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忍び寄る不穏な影
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「立花さん、今までありがとうございました。今日で私たち……終わりにしましょう」
立花さんが驚いたように目を見開き、息をのんだ。
その表情を見て、自分で言っておきながらズキズキと胸が痛む。
「私に恋する気持ちを思い出させてくれてありがとうございました。すごく、すごく楽しかったです」
言いながら目にうっすらと涙の膜が張る。
立花さんに愛してもらえて本当に幸せだった。
だからこそ、立花さんや会社のために私が身を引かないといけない。
「でも……会社の発展の、立花さんの将来の邪魔をすることは出来ません」
社長に投げかけられた言葉が呪いのように重くのしかかる。
精神的にも追い詰められた私は冷静な判断が出来なくなっていた。
「元々、私と次期社長の立花さんとは釣り合いがとれていなかったんです。立花さんとはもう……付き合うことが出来ません」
声を震わせながら必死に言葉を紡ぐ。
分不相応だということは分かっていたはずだ。
私なんかが立花さんに別れを告げるなんて烏滸がましいにも程がある。
本当はこれ以上、立花さんにこんな酷いことを言いたくない。
言いたくないけど、立花さんが未練を残さないように私が悪者になるしかないんだ。
「梨音ちゃん、何言ってるんだ。本気なのか?」
立花さんが私の両肩を掴む。
「……はい」
俯いて唇を噛みしめる。
立花さんの顔をまともに見ることができない。
今にも涙が出そうになり、顔を見たら気持ちが揺らいでしまう。
「そうか……」
立花さんは私の肩に置いていた手を下ろす。
そして何も反論することなく、彼は静かに部屋を出て行ってしまった。
ドアが閉まると、一気に身体の力が抜けてその場にズルズルとしゃがみ込んだ。
私たちの付き合いは終わってしまった……。
私が自らの手で終わらせたんだ。
「ごめんなさいっ、ごめん、なさい……」
ポロポロと涙を流しながら何度も謝る。
大好きな人を二度も傷つけてしまった。
胸が張り裂けそうなぐらい痛い。
私から別れを切り出すなんて心苦しく、やるせない気持ちになる。
楽しかった思い出が一気に蘇る。
一緒に過ごした時間が私にとって何よりも大切でかけがえのないものだった。
立花さんはいつも優しくて誰よりも私のことを大事にしてくれていた。
私を抱きしめて愛してくれた。
でも、二度と立花さんが私のことを抱きしめてくれることはない。
立花さんの私に向けてくれる優しい笑顔が好きだった。
だけど、私が今日で終わりにしようと言った時の立花さんの顔はすごく辛そうだった。
私の言動があんな表情をさせてしまった。
私の選択が間違っていたんだろうか。
でも、会社のためにも立花さんの将来のためにも別れるという選択肢以外、私にはなかったんだ。
私はしばらくの間、声を上げて泣き続けた。
立花さんが驚いたように目を見開き、息をのんだ。
その表情を見て、自分で言っておきながらズキズキと胸が痛む。
「私に恋する気持ちを思い出させてくれてありがとうございました。すごく、すごく楽しかったです」
言いながら目にうっすらと涙の膜が張る。
立花さんに愛してもらえて本当に幸せだった。
だからこそ、立花さんや会社のために私が身を引かないといけない。
「でも……会社の発展の、立花さんの将来の邪魔をすることは出来ません」
社長に投げかけられた言葉が呪いのように重くのしかかる。
精神的にも追い詰められた私は冷静な判断が出来なくなっていた。
「元々、私と次期社長の立花さんとは釣り合いがとれていなかったんです。立花さんとはもう……付き合うことが出来ません」
声を震わせながら必死に言葉を紡ぐ。
分不相応だということは分かっていたはずだ。
私なんかが立花さんに別れを告げるなんて烏滸がましいにも程がある。
本当はこれ以上、立花さんにこんな酷いことを言いたくない。
言いたくないけど、立花さんが未練を残さないように私が悪者になるしかないんだ。
「梨音ちゃん、何言ってるんだ。本気なのか?」
立花さんが私の両肩を掴む。
「……はい」
俯いて唇を噛みしめる。
立花さんの顔をまともに見ることができない。
今にも涙が出そうになり、顔を見たら気持ちが揺らいでしまう。
「そうか……」
立花さんは私の肩に置いていた手を下ろす。
そして何も反論することなく、彼は静かに部屋を出て行ってしまった。
ドアが閉まると、一気に身体の力が抜けてその場にズルズルとしゃがみ込んだ。
私たちの付き合いは終わってしまった……。
私が自らの手で終わらせたんだ。
「ごめんなさいっ、ごめん、なさい……」
ポロポロと涙を流しながら何度も謝る。
大好きな人を二度も傷つけてしまった。
胸が張り裂けそうなぐらい痛い。
私から別れを切り出すなんて心苦しく、やるせない気持ちになる。
楽しかった思い出が一気に蘇る。
一緒に過ごした時間が私にとって何よりも大切でかけがえのないものだった。
立花さんはいつも優しくて誰よりも私のことを大事にしてくれていた。
私を抱きしめて愛してくれた。
でも、二度と立花さんが私のことを抱きしめてくれることはない。
立花さんの私に向けてくれる優しい笑顔が好きだった。
だけど、私が今日で終わりにしようと言った時の立花さんの顔はすごく辛そうだった。
私の言動があんな表情をさせてしまった。
私の選択が間違っていたんだろうか。
でも、会社のためにも立花さんの将来のためにも別れるという選択肢以外、私にはなかったんだ。
私はしばらくの間、声を上げて泣き続けた。
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