風と水の物語

木野恵

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4.より良い贈り物を

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 水の精は風の精たちへの感謝の気持ちが増すばかりです。

 日を重ねるごとに、水の精は風の精たちにもっと良い贈り物をしたくなりました。

 お返しではなく、贈り物です。

 なにかをしてもらったから返す仲から、なにもなくても、なにかを与えたい仲へと変わったのです。

 かつて、風の精たちが水の精にしたように、なにもなくても何かしたい気持ちが芽生えました。

 しかし水の精は悩みます。

 虹はもう見せてしまったし、水のメロディも披露済みです。風の精たちに姿を与えて、あとは何ができるのか、考えて悩みました。

 風の精たちが何を欲しがっているのかもわかりません。

 水の精は、わからないなら直接聞いてみようと思いました。虹のときのようなサプライズも良いけれど、何も浮かばないのだから仕方がありません。

「風の精さんたち。今お時間良いでしょうか?」

 水の精は少し緊張しているのか、かしこまった様子で尋ねました。

 風の精たちは不思議そうにしながら水の精へとそれぞれ返事をします。

「どうしたの? 水の精さん?」

「もう付き合いが長いのに改まっちゃって」

「心配ごと? なにかあった?」

「ホームシック?」

「わかった! 思春期!」

 風の精たちは口々に思ったことを口にしました。

 水の精は笑い声をあげながら首を横に振ります。

 風の精たちも一緒に、それぞれの質問が面白かったらしく笑い合っていました。

 しばらくみんなで笑い合い、落ち着いてきた頃です。

「ところで、水の精さん、どうしたのですか?」

 風の精の一人が水の精に改めて聞き返しました。

 水の精は少し首をかしげ、何を聞こうとしていたか思い出そうと頑張りました。

 みんなで笑っている間、聞こうとしていたことがどこかへお散歩にいってしまったようです。

 しばらく考え込んでいると、水の精の元へ散歩にいっていた考えが戻ってきました。

「風の精さんたちは、何かほしいものや願い事はありませんか?」

 風の精たちのために何ができるか、何をあげられるのかを考えるために、なにを聞こうとしていたのかを思い出せた水の精は、少しさっぱりした表情です。

 風の精たちはそれぞれ考え込んでいる様子です。

「姿はもらえたし……」

「自由気ままにあちこち行けてるもんなあ。これ以上ないくらい自由だもんな」

「水の精さんのお話は私たちにはとても新鮮で退屈しない」

「だって僕たち水の中にはいけないからね」

「わしらの話を水の精殿にするのも楽しい」

「これ以上ほしいものなんて浮かばないよー」

「あっ! また虹見せてよ!」

「そいつはいいな!」

「にーじ! にーじ! にーじ!」

 最後には風の精たちによる虹コールが巻き起こり、水の精は照れ臭そうに、自信がなさそうにしながら虹を見せるために体を動かしました。

「またうまく見せられるかわかりませんよ?」

 水の精は自信無さそうですが、風の精たちは期待に目を輝かせつつも、うまくいかなかったらいかなかったで代わりに雲の遊びでもしようと提案してくれました。

 水の精は少し安心しながら体を一生懸命動かします。

 運良く今日は良い天気です。太陽が輝きながら世界を照らしています。

(虹がちゃんと出せますように)

 祈るように、願うように、水の精は一生懸命動きました。

 風の精たちの笑顔が見たい一心です。

「あっ! 虹が出た!」

 風の精のひとりがおおはしゃぎしながら歓声をあげて指を指しています。風の精たちの笑顔がどんどん広がっていきます。それは太陽に負けず劣らず眩しい笑顔です。

 水の精には、風の精たちの笑顔が虹よりも綺麗に見えました。もしかすると、それは他のどんな宝石よりも綺麗でかけがえのないものかもしれません。

 水の精も、風の精のみんなと一緒に虹を見て心が踊りました。

 心なしか、前よりも虹がはっきりと見えます。

 そこで水の精は思いました。

 与えたことのないものを考えるのも良いけれど、与えたことのあるものにいっそう磨きをかけるのも悪くはないのかもしれません。

 みんなの笑顔が見たいから、みんなの笑顔が大好きだから、みんなのことが大好きだから、水の精はやる気に満ち溢れてきました。

 水の精のはじまりは、世界への好奇心で旅に出たいという欲求でしたが、仲間に恵まれた今では、みんなの幸せのために何ができるかを考えたい、何かしたいという欲求でした。

 こうして水の精は、自分のできることに磨きをかけて成長することを目指しました。
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