雫物語~鳳凰戦型~

くろぷり

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騎士への道

王立ベルヘイム騎士養成学校31

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力まかせに突き出した剣は、ラタトクスの緑の波紋に止められた。

止められはした……しかし、攻撃を加えられたラタトクスは少しづつ後退していく。

元の位置に戻ろうとする前に、次の攻撃が加えられる。

綺麗な正方形のフィールドを作っていたラタトクスの緑の光は、歪み始めていた。

「攻撃してこねぇなら、一方的に攻撃を叩き込んでいくぜぇ! ニミュエ、スピードアップの魔法も頼む!」

「ですから、私の使える魔法は……もぅ、分かりました! 何も言いません! スピードアップの魔法ですね! はいはい……」

ニミュエは純白の修道衣を翻しながら、左手を胸の前に突き出す。

小さな口から、更に小さな声で魔法が詠唱されていく……早口で紡がれていく言葉は、進んでいく毎にニミュエの左手に光を集める。

「我が魔法具に4幻の力を! エレメンタル・グラント!」

ニミュエの左手に集まっていた光は、魔法の詠唱の終了と共に四散した。

その光の行き先は、ガラードの纏う鎧……白き鎧が光に包まれていく。

「うらぁぁぁぁぁ!」

ガラードの持つカリバーンの剣速が増し、緑の波紋に弾かれる時に生じる音が大きくなる。

カリバーンと打撃と……次々に繰り出される攻撃は、決して綺麗でも格好が良い訳でもない。

しかし、ガラバはその動きに見惚れてしまっていた。

叩き付けるような攻撃は一点の曇りもなく、緑の波紋に弾かれる事も意に介さず続けられる。

その瞳に、絶望の色は無い……

「ボーッと見てんじゃねぇ! 聖剣なんざ、ただの道具だ! 光の加護が効かない相手なら、叩き付けるだけだろ! 逆側を押し戻せ! 緑の壁を歪ませりゃ、何かが起きると信じるんだ!」

ガラードの言葉で我に返ったガラバは、ガラディーンを強く握る。

父親であるブレスタからは、常に聖剣を聖剣として扱うように指導を受けていた。

聖なる力で闇を滅せよと……

だが、仲間が窮地に陥っている状況で、聖なる力が無力だとしたら……

ガラバには、次の選択肢が無かった。

ガラードが現れる前までは……

「聖女殿、僕にも……いえ、私にも魔法の力を付与して頂く事は可能でしょうか? 私の目指す騎士道は……私の憧れる騎士様は、見ず知らずの人々も救っていた。知っている人達も救えないで、そんな高みを目指す事なんて出来やしない! なりふり構ってなんていられない……彼から学ばせてもらった……」

「聖女って私の事? あの……もちろんです。ガラードから学んだって所が少し引っかかりますが……あの中には、私達の戦友もいるのです。救って下さい……お願いします!」

ニミュエの魔法が、ガラディーンにも力を与える。

聖なる力ではなく、物理的な力の向上……その力を感じながら、ガラバは荒々しくガラディーンを振った。

それまでの剣技など、見る影もない。

しかし、その力がラタトクスを押し下げる。

ガラードによって押し込まれたラタトクスの反対にいたラタトクスは、適正な距離を保つ為に押し込まれた分後退していた。

そこにガラバからの攻撃が加わった為に、思う様に後退出来なくなっていく。

緑の壁は確実に歪になり、完全に密閉されていた場所……四角い緑の箱の右上から闇が漏れ始めた。

「ガラード、開いたわ! 楔を穿て! ラピス・クネウム!」

ニミュエの右手が輝き、闇が漏れている場所に何かが挟まる。

その何かが、閉じようとする緑の壁の動きを抑えた。

「長くは持たないわ! ガラード、早く!」

「航太、一瞬だけ光を届けてやる! カリバーン、闇の中に光を燈せ! りゃああぁぁ!」

高々とジャンプしたガラードは、カリバーンを横に薙ぎ払う。

カリバーンの描く軌跡が閃光となり、閃光に触れた部分だけ闇が四散していく。

閃光が通り過ぎた瞬間、魔法の楔は弾け飛び、闇が漏れなくなってしまった。

「一撃で決めてみせろよ、航太!」

一瞬の閃光、その瞬間にガラードの声が航太の耳に響く。

スローモーションの様に流れていく閃光……

僅かに見えたニーズヘッグの姿……

真空の筈の空間で、エアの剣が風を起こす。

風が閃光を絡み取り、竜巻の様に回転する風が聖なる光を纏って、闇を払い除けていく。

「そんな……ラタトクスの作り出す空間で、風を起こすなんて……ありえないですわ!」

「ありえねぇってんなら、それでもいいが……これが現実だ!」

エアの剣が鎌鼬を発生させて、ニーズヘッグに迫る。

「闇を払っただけで、私に勝った気でいるのかしら? そんな単調な攻撃に……!」

翼を広げて空中に飛び鎌鼬を躱したニーズヘッグは、降下しながらフラーマ・シュヴァルトを航太に振り下ろそうとした。

が……

その攻撃は、フェルグスの伸ばしたカラドボルグによって妨害される。

ニーズヘッグ目掛けて一瞬で伸びたカラドボルグ……しかし、その攻撃はフラーマ・シュヴァルトによって間一髪で防がれた。

「カラドボルグか……神剣2つを相手にするのは、流石に厄介ね……」

「神剣じゃねぇ! 人間を相手にする事が厄介だって事を教えてやるぜ!」

エアの剣からの……航太からの攻撃に備える為に下を向いたニーズヘッグは、上からの攻撃に無防備だった。

伸ばしたカラドボルグを蹴って跳んだ銀色の閃光……一筋の矢の如く、ニーズヘッグの頭を剣先が捉える!

長い黒髪を靡かせ振り向いた時、既に防御が間に合わない距離までゼークの刃は迫っていた……
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