっちまいやがった?
余一郎は、憤慨していた。心の底から怒りがこみ上げてきていた。権兵衛は、自分が稼いだ金を貧しい者たちや、親を亡くした子供たちに与え、時には、ツケを踏み倒されても、ある時に返せと笑って過ごし、妻からなじられても、また貸してしまう男であった。
そんな男が、何で斬られねばならぬ?
「権兵衛との喧嘩を求める奴が居るのなら、俺が仲裁してやろうか?」
周りを囲み、野次を飛ばしていた連中は、余一郎のドスが利いた口上に、静まり返った。
「おかげで助かりました」
一命を救われた権兵衛を坂本屋へ送り届けると、傷の手当をしてやる。東姫とあんずの二人がかりの介抱に、権兵衛は鼻の下を伸ばして、それを妻に咎められている。
「大事なくて何よりでした」
幸いにも、権兵衛の傷は浅くて済んだ。包帯を巻いてくれる男装をした美しい侍が、まさか殿様の御正室様だと知ったら、きっと傷口が開くに違いなかった。
「どうやら、私どもだけが狙われた訳ではないようで」
傷の手当てを終えた権兵衛は、二人に礼を言うと、いきさつを話し始めた。
「最近の話しですが、小津藩内で、打ちこわしや、庄屋、商家への狼藉が起っている様子」
権兵衛も噂を聞いて、用心していたのだが、今日とうとうこのような目に遭ってしまったのだという。
「一体、どうなってやがる?」
いつの間にか、世の中の風景が変わってしまったようだ。しかも、悪い方向に。
「大変だ!一大事だ」
外で何か騒いでいる連中がいる。店から出て、その一人を捕まてみると、
「内之子村で打ち壊しが起った」
しかも、数百人からの大人数で、村の庄屋や商家を次々と襲っているらしい。
「それは確かか?」
余一郎は問うが、そんなの分かる筈ねえと、男は去って行った。どうにも、このままでは藩内に、大規模な一揆が起るかもしれない。
「行かねばなるまい」
余一郎は、両の拳を握りしめる。藩と民との大喧嘩が始まる。これを喧嘩仲裁屋が黙って見ている訳が無かった。
「仲裁屋の血が騒ぐ」
余一郎は店から出てきたあんずと東姫へ宣言した。内之子村へ参る。余り侍が再び動き出した。
二
東姫は、小津城へ戻っていた。江戸を出る時から来ていた若侍の恰好を辞めて、綺麗な着物に、見事な打掛を纏い城内へと入って行く。その側には、御正室、東の方様付の侍女たちが脇を固める。その中に、あんずの姿も見える。
何事かと、すれ違う者や、遠目に見る者などが現れて、城内がざわめき始めたのを聞きつけた石田俊介がやってきた。
「東の方様、何故ここに?」
俊介の問いは全くもって正しい事であったが、この際は、的を外した問いであると言わなければならなかった。今は問答をしている時ではなかったのだ。
「殿は何処に?火急の用が御座います」
東姫は、全く堂々としていた。側に控えるあんずが、誇らしくなる程、もう立派な御正室様であった。
「殿は今、重臣の方々と御談合中にございます」
例え何人であろうとも、御通しするなとのお達しにて。俊介は、その場に膝を付いて礼を尽くすが、その眼には、主の命令を護ると書いてあるようであった。
「危急存亡の秋、小津藩の進退がかかっておる」
殿に会わせませ。通らぬ場合は、私にも覚悟がある。
東姫は、その場に座り込むと、懐から短刀を取り出し、自らの前に置く。すると、お付きの侍女も、あんずまでもが、全く同じことをするのだった。
「いざ!」
女主人の合図と共に、そこに居る女性たちは、短刀を鞘から抜き出し、白刃を露わにする。その一つ一つの光が、反射した輝きが合わさるように、不気味な光源をその場に出現させるのだった。
「暫く、暫く!」
これには、さしもの石田俊介でも、相手を説得する材料に欠けると思ったのか、一先ず主の耳に入れるしかないと立ち上がるのだった。
「お東、何としたことか?」
俊介に呼び出された夫と対面した東姫は、その表情に驚いていた。あの夜の日以来、会っていなかった夫婦であったが、久方ぶりに会った夫の顔は、酷くやつれて、艶が無く、虚ろな目をしていたのだ。
この方は、きっと全てを知って、一人悩み苦しんでいたに違いない。何も聞かず、言わずとも、妻である自分には、相手の目を見ただけで、悟ったのだった。
「内之子村へ参ります」
東姫はそう宣言した。内之子で一揆が起ろうとしている。いや、すでに起こったと言った方が良いだろう。このまま放置すれば、その火はやがて、小津藩全体へと燃え移る筈である。
「女子供が行って何とする?」
富之助は聞いた。一揆の事を隠そうとはしない。東姫は考えていた。夫の性格を思うに、きっと自分が行って、治めたい筈だと。しかし、それは出来ない。重臣達の総反対に合うに決まっている。新野藩の件でも、富之助は独断専行を行った。当主になってから、その器量を危ぶむ声が上がっている。これ以上の勝手は出来ない。
しかし、自分であれば、自分達女子供が説得に行くのなら、相手も油断するに違いない。東姫たちが、一揆を抑えている間に、富之助に方策を決めて動いて貰う。その時間稼ぎは出来るだろうと。
「女子供にも、出来る事がござりましょう」
妻の言葉に、富之助は思わず人前で、その手を握った。本当は抱きしめたい衝動に駆られながらも、それを懸命に抑えていた。妻は不甲斐ない夫に成り代わって、一揆勢に殺される覚悟で、説得に行くと言うのだ。
内之子村で一揆起こるとの報がもたらされてから、富之助は藩内へ指令を出すと共に、情報収集に務め、重臣達と協議を続けていた。富之助は、すぐに自分ないし、重臣の誰かが名代として現地へ赴き、一揆勢の陳情を聞いて、その対応に当る事を提案したのだが、富之助の案に、賛成する者は、誰も居なかったのだった。
「殿が参るなど、万が一の事がござれば…」
そう言って止める者が多数居たが、では代わりに名代を務める者はと言えば、誰も居ない有様であった。石田俊介は手を挙げたかったが、その会議にすら出席出来ない身分としては、どうする事も出来ない。
「一軍をもって、これに当るべし」
そう過激な事を言う者も居いたが、事が大きくなれば、それだけ、藩にとって多難となるは必死である。ここは、穏便に相手方を説得し、尚且つ、藩の威厳を損なわない、そんな大役が果たせる人物でなければならないかった。
「田嶋か和尚が居れば…」
吾郎佐衛門か正貫和尚が存命であれば、きっとこの難役を引き請けてくれたであろうが、故人を偲ぶしかない。
富之助は苦しんでいた。重臣を影から操り、自分の失態を広げようとする御姻戚の老々の方々が、自分の仕事を奪っていく。兄ならどうするだろうか?富之助は、自由奔放な余り侍を心から疎ましく、羨ましく感じていた。
そんな時に、妻が決死の覚悟を以って、自分を訪ねてきたのだ。これが、心に響かない筈は無かった。
「俊介、内之子村へ早馬を出せ」
藩主が参るとな。富之助は決意した。
「いや、それはしかし…宜しいのですか?」
御重臣の方々も、お歴々の方には何と?俊介は主の身を案じていた。これを機に、どのような手を使って、富之助を引きずり降ろそうと企むか、分かったものではない。
「女子供を戦地へ向かわす程、小津の武士は不甲斐なくはなし」
そう申しておけ。富之助は立ち上がる。その顔は、先程とは打った変わったかのように、清々しさに満ち溢れて見えた。迷いは晴れた。後は進むだけだ。夫の背中がそう言っていると、東姫は思っていた。
「殿、御武運を!」
戦場へ向かう夫へ、はなむけの言葉を送る。富之助は、妻の言葉に振り返ると大きく頷く。
「あんず、喧嘩仲裁屋へ伝言を頼む」
大仕事を頼みたいと。殿様からの言葉に、あんずは元気よく、「はい」と答えるのだった。
三
余一郎は、一人駆けていた。目指すは、内之子村である。大洲城下から、駆け通しで、すでに息は上がっていた。汗が拭きだし、疲労が顔に出る。しかし、余一郎は止まらない。もうウジウジと部屋に閉じこもり、ああでもない、こうでもない、ああすれば、こうすればと、無い物ねだりで刻を過ごす事は飽き飽きだ。自分の身体が悲鳴を上げようが、もう知るものか。ここで急がないで、何の為の仲裁屋なのか。
「ねぇ、余一郎様は、どうして喧嘩仲裁屋になったの?」
いつの日か、あんずが無邪気な笑顔で聞いてきた時の事を駆けながら、思い出していた。その時は、側に勘一郎もいた。
「コヤツはな喧嘩を煽って、それを止めたら銭になるのを知ってしまったのさ」
それで味を占めて、仲裁屋なんて、ヤクザな稼業をしてやがるのさ。
勘一郎はそう言って、大声で笑う。そんなんじゃねえ。仲裁屋には、歴とした理由があるんだ。余一郎は腕組みをしている。聞きたいか?どうしてもか?あんずが目を輝かせて急かすのを楽しんでいる。
「もう十年ほど前になるかな」
余一郎は、十年前の昔話を始めたのだった。
あれは、余一郎が寺での生活に嫌気が差し、街の道場へ通っていた頃の事だ。その道場で勘一郎と出会い、晋太郎も一時いた。その頃の余一郎は、随分荒れていた。
「些細な事で誰とでも衝突するし、酷いものだったぞ」
勘一郎は、話の途中でそう茶化す。余一郎はバツの悪い顔をする。その頃の余一郎は、生活の何もかもが嫌で仕方なく、ただ無心に木刀を或いは槍を振って、頭の中のもやもやを消す努力をしようと足掻いていたのかもしれない。
「その日は、道場に顔を出すのも億劫でな」
寺でじっとしているのも嫌で、仕方なく街を宛てもなく、彷徨っていた。その時に、ある一人の男と出会ったのだ。
その男は、見るからに粗末な恰好をした浪人であった。ただ体格は良くて、まるで熊のような大きさをしていた。男は長屋の一室から飛び出てきたのだ。そこの住人の年増の婆に、大根を投げつけられながら、何度も謝りながら、拝み倒しながら、走って逃げておった。
「何とも呆れた男だと思ったよ」
そういう余一郎の口元は、言葉とは裏腹に緩んでいた。思い出すのを懐かしんでいるようだった。
その男と余一郎が真に出会ったのは、それから暫くして後の事だった。余一郎がいつものように街を彷徨っていると、あるやくざ者とぶつかってしまった。たちまち、三人のやくざ者に囲まれる。
「おう坊主、今さら泣いて謝っても許しはせぬぞ」
腕の一本でも、銭と一緒に置いてって貰おうか。男達が凄む。しかし、余一郎も大人しく黙っている性質ではない。
「許さぬとは、どうするのだ?」
大胆不敵にも、余一郎は刃物を持った男達に、抜刀もせず、自分から近づいていく。これには、男達も面を喰らってしまう。一番近くにいた男が腹を殴られ、もう一人は蹴り倒される。
いつもなら、刃物をチラつかせて、ちょいと脅せば、相手は金を置いて逃げて行くのに、どうも今日の相手は勝手が違ったようであった。着物だけは派手な余一郎をどこぞの金持ち武士の子弟だと勘違いしたのだろう。それが、彼らの仇となった。
余一郎は、無手で次々に男達を蹴散らしていく。いつのもにか、この大立ち回りには、野次馬の声援もつき始めていた。どうやら、それがいけなかった。公衆の面前で面目を失ったヤクザは、もうこの仕事が出来ない。余一郎は、どうやら、相手を本気にさせてしまったみたいだ。
「おい、囲んで一気にやってしまえ」
ヤクザの親分らしき男が、子分たちに非情の命令を下す。男達は、余一郎を囲むように、ジリジリと寄ってくる。このまま一斉に襲われれば、いかな達人でも、一溜りも無いだろう。
その時であった。
「これは、我が弟がとんだ了見違いを」
ここは、わしの顔に免じて、どうかお許し頂きたい。
一人の侍が、ヤクザ者と余一郎の間に入って、地面に頭を擦りつけながら、とりなしている。どうか、どうか、これで一つ。男はそう言って、ヤクザの親分に金を渡したのだった。
「そこまで言うのなら、今日は勘弁してやろう」
良い兄を持ったな。命拾いしたぞ。ヤクザ者は、上機嫌でその場を去るのだった。
「おい、どういうつもりだ」
助けてくれと言ってはおらぬ。第一にお主も武士だろう。それが、戦わぬうちから、あのようなヤクザ者に土下座までして、一体お主は、
喧嘩を途中で止められた余一郎は、不満をぶつける。
「命を粗末にするな」
しかし、その侍は、余一郎からの言葉を右手の平を上げて遮り、そう言い残したままその場を去るのだった。
呆気に取られた余一郎であったが、どうも釈然としない。これは追いかけて、あの侍に文句の一つでも言ってやろうと、その侍を尾行する事にしたのだった。侍の男は、街を通り過ぎると、外れにある廃屋の中に入っていく。余一郎は、隙間の空きから、その中を覗く。すると、先程のヤクザ者たちがいて、男と何か話している様子だった。
「何だそういう事か」
余一郎は正直がっかりしていた。何の事はない。あの侍の男も、ヤクザ者も最初から仲間だったのだ。あの喧嘩は、街であれ以上騒ぎを大きくしない為に、男が一芝居打っただけだったのだ。
しかし、この余一郎の予想は外れていたのだ。
「何ださっきの恰好悪いお侍様か」
親分の言葉に、その場で嗤いが起る。さっきの金が惜しくなって、追いかけてきたのなら、あれは迷惑料変わりに貰っとくぜ。
ヤクザの親分は、そう言うと、先程、侍の男より貰った金の入った巾着を懐から出して、右の手の平で遊ばせ始めた。そして、まだ何か言ってやろうとしていたその時であった。ギャーッという悲鳴と共に、親分の右手が無くなっていたのだ。見れば、いつ抜刀したのか、男が右手に血が滴る刀を握って立っていたのだ。
「俺は喧嘩仲裁稼業の者だ」
先程の喧嘩を仲裁した代金を払え。男は静かだが、凄みのある口調でその場を制した。親分をやられた男達に、もう刃向う者は無く、次々に金を投げると、その場から逃げるように去って行くのだった。残された侍の男は、地面に転がる銭を嬉しそうに拾っていた。
「一体、お主は何者なのだ?」
一部始終を盗み見していた余一郎は、廃屋の中に入った。この男の余りにも型破りな行動に度胆を抜かれていたのだ。
「何だ?先程の坊主か」
何か用か?もう命は助けただろう。
「何故、それ程の腕を持ちながら、あの時やっつけてしまわない」
どうして、あのような真似までして、俺を助けた。
「いいか坊主」
戦いってのはな、相手の虚を突いた方が勝ちさ。あんな通りで、ヤクザ者の面子を潰してみろ。奴らは損得無しで、いつまでも狙ってきやがるぞ。
「それに俺は喧嘩仲裁稼業だ」
余計な喧嘩は止めても、自分からはせぬ。あのヤクザの親分には、方々から懲らしめるように、依頼があったのでな。わしは仕事をしただけだ。
男はそう言うと笑った。それは、実に爽やかな、先程人の腕を斬った男と同一人物とは思えぬ何とも良い笑顔であった。
「おい、そういやお主まだ払ってなかったな?」
男はそう言うと、自分の背中に背負っていた筒状の何かを取り出し始めた。そして、悠然とした動作で、その中の物を組み立て出す。それは双頭の槍であった。そして、その槍を男は、廃屋の大きく開いた隙間に向かって、投げたのだ。
悲鳴と共に、銃声が響く。見れば、先程逃げ出したヤクザ者の一人が、筒銃を構えて狙っていたのだ。それに見事、投げた槍が男の肩に突き刺さり、筒銃の弾は彼方へ飛んでいったのだった。
「先程の喧嘩仲裁料を払え」
ヤクザ者の肩に刺さった槍を無慈悲に引き抜いて、男は余一郎に言い放つのだった。
これが、俺と奴との出会いさ。
「その侍は、余り侍の師匠なの?」
師匠って程、何かを教えて貰ってやしないがな。
あんずの問いに、余一郎は鼻を擦って答える。照れ隠しをしている時の彼の癖だ。余一郎はそう言うが、その男が、余一郎の人生に多大な影響を与えた事は確かであった。
男と余一郎は、その後、度々行動を共にした。
「よいか、余一郎、喧嘩仲裁稼業ってのはな」
華のある仕事じゃねえ。言わば裏方の稼業さ。しかし、世の中には必要な事だとわしは思う。男はよく、そう余一郎に語っていた。
「他人の為に、命が賭けられる者」
それが真の勝負師ってものさ。余一郎、人の為に駆けろ。そうすりゃ、一人ぐらいお前みたいな余り者でも、見てくれている筈さ。
男の顔と声が、街道を駆ける余一郎の脳裏に木霊する。そうさ、俺は今、人の為、藩の為に駆けているのさ。一揆といや、藩と民との大喧嘩だ。これを止めるのが、俺の役目ってなもんだぜ。余一郎は、ひた走りに駆ける。気が付けば、神南山が眼前に迫る。内之子村まで、もうすぐであった。
大霧の季節が終わろうとしていた。霧を吹き飛ばす大風が吹くと、春が訪れる。それが、小津地方の春が訪れる為の儀式のようなものであった。
風車が心地良い風に誘われて、カタカタと音を鳴らして回っている。あんずは、この所、この風車が回るのをじっと見ている時が多くなっていた。勘一郎が縁日で買ってくれた物であった。
余一郎はというと、この所、朝早く起きては、朝餉の前に木刀で素振りの稽古を始めていた。彼が稽古をする姿をあんずは見た事がなかった。この早春の珍事は、何の前触れだろうかと、本気で心配したのだが、ふと気づいたのだ。
素振りの稽古は、勘一郎の日課であった。これが、友を偲ぶ彼なりの気持ちの現れなのかは分からない。だが、只一つ言える事は、あの事件の日以来、勘一郎の名も、葦の者の事も、事件の事など、余一郎が何一つ口に出さなくなった事だけである。
あんずは、仰向けに寝転がりながら、縁側の樹に括りつけた風車がクルクルと回るのを飽きもせずに見続けている。
「あら、とっても素敵な風車ね」
不意に声がして、仰向けの恰好を反転させて、今度はうつむせになると、訪ねて来た東姫と目がしっかり合った。途端にあんずは、恥ずかしさで顔が真っ赤になる。
「姫様、お人が悪うございます」
姫の事だから、そっと中へ入って、あんずの行儀の悪い様を暫く眺めていたに違いない。きっと、足をバタバタとさせていた所もしっかり見られていたんだ。
「一郎殿は、またこれを?」
あんずの恥ずかしさなど気にする事もなく、姫は両手だけで、素振りをしてみせる。
「東姫様は、大丈夫なのですか?」
あんずからの問いに、姫は無言で頷いた。あの事件の後、東姫は富之助と共に、城へ戻っていた。戻ったと行っても、お忍びで小津へと戻った御正室様が、城内を堂々と闊歩していては色々と不味い為、元の屋敷に、秘密裡に匿われている。
「私は殿様が江戸へ行かれる際に、お付きの侍女として、共に参りまする」
それまでは、もう吾郎佐も居ない、あの大きな屋敷で、口の堅い護衛と、侍女たちに守られながら暮らすしかないのです。
「ようするに、暇を持て余して、また抜け出して来たのだろう?」
稽古を終えて、縁側で汗を拭っていた余一郎が、東姫の顔を見て、いつものように悪態をつく。姫はそれに舌を出して応える。
亡くなった田嶋吾郎佐衛門と、井上勘一郎には、身寄りがなかった。葬儀も余一郎ら数名で行っただけである。本来であるならば、両名の功績を考えて、藩を挙げてでも良いぐらいだと、富之助はこぼしていたが、葦の者とは、陰の存在である。死して盛大に見送られるなどとは、彼らの矜持を或いは傷つけるだけではないだろうか。余一郎はそう考えていた。
「ねえ、全て終わったのよね?」
不安な表情で、姫は口にする。そう、全ては終わった筈なのだ。十三年前の事件に関わっていた全ての者達は等しく死を迎えたのだから。
「本当にもうよいのか?」
今度は、余一郎は傍らのあんずに問うた。
「だって、私は復讐をして欲しかった訳じゃないから」
余一郎とあんずが言っているのが、香戸晋太郎の事だと、東姫は理解した。
あんずの養父であり、祖父である一蔵を殺したのは、晋太郎に間違いなかった。それは、彼自身が認めている。最初、あんずも晋太郎を許せない気持ちでいっぱいであった。しかし、それよりも、何故、一蔵は殺されねばならなかったのか?その謎を知る事が目的となっていた。そして、真実を知った今、あんずは思う事があった。
「墓にね、椿の花が供えてあったの」
それは、高昌寺に正貫和尚を見舞った時の事だ。帰りに一蔵の墓参りをした時、誰かが供えた白い椿の花が一輪と、まだ火が残った線香があったのだ。あんずは、それを晋太郎がした物だと、直感していた。誰に言われたのでもないし、彼が供えた所を見た訳でもない。しかし、これだけで、あんずには、分かったのだった。
「だから許すと言う訳でもないのだけれど」
きっと、彼にも耐えがたい数々の何かがあって、そして、ずっと悔いて生きているんだろうと思うと、真っ直ぐに責め続ける事は、出来なかった。
「そう、よかったわね」
東姫は殊更、元気な声を出した。何がよかったのか、言っている自分でも分からないが、とにかく、これでよかったのだ。
「いつまでも閉じこもってないで、今日はよい天気ですよ」
姫に誘われるまま、引きこもりの二人は嫌々外へ出る。暖かい陽射しに誘われるように、散歩がてら、城下街を進むと、何やら辺りがうるさい。
「どうも様子がおかしいのう?」
機嫌よく、余一郎の歩が早くなる。喧嘩を三度の飯より、好物とする男の勘が働いている。見れば人だかりが出来ている。辺りが喧騒を始めていた。よしよしと、舌なめずりしながら、その喧騒の中へと飛び込んで行く。呆れた様子の東姫とあんずは、顔を見合わせ眉をひそめるも、当の本人は、おかまいなしだ。
「おいおい、何の騒ぎだ?」
人混みを掻き分けて、輪の中心へ入っていく。こういう時の余一郎は、実に良い顔をしている。悪戯小僧の顔だとあんずに言われて、子供の頃から変わっていないと東姫に言われる表情がそれだ。
輪の中心では、二人の男が何やら揉めている。卑怯者!盗人!など罵詈雑言が飛び交っている。ただの揉め事ではない異様な様子だ。見れば、一人の浪人風の侍が抜刀して、今にも、もう一人の男に斬りかからんとしている。
「権兵衛か?」
今にも、斬りかかれそうなその商人は、坂本屋の権兵衛であった。権兵衛は、暴行を受けたのか、顔に血と痣があった。
「おい、どんな事情かは知らねえが、白昼の往来で刃傷沙汰とは、穏やかじゃねえな」
事と次第では、この喧嘩仲裁屋の伊賀崎様が聞かねえ事じゃねえぞ。余一郎は、男の腕を掴む。今にも斬りかかろうと、上段に構えた男は、それで動けなくなった。
「貴様離せ、こいつは俺の金を盗った悪党だ」
斬らねばならぬ。こいつが、大金をせしめている。俺だけじゃない。皆の為に斬るのだ。男は腕を掴まれながらも、懸命にもがいている。
「大丈夫?」
倒れて額から血を流している権兵衛をあんずが抱えて、自らの着物の裾で、その血を拭ってやる。
「どのような訳があるのでしょう?」
東姫が男に諭すように聞く。侍が往来で人を斬るのには、理由がいる。正当な理由が無ければ、斬った方が処罰される。
「このお侍様は、客です」
男の代わりに、権兵衛が話しだした。苦しそうに、肩で息をしながら、それでも懸命に声を出す。この方に紹介した仕事で不手際があって、余り賃金が払われなかったのです。
「それで、手前の仲介料を無しにしろと」
それは、余りに一方的な言いがかりであった。
「この親父はな、それを断ったどころか、もう仕事は回さんと言ったのだ」
権兵衛の言葉に激昂した男が、強行に及ぼうとしたのが、この諍いの全容であった。
「お主、商人が仲介料で商いをするのを知らんのか?」
余一郎は、いささか呆れたような口振りをする。いいか、商いという物はだな…と講釈を垂れだしたのだが、それに耳を傾けてくれる者は居そうになかった。
「そんな事はどうでもよい。このような商人が居るから、俺たちのような者が貧するのだ」
余一郎は、男の一方的な話しに、更に何か言ってやりたくなったが、周りを囲む野次馬達から、そうだ!商人たちを潰せ!俺たちの金を返せ!などと、過激な言葉が飛び交い始めた。
これには、余一郎も東姫も、あんずも色を失い、権兵衛を庇うのがやっとであった。
「おい、どうしたのだ」
どいつもこいつも、この藩の民はどうなってやがる。坂本屋の権兵衛は、確かに悪人顔をしておるが、俺が言うのは癪だがな、全うな商売をしてやがる。
「ここに居る奴の中に、必ず権兵衛の世話になった事がある奴が一人は居る筈だ」
それを黙って斬られるのを見てやがるとは、一体どんな了見だ。いつから、そんなに薄情者の集まりになっちまいやがった?
余一郎は、憤慨していた。心の底から怒りがこみ上げてきていた。権兵衛は、自分が稼いだ金を貧しい者たちや、親を亡くした子供たちに与え、時には、ツケを踏み倒されても、ある時に返せと笑って過ごし、妻からなじられても、また貸してしまう男であった。
そんな男が、何で斬られねばならぬ?
「権兵衛との喧嘩を求める奴が居るのなら、俺が仲裁してやろうか?」
周りを囲み、野次を飛ばしていた連中は、余一郎のドスが利いた口上に、静まり返った。
「おかげで助かりました」
一命を救われた権兵衛を坂本屋へ送り届けると、傷の手当をしてやる。東姫とあんずの二人がかりの介抱に、権兵衛は鼻の下を伸ばして、それを妻に咎められている。
「大事なくて何よりでした」
幸いにも、権兵衛の傷は浅くて済んだ。包帯を巻いてくれる男装をした美しい侍が、まさか殿様の御正室様だと知ったら、きっと傷口が開くに違いなかった。
「どうやら、私どもだけが狙われた訳ではないようで」
傷の手当てを終えた権兵衛は、二人に礼を言うと、いきさつを話し始めた。
「最近の話しですが、小津藩内で、打ちこわしや、庄屋、商家への狼藉が起っている様子」
権兵衛も噂を聞いて、用心していたのだが、今日とうとうこのような目に遭ってしまったのだという。
「一体、どうなってやがる?」
いつの間にか、世の中の風景が変わってしまったようだ。しかも、悪い方向に。
「大変だ!一大事だ」
外で何か騒いでいる連中がいる。店から出て、その一人を捕まてみると、
「内之子村で打ち壊しが起った」
しかも、数百人からの大人数で、村の庄屋や商家を次々と襲っているらしい。
「それは確かか?」
余一郎は問うが、そんなの分かる筈ねえと、男は去って行った。どうにも、このままでは藩内に、大規模な一揆が起るかもしれない。
「行かねばなるまい」
余一郎は、両の拳を握りしめる。藩と民との大喧嘩が始まる。これを喧嘩仲裁屋が黙って見ている訳が無かった。
「仲裁屋の血が騒ぐ」
余一郎は店から出てきたあんずと東姫へ宣言した。内之子村へ参る。余り侍が再び動き出した。
二
東姫は、小津城へ戻っていた。江戸を出る時から来ていた若侍の恰好を辞めて、綺麗な着物に、見事な打掛を纏い城内へと入って行く。その側には、御正室、東の方様付の侍女たちが脇を固める。その中に、あんずの姿も見える。
何事かと、すれ違う者や、遠目に見る者などが現れて、城内がざわめき始めたのを聞きつけた石田俊介がやってきた。
「東の方様、何故ここに?」
俊介の問いは全くもって正しい事であったが、この際は、的を外した問いであると言わなければならなかった。今は問答をしている時ではなかったのだ。
「殿は何処に?火急の用が御座います」
東姫は、全く堂々としていた。側に控えるあんずが、誇らしくなる程、もう立派な御正室様であった。
「殿は今、重臣の方々と御談合中にございます」
例え何人であろうとも、御通しするなとのお達しにて。俊介は、その場に膝を付いて礼を尽くすが、その眼には、主の命令を護ると書いてあるようであった。
「危急存亡の秋、小津藩の進退がかかっておる」
殿に会わせませ。通らぬ場合は、私にも覚悟がある。
東姫は、その場に座り込むと、懐から短刀を取り出し、自らの前に置く。すると、お付きの侍女も、あんずまでもが、全く同じことをするのだった。
「いざ!」
女主人の合図と共に、そこに居る女性たちは、短刀を鞘から抜き出し、白刃を露わにする。その一つ一つの光が、反射した輝きが合わさるように、不気味な光源をその場に出現させるのだった。
「暫く、暫く!」
これには、さしもの石田俊介でも、相手を説得する材料に欠けると思ったのか、一先ず主の耳に入れるしかないと立ち上がるのだった。
「お東、何としたことか?」
俊介に呼び出された夫と対面した東姫は、その表情に驚いていた。あの夜の日以来、会っていなかった夫婦であったが、久方ぶりに会った夫の顔は、酷くやつれて、艶が無く、虚ろな目をしていたのだ。
この方は、きっと全てを知って、一人悩み苦しんでいたに違いない。何も聞かず、言わずとも、妻である自分には、相手の目を見ただけで、悟ったのだった。
「内之子村へ参ります」
東姫はそう宣言した。内之子で一揆が起ろうとしている。いや、すでに起こったと言った方が良いだろう。このまま放置すれば、その火はやがて、小津藩全体へと燃え移る筈である。
「女子供が行って何とする?」
富之助は聞いた。一揆の事を隠そうとはしない。東姫は考えていた。夫の性格を思うに、きっと自分が行って、治めたい筈だと。しかし、それは出来ない。重臣達の総反対に合うに決まっている。新野藩の件でも、富之助は独断専行を行った。当主になってから、その器量を危ぶむ声が上がっている。これ以上の勝手は出来ない。
しかし、自分であれば、自分達女子供が説得に行くのなら、相手も油断するに違いない。東姫たちが、一揆を抑えている間に、富之助に方策を決めて動いて貰う。その時間稼ぎは出来るだろうと。
「女子供にも、出来る事がござりましょう」
妻の言葉に、富之助は思わず人前で、その手を握った。本当は抱きしめたい衝動に駆られながらも、それを懸命に抑えていた。妻は不甲斐ない夫に成り代わって、一揆勢に殺される覚悟で、説得に行くと言うのだ。
内之子村で一揆起こるとの報がもたらされてから、富之助は藩内へ指令を出すと共に、情報収集に務め、重臣達と協議を続けていた。富之助は、すぐに自分ないし、重臣の誰かが名代として現地へ赴き、一揆勢の陳情を聞いて、その対応に当る事を提案したのだが、富之助の案に、賛成する者は、誰も居なかったのだった。
「殿が参るなど、万が一の事がござれば…」
そう言って止める者が多数居たが、では代わりに名代を務める者はと言えば、誰も居ない有様であった。石田俊介は手を挙げたかったが、その会議にすら出席出来ない身分としては、どうする事も出来ない。
「一軍をもって、これに当るべし」
そう過激な事を言う者も居いたが、事が大きくなれば、それだけ、藩にとって多難となるは必死である。ここは、穏便に相手方を説得し、尚且つ、藩の威厳を損なわない、そんな大役が果たせる人物でなければならないかった。
「田嶋か和尚が居れば…」
吾郎佐衛門か正貫和尚が存命であれば、きっとこの難役を引き請けてくれたであろうが、故人を偲ぶしかない。
富之助は苦しんでいた。重臣を影から操り、自分の失態を広げようとする御姻戚の老々の方々が、自分の仕事を奪っていく。兄ならどうするだろうか?富之助は、自由奔放な余り侍を心から疎ましく、羨ましく感じていた。
そんな時に、妻が決死の覚悟を以って、自分を訪ねてきたのだ。これが、心に響かない筈は無かった。
「俊介、内之子村へ早馬を出せ」
藩主が参るとな。富之助は決意した。
「いや、それはしかし…宜しいのですか?」
御重臣の方々も、お歴々の方には何と?俊介は主の身を案じていた。これを機に、どのような手を使って、富之助を引きずり降ろそうと企むか、分かったものではない。
「女子供を戦地へ向かわす程、小津の武士は不甲斐なくはなし」
そう申しておけ。富之助は立ち上がる。その顔は、先程とは打った変わったかのように、清々しさに満ち溢れて見えた。迷いは晴れた。後は進むだけだ。夫の背中がそう言っていると、東姫は思っていた。
「殿、御武運を!」
戦場へ向かう夫へ、はなむけの言葉を送る。富之助は、妻の言葉に振り返ると大きく頷く。
「あんず、喧嘩仲裁屋へ伝言を頼む」
大仕事を頼みたいと。殿様からの言葉に、あんずは元気よく、「はい」と答えるのだった。
三
余一郎は、一人駆けていた。目指すは、内之子村である。大洲城下から、駆け通しで、すでに息は上がっていた。汗が拭きだし、疲労が顔に出る。しかし、余一郎は止まらない。もうウジウジと部屋に閉じこもり、ああでもない、こうでもない、ああすれば、こうすればと、無い物ねだりで刻を過ごす事は飽き飽きだ。自分の身体が悲鳴を上げようが、もう知るものか。ここで急がないで、何の為の仲裁屋なのか。
「ねぇ、余一郎様は、どうして喧嘩仲裁屋になったの?」
いつの日か、あんずが無邪気な笑顔で聞いてきた時の事を駆けながら、思い出していた。その時は、側に勘一郎もいた。
「コヤツはな喧嘩を煽って、それを止めたら銭になるのを知ってしまったのさ」
それで味を占めて、仲裁屋なんて、ヤクザな稼業をしてやがるのさ。
勘一郎はそう言って、大声で笑う。そんなんじゃねえ。仲裁屋には、歴とした理由があるんだ。余一郎は腕組みをしている。聞きたいか?どうしてもか?あんずが目を輝かせて急かすのを楽しんでいる。
「もう十年ほど前になるかな」
余一郎は、十年前の昔話を始めたのだった。
あれは、余一郎が寺での生活に嫌気が差し、街の道場へ通っていた頃の事だ。その道場で勘一郎と出会い、晋太郎も一時いた。その頃の余一郎は、随分荒れていた。
「些細な事で誰とでも衝突するし、酷いものだったぞ」
勘一郎は、話の途中でそう茶化す。余一郎はバツの悪い顔をする。その頃の余一郎は、生活の何もかもが嫌で仕方なく、ただ無心に木刀を或いは槍を振って、頭の中のもやもやを消す努力をしようと足掻いていたのかもしれない。
「その日は、道場に顔を出すのも億劫でな」
寺でじっとしているのも嫌で、仕方なく街を宛てもなく、彷徨っていた。その時に、ある一人の男と出会ったのだ。
その男は、見るからに粗末な恰好をした浪人であった。ただ体格は良くて、まるで熊のような大きさをしていた。男は長屋の一室から飛び出てきたのだ。そこの住人の年増の婆に、大根を投げつけられながら、何度も謝りながら、拝み倒しながら、走って逃げておった。
「何とも呆れた男だと思ったよ」
そういう余一郎の口元は、言葉とは裏腹に緩んでいた。思い出すのを懐かしんでいるようだった。
その男と余一郎が真に出会ったのは、それから暫くして後の事だった。余一郎がいつものように街を彷徨っていると、あるやくざ者とぶつかってしまった。たちまち、三人のやくざ者に囲まれる。
「おう坊主、今さら泣いて謝っても許しはせぬぞ」
腕の一本でも、銭と一緒に置いてって貰おうか。男達が凄む。しかし、余一郎も大人しく黙っている性質ではない。
「許さぬとは、どうするのだ?」
大胆不敵にも、余一郎は刃物を持った男達に、抜刀もせず、自分から近づいていく。これには、男達も面を喰らってしまう。一番近くにいた男が腹を殴られ、もう一人は蹴り倒される。
いつもなら、刃物をチラつかせて、ちょいと脅せば、相手は金を置いて逃げて行くのに、どうも今日の相手は勝手が違ったようであった。着物だけは派手な余一郎をどこぞの金持ち武士の子弟だと勘違いしたのだろう。それが、彼らの仇となった。
余一郎は、無手で次々に男達を蹴散らしていく。いつのもにか、この大立ち回りには、野次馬の声援もつき始めていた。どうやら、それがいけなかった。公衆の面前で面目を失ったヤクザは、もうこの仕事が出来ない。余一郎は、どうやら、相手を本気にさせてしまったみたいだ。
「おい、囲んで一気にやってしまえ」
ヤクザの親分らしき男が、子分たちに非情の命令を下す。男達は、余一郎を囲むように、ジリジリと寄ってくる。このまま一斉に襲われれば、いかな達人でも、一溜りも無いだろう。
その時であった。
「これは、我が弟がとんだ了見違いを」
ここは、わしの顔に免じて、どうかお許し頂きたい。
一人の侍が、ヤクザ者と余一郎の間に入って、地面に頭を擦りつけながら、とりなしている。どうか、どうか、これで一つ。男はそう言って、ヤクザの親分に金を渡したのだった。
「そこまで言うのなら、今日は勘弁してやろう」
良い兄を持ったな。命拾いしたぞ。ヤクザ者は、上機嫌でその場を去るのだった。
「おい、どういうつもりだ」
助けてくれと言ってはおらぬ。第一にお主も武士だろう。それが、戦わぬうちから、あのようなヤクザ者に土下座までして、一体お主は、
喧嘩を途中で止められた余一郎は、不満をぶつける。
「命を粗末にするな」
しかし、その侍は、余一郎からの言葉を右手の平を上げて遮り、そう言い残したままその場を去るのだった。
呆気に取られた余一郎であったが、どうも釈然としない。これは追いかけて、あの侍に文句の一つでも言ってやろうと、その侍を尾行する事にしたのだった。侍の男は、街を通り過ぎると、外れにある廃屋の中に入っていく。余一郎は、隙間の空きから、その中を覗く。すると、先程のヤクザ者たちがいて、男と何か話している様子だった。
「何だそういう事か」
余一郎は正直がっかりしていた。何の事はない。あの侍の男も、ヤクザ者も最初から仲間だったのだ。あの喧嘩は、街であれ以上騒ぎを大きくしない為に、男が一芝居打っただけだったのだ。
しかし、この余一郎の予想は外れていたのだ。
「何ださっきの恰好悪いお侍様か」
親分の言葉に、その場で嗤いが起る。さっきの金が惜しくなって、追いかけてきたのなら、あれは迷惑料変わりに貰っとくぜ。
ヤクザの親分は、そう言うと、先程、侍の男より貰った金の入った巾着を懐から出して、右の手の平で遊ばせ始めた。そして、まだ何か言ってやろうとしていたその時であった。ギャーッという悲鳴と共に、親分の右手が無くなっていたのだ。見れば、いつ抜刀したのか、男が右手に血が滴る刀を握って立っていたのだ。
「俺は喧嘩仲裁稼業の者だ」
先程の喧嘩を仲裁した代金を払え。男は静かだが、凄みのある口調でその場を制した。親分をやられた男達に、もう刃向う者は無く、次々に金を投げると、その場から逃げるように去って行くのだった。残された侍の男は、地面に転がる銭を嬉しそうに拾っていた。
「一体、お主は何者なのだ?」
一部始終を盗み見していた余一郎は、廃屋の中に入った。この男の余りにも型破りな行動に度胆を抜かれていたのだ。
「何だ?先程の坊主か」
何か用か?もう命は助けただろう。
「何故、それ程の腕を持ちながら、あの時やっつけてしまわない」
どうして、あのような真似までして、俺を助けた。
「いいか坊主」
戦いってのはな、相手の虚を突いた方が勝ちさ。あんな通りで、ヤクザ者の面子を潰してみろ。奴らは損得無しで、いつまでも狙ってきやがるぞ。
「それに俺は喧嘩仲裁稼業だ」
余計な喧嘩は止めても、自分からはせぬ。あのヤクザの親分には、方々から懲らしめるように、依頼があったのでな。わしは仕事をしただけだ。
男はそう言うと笑った。それは、実に爽やかな、先程人の腕を斬った男と同一人物とは思えぬ何とも良い笑顔であった。
「おい、そういやお主まだ払ってなかったな?」
男はそう言うと、自分の背中に背負っていた筒状の何かを取り出し始めた。そして、悠然とした動作で、その中の物を組み立て出す。それは双頭の槍であった。そして、その槍を男は、廃屋の大きく開いた隙間に向かって、投げたのだ。
悲鳴と共に、銃声が響く。見れば、先程逃げ出したヤクザ者の一人が、筒銃を構えて狙っていたのだ。それに見事、投げた槍が男の肩に突き刺さり、筒銃の弾は彼方へ飛んでいったのだった。
「先程の喧嘩仲裁料を払え」
ヤクザ者の肩に刺さった槍を無慈悲に引き抜いて、男は余一郎に言い放つのだった。
これが、俺と奴との出会いさ。
「その侍は、余り侍の師匠なの?」
師匠って程、何かを教えて貰ってやしないがな。
あんずの問いに、余一郎は鼻を擦って答える。照れ隠しをしている時の彼の癖だ。余一郎はそう言うが、その男が、余一郎の人生に多大な影響を与えた事は確かであった。
男と余一郎は、その後、度々行動を共にした。
「よいか、余一郎、喧嘩仲裁稼業ってのはな」
華のある仕事じゃねえ。言わば裏方の稼業さ。しかし、世の中には必要な事だとわしは思う。男はよく、そう余一郎に語っていた。
「他人の為に、命が賭けられる者」
それが真の勝負師ってものさ。余一郎、人の為に駆けろ。そうすりゃ、一人ぐらいお前みたいな余り者でも、見てくれている筈さ。
男の顔と声が、街道を駆ける余一郎の脳裏に木霊する。そうさ、俺は今、人の為、藩の為に駆けているのさ。一揆といや、藩と民との大喧嘩だ。これを止めるのが、俺の役目ってなもんだぜ。余一郎は、ひた走りに駆ける。気が付けば、神南山が眼前に迫る。内之子村まで、もうすぐであった。
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