再会ロマンス～幼なじみの甘い溺愛～

自分に出来ることと、不穏な影

２

「美桜ちゃん、少し早いんだけどお昼行かない？前に話してたラーメン屋に行こうと思うんだけど」

松崎恵利さんが私の席まで来て声をかけてくれた。
歓送迎会の時、緑さんに"松ちゃん”と呼ばれていた女性だ。

「行きます！でも、このファックスを送らないといけなくて、後から追いかけるので先に行っててください」

一枚の紙を持って席を立つ。
さっき、すぐにファックスを送ってくれと総務部長に頼まれた。
送るだけでいいらしく、届いたかどうかの確認は部長がすると言っていた。
それを優先しないといけないから、恵利さんを待たせるわけにはいけないと思ったんだけど。

「えー、寂しいこと言わないでよ。別にラーメンは逃げないから待つよ」

「いいんですか？すみません。すぐに送ります」

「謝らないでよ。私が一緒に行きたいだけだし。あと、焦らないでいいよ！送り先を間違えたら困るしね」

茶目っ気たっぷりに笑う。

「ありがとうございます。ちゃんと確認して送ります」

番号を確認し、ファックスを送ると自分の席に戻り机の上を片付ける。
総務部長は離席していたので、部長のパソコンの隅に『ファックス送りました』と付箋を貼った。

「お待たせしました」

財布の入ったバッグを持ち、恵利さんのもとへ駆け寄った。

「全然！じゃあ、行こうか」

二人並んで事務所を出る。
エレベーターで一階まで降り、オフィスビルを出た瞬間、私たちは日傘をさした。

私がこのデザイン事務所で働きだして一ヶ月が過ぎた。
どうにか会社の雰囲気にも慣れ、同僚の人とも少しずつだけど仲を深めている。
その証拠に、みんな私のことを下の名前で呼んでくれるようになった。
恵利さんは私より三歳上のデザイナー。
面倒見がよく、緑さんの次に仲良くなった人だ。

少し遠いけど、事務所から歩いて十五分のところにある行列が出来るほどの人気のラーメン屋に向かう。
目的のラーメン屋『宮脇丸』は車で行けば早いけど、あいにく私も恵利さんも車通勤ではない。
運動がてら歩いて行こうという話になったんだ。
ようやく目当てのラーメン屋を視界に捉えた。

「あっ、まだ外に五人ぐらいしか並んでないわ」

「そうですね。今日は少ない方ですね」

ラーメン屋の扉の外に五人ぐらい並んで順番を待っている。
私と恵利さんもそのあとに続く。

『宮脇丸』は平日の昼でも、多くの人でに賑わっていていつも長蛇の列だから、五人は少ない方だ。
少し早めに出てきて正解だった。
この前、テレビで特集されていて美味しそうだなと思っていた。
恵利さんもたまたま見ていたらしく、昼休憩の時にその話になった。
それで一緒に食べに行こうという話になったんだ。

しばらく待っていたら、私たちの順番になり、ラーメン屋の暖簾ぐくぐった。