上 下
106 / 107
次期社長と紡ぐ未来のために

しおりを挟む
「翔真、わしがそんなことするはずないだろ。さて、梨音ちゃんの件は無事に解決したし、着替えて作業でもするかな」

しげさんはスーツの上着に手をかけた。

「お父さん、いい加減作業服を着てウロウロするのは止めてもらえませんか?社内で会長に会っても挨拶もせず素通りしろなんて幹部社員に仰るから困惑しているという話を耳にしているんです」
「それは無理な相談だ。わしはこの格好が気に入っているからな。それに、社員の素の様子が見れるのも面白い。これからも今まで通り変わらないぞ」
「会長!」

社長の呼ぶ声にしげさんは素知らぬ顔をして会長室へ入って行った。

「全く、あの二人も相変わらずだな。梨音ちゃん、行こうか」

立花さんはため息をつき、私の手を引く。

「失礼しました」

私は頭を下げて秘書室を出た。

エレベーターホールにつき、ボタンを押そうとしたら立花さんに止められた。

「あのさ、梨音ちゃんの手料理が久々に食べたいんだけどいい?」
「はい、もちろんです」

不安げに聞いてくるので笑顔で即答した。
私の手料理を食べたいと思ってくれるのは嬉しい限りだ。

「よかった。高柳から社食で手作り弁当を食べていないだけで、彼女と別れただの喧嘩しているだの言われてたんだよ」

立花さんは不服そうな表情を浮かべ、ため息をついた。

「あ、そうだったんですね……」

先週、偶然聞こえてきた会話の内容だ。
きっと私が聞いていたなんて立花さんは思っていないんだろう。 

「最近はずっとコンビニ弁当や外食ばかりだったんだ。梨音ちゃんと付き合う前まではそれが当たり前だったんだけどね。だから、梨音ちゃんの手料理が食べれることがどれだけありがたかったのか身に染みたよ」
「それは大げさです」
「大げさじゃないよ。梨音ちゃんとの些細なメッセージのやり取りもなくなり、心にぽっかりと穴があいたみたいだった。俺にとって梨音ちゃんと過ごした日々が何よりも大切なものになっていたんだ」

真摯な瞳を向けられ、胸がギュッと締め付けられた。
立花さんも私と同じ気持ちだったことに驚きを隠せない。

「私もです。別れを切り出したあと、立花さんと一緒に過ごした時間がどれだけ大切でかけがえのないものだったのか気づきました。私から言い出したくせに……」

そう言って唇を噛む。
立花さんと別れてからは何もやる気が起きなくて、全てが色褪せていた。

「俺が不甲斐ないばかりに傷付けて、泣かせてごめん」 
「謝らないでください。私だって立花さんに酷いことを言いました」 
「それは親父が余計なことを言ったからだよ。梨音ちゃんが気に病むことはない」

(あれ?)
数分前にも同じようなやり取りをしたのに、また繰り返してる。
思わず吹き出してしまった。

「さっきお互い様って言ってましたよね」
「そうだったな」

私が笑顔で言えば、立花さんは愛おしげに目を細めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

同期の姫は、あなどれない

青砥アヲ
恋愛
社会人4年目を迎えたゆきのは、忙しいながらも充実した日々を送っていたが、遠距離恋愛中の彼氏とはすれ違いが続いていた。 ある日、電話での大喧嘩を機に一方的に連絡を拒否され、音信不通となってしまう。 落ち込むゆきのにアプローチしてきたのは『同期の姫』だった。 「…姫って、付き合ったら意彼女に尽くすタイプ?」 「さぁ、、試してみる?」 クールで他人に興味がないと思っていた同期からの、思いがけないアプローチ。動揺を隠せないゆきのは、今まで知らなかった一面に翻弄されていくことにーーー 【登場人物】 早瀬ゆきの(はやせゆきの)・・・R&Sソリューションズ開発部第三課 所属 25歳 姫元樹(ひめもといつき)・・・R&Sソリューションズ開発部第一課 所属 25歳 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆他にエブリスタ様にも掲載してます。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...