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拗らせ女の同期への秘めたる一途な想い

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ふっと意識が浮上し、まぶたをゆっくりと開けた。
あくびをして顔だけ横に向けると、端正な顔立ちの男性が眠っている。

榎本巧、同じ会社に勤務する同期だ。

今は閉じられている目は切れ長で、スッとした鼻筋に薄い唇。
長身で瘦せ型だと思っていた身体は程よく鍛えられて引き締まっていた。
これは彼が服を脱ぐまで知らなかったことだ。

それにしても、寝顔もかっこいいとか反則だ。
表の顔は無愛想だけど、ベッドの上では饒舌になり獰猛なオスに変わる。
昨夜も私を翻弄し、攻め続けた。

『すみれ、どうして欲しいか言えよ』
『ホラ、ここが気持ちいいんだろ』
『素直になれよ』

甘く掠れた声で囁く巧の言葉を思い出し、胸がギュッと締め付けられた。

素直になれたらどんなにいいだろう。
私は必死で自分の気持ちを押し殺す。
巧にだけは「好き」と言えない。
だって、私と巧はセフレだから……。

私と巧が身体の関係をもったのは今から半年前のこと。

同期会をした時、飲み過ぎた私を介抱してくれたのが巧だった。
ふとした時に見つめあい、どちらからともなくキスをして気がつけばそういう関係になっていた。
お互いお酒に酔った末の過ち。
セフレの始まりによくある話だ。

巧は気兼ねなく話せる、唯一の異性の同期。
同期会のとき、たまたま隣に座った巧に愚痴をこぼすと、特になにかを言うこともなく黙って相づちを打つ程度。
普段から無愛想だとは思っていたけど、打っても響かない巧にキレて「榎本くん反応が薄い!」とか「ちゃんと聞いてるの?」と文句を言っていた。
今考えたら何様だと言う話。

私のどうでもいい愚痴を聞かせた挙げ句、反応の薄さに文句を言うんだから呆れられても仕方ない。
だけど、巧は嫌な顔ひとつせずに私の話を聞いてくれていた。
話し終わると、巧は『天野は頑張ってるよ』と言って私の頭を撫でてくれた。
それだけで私の荒んだ心は満たされた。

味をしめた私は、嫌なことがあるたびに巧を呼び出して話を聞いてもらった。
気が付けば、お互いのことを『すみれ』、『巧』と下の名前で呼ぶようになっていた。

無愛想な中にある巧の優しさに触れ、私は自然と惹かれていた。

巧に一番近い存在は私だと勘違いしていた。
そろそろ告白しようかなんて思っていた矢先、私は巧の本心を聞いてしまった。
恒例の同期会の時、巧と渡辺春馬たち男子の話している声が聞こえた。

「巧、お前彼女いないんだろ。合コンするから来いよ」
「行かない」
「なんでだよ。お前が来れば女子も喜ぶのに」
「知らない女子を喜ばせる必要はない」
「春馬、巧は駄目だって。この外見だけで言い寄られてムカついたって言ってたから」
「あー、そう言えばそうだったな」
「恋愛はめんどくさい」

最後にボソリと巧がため息交じりに呟いた。
それは心の底からの気持ちが声に現れていた気がした。

恋愛がめんどくさい。
巧の女性関係は全く耳にしなかったのはそういうことだったのか。
それだったら、私が告白したところで断られるに決まっている。

同期として接するだけ、巧には恋愛感情を向けてはいけないんだ。
今ある巧との関係を壊すのは絶対に嫌だった。
だから、私は自分の気持ちを封印することにした。

それなのに思いがけず、一夜を共にして身体の関係をもってしまった。
巧はめんどくさいから本気の恋愛をするつもりがないんだろう。
だから、身体だけの関係の方が都合がいいのかもしれない。

本当はセフレなんて嫌だ。
だけど、好きな人に抱かれる喜びを知り、卑怯で最低な私は身体だけでも繋がりたいと思ってしまった。
そんな関係が半年も続いている。

巧を起こさないよう、静かにベッドから降りた。
時計を見ると、六時過ぎ。
シャワーは家に帰ってから浴びよう。
無造作に落ちていた下着を身に付けていく。
服を着て、まだベッドで寝ている巧を見る。

最近、親から結婚はまだかと催促され、見合いの話も持ち掛けられるようになっていた。
もうすぐ二十六歳、母親は早く結婚して孫の顔を見せて欲しいとよく言っている。
このまま、ズルズルとセフレを続けるのもしんどくなってきた。
そろそろ潮時なのかもしれない。

私はキュッと唇を噛み、寝室を出た。
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